第8話 彼女の手は意外とひんやりしていた

 アルメリーは妙にそわそわして後ろをついてくる。

 今は胸を強調した町娘のような格好で、聞けばこれと皮鎧しか持っていないそうだ。

 服の至る所がほつれかけていて、傷みが激しい。

 本当に節約生活が長いのだろう。


 通りを行きかう冒険者を捕まえて、ガダンさんが言っていたアンダン亭という店への道を尋ねる。

 場所はすぐに知れた。

 目立つ店という理由もすぐにわかった。

 どういう理屈か、外観がネオンのような煌びやかな光で覆われている。

 暗い通りの中で異様に目を引く。


「アルメリーさん、どうして隣を歩かないんですか?」


 入り口の前に来て振り返った。

 道中、試しに足を止めてみたものの、彼女もピタリと止まって横には並ばなかった。


「仲間になった順番があるから」

「順番?」

「新しい仲間は、少し離れた最後尾でみんなを守る役目があるの」

「……それは、誰かに聞いた話ですか?」

「私が入ったパーティはみんなそうだった。結局仲間には入れてもらえなかったけど……」


 アルメリーさんは当然のように言う。

 けれど、それはたぶん嘘だ。

 パーティの仲間とわざわざ距離を空ける理由はない。

 それに、少し前に出会ったタニアンという男のパーティは新しい仲間のルイスを中心に置いていた。

 アルメリーさんと距離を置く為の理由作りだろう。


 この人、どれだけ嫌われてるの?

 内心でため息を吐きながら、口を開く。


「知らないんですか? それは臨時でパーティに入った時だけです。本当の仲間の場合は隣を歩くのがルールです」


 だから、彼女の常識を嘘で上塗りした。

 嫌われてるからですよ、と言うより傷つかない方法で。

 アルメリーさんは驚いたように目を丸くし、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。

 そして、戸惑うような仕草を見せつつ、そろりそろりと上目遣いで近づいてきた。

 何これ。かわいい。


「ほんとに? 新しい仲間も隣を歩いていいの?」

「もちろん。ちなみに一番目の仲間とは手をつなぐのが本当のルールです」


 調子にのって冗談も言った。

 今日の昼間、初めて異世界にやってきた人間がルールなんて知るはずがないのに。

 けれど、アルメリーさんは目を輝かせてさっと俺の手をすくうように握った。


「えっ?」

「仲間ってやっぱりいいね! なんか温かくて気持ちいい」

「……仲間、ですからね」


 どこまでも純粋な彼女の手を少し強く握った。

 俺の手よりは体温が低かった。

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