二話 対面
久遠「さあ、着いたぞ。これが爲田城だ」
久遠さんが指さす先に城が見えた。何度か見たことはあったが、近くで見るとこんなに大きかったんだな・・
爲田城ためだじょうは、宰川軍の本拠地だそうだ。俺たちはまだ武士ではないので、候補生になるため許可を貰う必要がある。
普通は候補生になるために申し出る機関があるのだが、俺たちは久遠さんからの推薦ということになるらしい。
そして、許可をもらうために大将である「宰川上午さいかわじょうご」とやらに誠意を見せなければならない。
別に武士としての志は高くないのだが、生きるためにはやらなければいけない。
久遠「さあ、馬から降りろ」
了斎「やっとか・・・・いてて」
了斎は俺の体にしがみついて乗っていたので、かなり体が痛そうだった。
俺「大丈夫か?」
了斎「ああ」
城に入る前に、久遠さんから注意点を三つ聞いた。
まずは『丁寧過ぎる言葉を使わないこと』。宰川殿は過度に慕われることを好まないらしい。
次に『堅苦しい表情をしないこと』。宰川殿は悲観的な人間が好きじゃないらしく、なるべく楽観的に見せたほうが良い。微笑む程度の表情がちょうどいいとのことだ。
最後に『反論をしないこと』。宰川殿は精神力を推し量るためにかなり挑発的な言動を取ることもあるらしいが、絶対に納得ができない時以外は反論をしないほうがいいそうだ。
久遠さんは早足で進んでいく。
武具を身に着けているにも関わらず、俺たちよりも軽々と坂を上がっている。やはり只者ではない。
俺「何だこの曲がりくねった道は・・・・」
敵軍を惑わすためにかなり複雑な道のりになっている。
だが、これでは宰川軍の兵士も迷ってしまうのでは・・・・?
了斎「こんなの覚えられないぞ・・」
久遠「一気に覚えろとは言わん。たくさん歩いていくうちに分かってくるさ」
久遠さんとずっと話しているうちに、だんだん肩の力が抜けてきていた。
しかし、門を目の前にすると一気に緊張感が増した。まず門番が二人、俺たちの顔を凝視してくる。
久遠「武士を希望する者たちだ。術も持っている」
久遠さんがそう言うと、門番は一歩下がった。
了斎「久遠さんって発言力があるんだな・・・・」
了斎が感心していた。
俺は注意点で頭がいっぱいなんだよ・・
久遠「一応幹部だぞ。敬語を使っていない君たちが特殊なんだ」
確かにそうだ。ただ、初めは敵だと思って話してたからもう敬語に戻すのは難しいんだよな・・
俺「敬語使ったほうがいいのか?」
久遠「今更必要ないよ。オレには好きに話してくれ」
そう言っているうちに、俺たちは大広間の目の前まで来ていた。
久遠「宰川殿、武士を志す者を連れてきた」
久遠さんが言うと、宰川とやらが俺たちに視線を向けた。すぐさま久遠は俺達から離れていった。
おい・・俺たちだけで話さなきゃいけないのかよ!?
久遠さんが多少説明してくれるんじゃないのか?
