恐怖買取屋
夢見月 みつか
1話 トラック
この話は俺が長距離トラックの運ちゃんをしてた時の話だ…。
もう、十何年も前の話になる。
その日はたしか…金曜日だったかなぁ?俺の会社は毎週土日が休みだったんだ、ありがたいことにな。
次の日は休みだー、とか思って仕事してた記憶があるから間違いない。
今日のノルマを終わらせて、会社にトラックを返しに行こうとした時…
プルルルル
電話がなった。
「あー、もしもし?」
「…なんだよ?もう俺は帰りだぞ?」
会社からの電話だった、だがこういう電話は必ずと言っていいほど追加の仕事の電話であることが多い、とりあえずダメ元で先手を打ってみたが…
「いやいや近くにいるの君だけなんだよ、申し訳ないんだけどね?今君が行ってる……」
やはり、ダメだった。
話を要訳すると、隣県にある企業が部品を早く欲しがってるから、ちょうど近くにいる俺に取りに行って運んでくれとのことらしい。
正直めんどくさいし、時間もかかるからやりたくなかったが、ほら?働いてる身としてはNOとは断れないだろ?だから、仕方なく行ったんだよ。
走って20キロくらい走ったところで、部品…荷物が置いてある会社に着いて、載せて、たしかこの時点で日が暮れかかっていたから、17時頃ぐらいだったと思う。
さらにこれから数時間かけて運んで…あぁ、これは日を跨ぐなぁって考えながら黙々と走ってたんだ。
で、高速道路に向かってる時に…
プルルルル
また電話
今度はなんだよ、と思いながらでると
「もーしもーし、
ドライバー仲間の
「いやぁ参ったよ、高速道路で大きな事故あったみたいで渋滞起きててさ、まったく動かないんだよ!もぉ暇で暇で…」
「…今日おまえ、どこいってるんだっけ?」
「俺?S県だよ」
「よかったぁ、こっちの高速が渋滞してるのかと思ったわ」
「ん?なに?なんかあったん?」
「いやさ、追加の荷物をさ…」
そこから仁川に追加の仕事が発生したことを説明した。
「あー、そりゃあご愁傷さまだな。あ、じゃあ暇だしそっちの高速の状況も見てやるよ」
「おう、助かるわ」
仁川は何かと気が利く良い奴で、よくこういうことをしてくれる、非常にありがたい奴だ。
「…あちゃー、そっちもなんだか渋滞してるみたいだぞ?」
「…まじか?高速使えないのはきついなぁ」
「…あ、山道だが近道があるぞ?」
「ほんとうか?少しでも早く行けるのは助かる」
そこから仁川は都心部からだいぶ離れた山道へ続く道を教えてくれた。
「たしか、その山道を行けば早く行けた気がする」
「…おっけー、道覚えたわ、ありがとな」
「いやいや、暇だったから全然大丈夫。じゃ引き続きがんばれよー」
電話が切れた。
そこからは仁川に教えてもらった、道を走った。
山道に入る頃には完全に日が暮れて19時頃だったと思う。
そこから曲がりくねった山道を登り、降り、数時間走って、ようやく荷物を渡す会社についた。
そこで荷物を降ろして…気付けば23時頃、今から帰ることを考えると少し億劫になるが、この仕事をしているとよくある出来事、仕方ないと自分に言い聞かせて、またトラックを走らせる。
もう高速の渋滞も無くなっているだろう…だけど、その時俺は何を思ったのか、またあの山道を通って帰ったんだよ…。
もう、その頃には走ってる車は1台もなくてな?走りやすいなぁって思ってスイスイ走ってたんだ。
で、山の下り道に差し掛かる手前で…
ドンッ!!
…って音がトラックの前からしたんだよ、けど衝撃は一切なくて…。
あまりに音が大きかったもんだから、俺さビックリしちゃってさ…トラック停めて外に出て確認しに行ったのよ。
…音の大きさ的に狸とか猫とかハクビシンとかじゃなくて、鹿とかの大きな動物に当たったかなぁって思ってさ?
恐る恐るトラックの前に行ったのよ、そしたらさ…
なにもいない。
なにもいなかったんだよ、けどさ走ってるスピードと音の大きさ的に、少し当たってそのままどっか行くのは出来ないと思ったんだよ。
だからさ、おかしいなぁって辺り見渡してるとさ…
「おーーい!誰かいませんかー!」
…声が聞こえてきたんだよ!しかも山道にあるガードレールの下からさ…
「おーーい!」
俺さその時、冷や汗が止まらなくてさ、すげぇ怖かったんだ…だってさ?
その人は声を上げてるから、生きてはいるんだろうけど、こんな暗い山で負傷してる…
急いでガードレールに近寄ってさ、下にいる人に呼びかけたんだよ!
「おーい!!大丈夫ですかっ!!」
「誰かー!助けてくれー!」
…助けてくれー!って、相当ヤバイ状況なんじゃないのか!?って思ってさ!慌てて警察と救急車を呼んだんだ。
警察に連絡してる間も下から
「苦しいー、誰かぁー、」
…ってずっと聞こえててさ、俺もう…、罪悪感でどうにかなっちまうんじゃないかって…
下は真っ暗で、とてもじゃないが探しに行けないし…警察がくるまで、少しでも不安にならないように必死に声をかけたんだよ。
「大丈夫ですかー!警察を呼びました!すぐ来ます!待っててください!」
「…苦しいぃぃ…息がぁ」
「大丈夫ですかー!!ほんとにごめんなさい!僕はここにいます!大丈夫!!」
自分でも何を言っていいか分からず、根拠もなく「大丈夫」って言って元気づけるのが精一杯で…
喉が枯れるくらい叫び続けましたよ…もう必死で。
そうこうして、数十分経ったところで
ウ〜ウーウ ウ〜ウーウ
複数のパトカーがサイレンを鳴らしてやってきた。
もう、サイレンの音が聞こえたからか安堵しちゃって…思わず膝から崩れ落ちちゃったんですよ。…まだ、何も終わってないのに。
「聞こえますかー!パトカーの音です!もう助かりますよ!」
最後の元気づけに大声で伝えたんですよ。
返事がない
「お、おーい!!大丈夫か!!」
返事がない
安堵したのもつかの間、返事が無くなってしまい冷や汗が止まらない。
もう一度呼びかけようとした時…
バタン!
「大丈夫ですかー!」
警察官が駆け寄ってきた。
「先程通報された方でよろしいでしょうか?」
「あ、はい!この下に男性が…」
「この下ですね?分かりました。」
そう言うと、複数の警察官に辺りを捜索するように指示をだしはじめた。
「あの、先程までは声がしてたんですけど…聞こえなくなって…」
「ほんとですか!おい、急いで捜索しろ!」
それからは警察官10人程で捜索を始めた、俺はというとドライブレコーダーを提出して、事情聴取を受けていた。
それから数分経った頃だろうか?
事情聴取をしていた警察官に捜索していた警察官がコソコソッと耳打ちをした。
「…ん?どういう事だ?…あ、ちょっと待っててくださいね?向こうで少し話してきます。」
そう言うと警察官は少し離れた場所に行き、捜索していた警察官複数人とドライブレコーダーを見たり、何かを話し始めた。
それを見てさ、あぁ、手遅れになっちまったのかな…って考えちゃって、冷や汗が止まらなくなったのは凄く覚えてる。
でさ、気が気じゃないもんだから、声をかけたんだよ
「す、すいません…男性は大丈夫だったんでしょうか…?」
「…えっと、ですね…。」
警察官が言い淀む、そんな姿を見て落ち着けるわけないじゃないですか、もう動悸が早くなって、冷や汗が止まらなくて、やっちまった…って思ってると
「…結論からいいますと、人が死んでいました。」
「…あ、っえ」
分かってたんですけど、いざ言われると声が出なくなっちゃいまして…。けど警察官の人は続けてこう言うんです。
「ですが、たぶん貴方とは無関係だと思います。」
「え?」
「いやね?その死体と言いますか…首を吊っていましてね?遺書も一緒にありました。」
「え、いや僕が跳ねた人は…?」
「…んー、それがですね、ドライブレコーダーの方を見せてもらったんですが…確かに
「え?」
少し警察官が言い淀んだ気がしたが、それ以上に何の跡も無いことに驚いた…だってあんなに大きな音だったのだから。
「…いやぁ、他に人がいないか確認してるんですが…山道を転げ落ちたりした跡とかもないんですよねぇ」
「え、でも声が…」
「我々もこういったことに遭遇するのは稀なんですがね?…時々あるんですよ、ほらオカルト…幽霊みたいな話が」
自分が跳ねた人が幽霊だったって聞かされて、混乱しない方がおかしいですよね?
もう、警察官の人が何言ってるか意味わかんなくて…
「…ま!という訳ですから、貴方に非はありませんし!事故も起こしていません!」
「あ、はい」
「ですが、一応署の方まで来て貰って、もう少しだけ事情聴取させてください。ほら、この人数の警官を夜中に捜索させちゃうと…ね?」
その後、山道を降り警察署で事情聴取を受け、気付けば朝になっていた。
警察署から出てトラックに乗り込む。
「はぁ、」
事情聴取を受けてる間も現実の出来事か分からず、ぼーっとしてしまった。
だって、俺は聞いたんだ…助けてくれって声を…。
あれが死んだ人が出した声なんて信じられなかった。
ふと、思った。ドライブレコーダーは自分で確認してないなと…。
ドライブレコーダーを手に取り、時間を遡って見てみる。
「…ここからだ」
トラックが山道を登っていく…
ドン!!
衝突音が鳴り響く。
声がでなかった…俺はあの時こんなの……
ドライブレコーダーの映像には…
「ああああああああああ!苦しいぃいいいい!助けて助けて助けて助けて!」
首を縄で締められた男がフロントガラスに張り付いて叫んでいた。
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