そんな事を考えていると、宰川が口を開いた。
宰川「早く話せ」
俺「何を話すんだよ!! お前の方こそ何とか言えよ!」
俺が言い返した瞬間了斎に腕をつねられた。
俺「痛っ!」
了斎「馬鹿、反論するなって聞いてなかったのか」
小さい声で了斎に警告された。
宰川「よーく見ると、隣にいるやつも背が小さいな。子供が入ってきたのかと思ったが」
追撃してきた。
駄目だぞ了斎。言い返すなよ・・・・
了斎「はぁ!? お前も対して変わらないだろヒゲおやじ!!」
終わった・・・・
宰川「・・・・なるほど」
宰川は特に言い返してこなかった。
そりゃあそうか。試されてるんだもんな。
宰川「まず、君たちがここに来た経緯を話してもらおうか」
ようやく真面目に説明ができる。
俺「はい、すみません・・・・俺たちは五歳のときに親を殺され、それから十年間孤児として生きてきました。そして先刻、町にいる武士に金銭を巻き上げられそうになりました。そこで俺が地割れを起こして何とか逃げたところで、久遠さんに会いました」
割とうまく話せたんじゃなかろうか。
了斎「清次、敬語・・・・」
呟くような声で言ってきた。
忘れてた・・・・今のところだめだめじゃないか俺。
助けを求めようと久遠さんの方を見た。
すると、久遠さんは口角をつりあげる動きを見せてきた。
了斎「あっ・・・・笑顔・・・・」
結局、注意点をすべてやらかしてしまった。
終わったな・・・・
了斎「清次、お前はもう喋るな」
もう任せるしかない・・俺はとりあえず笑顔でいよう。
久遠「ちなみに、その例の武士は真栄田軍の兵士である可能性が高いらしい。もしくは、真栄田軍を抜け出した者だ」
宰川「真栄田軍に、と言ったか?」
宰川の目つきが変わった。宰川上午さいかわじょうごと真栄田斬豪まえだざんごうは俺が生まれる前から対立しているらしい。
了斎「五人の兵士だった」
了斎が注意点をしっかりと踏まえて答えた。
宰川「久遠、少年たちの話していることは事実か?」
久遠「ああ。すべて事実だ。地割れの術を使っているところも目撃している」
宰川「なるほどな」
宰川が自分の髭をいじくりながら言う。
宰川「それで、結局この軍に入りたい理由は何だ? 親の仇を探すのか?」
俺たちの故郷の町どの領地にも属さない小さな町だった。
位置的にはどちらの軍の兵士がやっていてもおかしくないが、宰川軍ならかたきを討つ事もできるかもしれないってことか・・
もし宰川軍に仇が居るのであれば、同じ軍だとしても殺してやる。
とりあえず、それも理由として入れておくか。
俺「それもある。だが、一番の理由は生活が苦しいからだ。武士になれば最低限の衣食住と地位は保てるんだろ? 一生その日暮らしを続けるなんて俺は御免なんだ」
この際、全て言ってしまおうと思った。
どうせ俺たちは候補生にはなれない。
了斎「ばか、そこまで言うな」
小さな声で言われた。
俺「正直に言わないとしょうがないだろ」
すると、宰川が豚のような音を出して笑い出した。
宰川「いいぞ、気に入った。お前たちはこのまま候補生となることを認める。久遠の推薦ということでいいな?」
は・・?
やってはならないことを俺は全てやった。
何なんだ?
久遠「問題ない」
そう答えた久遠さんに目を移すと、久遠さんは笑顔でこちらを見ていた。
候補生になることを許された理由は分からないが・・とりあえず、喜んで良いのかな?
小さく久遠さんにお辞儀をすると、宰川が話し始めた。
宰川「詳しく話が聞きたい。久遠、客室にこの少年たちを連れてこい」
久遠「いいのか? あの場所は候補生が入っていい場所じゃないが」
宰川「構わん、この二人からは他と違う雰囲気を感じるからな。俺に先見の明があることはお前も知っているはずだ」
宰川がすぐに立ち上がり、移動していった。
他の武士からの視線をとても感じる。期待の眼差しを向けている者もいれば、妬んでいる者もいるようだった。
久遠「御意。では行くぞ。了斎、清次」
久遠さんが手招きした。
俺・了斎「わかった」
長い通路を渡った先に、客室らしきものがある。
客室の中に宰川がいるのが見えた。
久遠「じゃあ、行って来い」
久遠さんに肩を優しく叩かれた。その勢いで戸を開けた。
宰川「いいぞ、座れ」
二人で宰川の正面に座った。
一体何なんだこれは。
宰川「まず、名前を教えてもらおうか」
一気に宰川の口調が普通になったような・・
試すために挑発してくるというのは本当だったんだな。
俺「俺は清次だ」
了斎「わしは早田了斎」
宰川「早田?」
宰川も早田という名字に反応した。やっぱり有名なんだな。
了斎「ああ。代々炎の術を継いできた家系らしい」
宰川はそのことを元々知っていたみたいだが、早田家はずっと真栄田軍の幹部をやっていたらしい。
了斎「真栄田軍に属していた家系が入ってくるというのは、そっち的にどうなんだ?」
確かにお互いやりづらそうだ。
宰川「過去の話は関係ない。歓迎する」
意外と柔軟な思想の持ち主のようだ。
大将って、もっと堅い頭の人間なのかと思っていた。宰川が特別なのか?
俺「術があるとは言ったが、俺たちはまだ術を扱いきれていないんだ」
宰川「故意に使うことができないということだな? それは気にするな。全員そこから始まるんだ」
やはり、誰でも最初は術を使いこなせないようだ。鍛練を重ねるしか方法はないか・・
だからこそ、宰川殿は候補生という制度を用意しているのだろう。
宰川「では、ここで正式に君たちを候補生として認める。そして、これはここだけの話だが・・君たちが術を使えるようになったら、他の武士よりも早い段階で幹部に入れることを約束する」
俺・了斎「何故だ?」
もちろん、活躍の場面が多い術は存在する。
そして、活躍しやすい術の使い手は幹部になりやすいらしい。
俺「なるほどな。では宰川殿の術はどのようなものなんだ?」
宰川「俺の術は即時回復だ」
宰川殿は、どのような負傷も一瞬で治るらしい。戦闘よりも生存することに重きをおいた術だが、大将の場合戦うことが少ないから生存力の方が重要らしい。
ただ、傷が治るとは言え老化や病気には抗えないみたいで、じわじわとした攻撃にも弱いらしい。
正直、こんな話をしていないで早く術の鍛錬をしていのだが。
了斎「ところで、わしらの住む場所や鍛錬する場はどこなんだ?」
強引に話を変えたな。
宰川「これからは共同で住んでもらう。家があるからそこで生活するんだぞ」
一軒家が用意されてるのか!?やはり大きな軍は待遇が良いな・・・・
俺『鍛練の場所は?」
宰川「洞窟の中だ」
洞窟の中・・・・?
俺らは身柄を拘束されるのか?
了斎「何で洞窟の中なんだ?」
宰川「地割れも炎の術も、外で使うには危険過ぎる術だからな」
確かにそうだが・・洞窟なんて暗すぎて集中できないんじゃないか・・?
宰川「案内は結城にしてもらう」
宰川が結城さんを呼ぶと、女性がこっちまで歩いてきた。
宰川「二人を案内してやってくれ」
結城「かしこまりました」
結城さんは久遠さんの母親らしい。親子揃って宰川軍とは。
了斎「よろしくお願いします」
了斎が綺麗なお辞儀をした。
俺「了斎はいっつも女性にばっかり礼儀正しくするよな」
了斎「世渡りが上手いと言ってもらいたいな」
自慢気に言ってきた。
俺「別にお前は世渡り上手くないだろ!」
俺と大して変わらないと思うんだが。
結城「はいはい、喧嘩しないの。もうそろそろ着きますからね」
急に話しかけられたので驚いた。
俺「は・・・・はい!」
駄目だ、声が震えてしまう。
了斎「お前何緊張してんだよ」
了斎に背中を叩かれる。
俺「そんな事言うお前だって、武士になれると確定した途端急に饒舌になったよな!」
了斎がこっちを睨みつけてきた。
結城「ふふ、本当に仲がいいのね」
笑顔で結城さんが言った。
俺「まぁ・・・ずっと一緒に生活してきましたし」
結城「あら、そうなの?」
意外と無神経だなこの人。
俺「孤児なので」
結城「悪いことを聞いたわ。ごめんね」
了斎「気にしないでください」
しばらく沈黙が続いた。
歩き続けると、大きな家の前にきた。
結城「ここがあなた達の暮らす場所よ」
俺「これが!?」
了斎「本気で言ってるのか!?」
結城「本当よ」
俺たちは舞い上がった。想像以上に大きい家だった。二人で暮らすと持て余す程のいい家だ。
結城「今日は疲れているだろうからゆっくりしてもいいけど、明日からは鍛錬頑張るのよ」
俺・了斎「はい!」
そう言うと結城さんはここを去っていった。
了斎「・・・・・・お前、結城さんのこと好きだろ」
俺「お前だろ」
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