第2話
(ヒィィイ!まずいまずい!なんで?なんでいるの?!)
バレたら多分殺されるのでサッと教科書で顔を隠す。
「え?…え、ちょっと花子。あのタトゥーまみれの男って、まさかアンタがさっき言ってた…」
小声で話す優子に対し、私はコクコクと首を頷かせた。
(そのまさかなんだわ優子…てか本当に何なのあの人達!まぁ反社なのは確定だろうけど…にしてもチワティー、この人達から金でも借りたのか?だからその取り立てに学校まで…!?)
そう憶測したその時。
カチャ。
(え?)
なんとタトゥー男は白人男の後頭部に拳銃を突きつけたのだ。
(うおぉぉぉおお!?ちょいちょいちょい!?!?)
「…ぁ」
途端に青白くなる白人男。
そしてその状態のまま、タトゥー男は静かに口を開いた。
「…なぁトム、俺学校についてくるのは許可したけど、先生の胸ぐら掴んで怒鳴れなんて命令してねぇよな?あ?」
「あ…ぁ…バ、バンリ様…!」
「何勝手にでしゃばってんの?ボケっとしてねぇでさっさと手ェ離せ 」
そう言って、スキンヘッドの頭にゴリゴリとチャカをねじ込ませる。
((((こっ、怖ェ〜〜!!!))))
今この瞬間、私たちのクラスは恐怖という感情でひとつになった。
「す、すいません!バンリ様!!」
トムと呼ばれた白人男がチワティーから手を離しすと、バンリ様もチャカを上着の内ポケットにしまう。
「あー先生、うちの馬鹿が出すぎたことをしてしまってすみませ…って、オイ、トム。お前がビビらしちまったせいで先生泡吹いて気絶してるじゃねェか。さっさと保健室連れてけよ」
「あ…はっ、はい!!」
トムがチワティーを抱え慌てて教室を出ていくと、ずっと黙っていた黒人の男が咳払いをして言った。
「…えーでは、佐藤先生が気絶してしまったので代わりに私がHRを行わせて頂きます。」
(いやなんで?!アンタ部外者だろ?!?!)
そうツッコミたいのをグッとこらえる。
なんと言っても相手はチャカ持ちの反社。ここは大人しく従っておくのがベターだ。
コツコツ…
教室には謎のムキムキ外国人が黒板に文字を書く音だけが響く。
そして彼は黒板に何か文字を書いた後、衝撃的なセリフを口にした。
「よし、それでは皆様に転校生を紹介します。」
「………は?」
思わず声が漏れてしまい、慌てて口を抑える。
(あっぶな今ツッコミかけた〜!え、でも待って、転校生って……このバンリ様とか呼ばれてる男が?!えーうわマジか、えっ、借金取りじゃないの?てかそのビジュアルで高校生は無理あるくない?)
教科書で顔を隠しつつチラッと黒板に目を向ける。
そこにはとても綺麗な字で『百目鬼・ウィリアム・万里』と書かれていた。
(読めねぇ〜〜!)
「では万里様、自己紹介お願いします」
「えー、香港から来ました。
そう言って彼はペコッとお辞儀をした。
(あーはいはい、なるほど香港ね〜。怪しさ満載のビジュアルに加え、高校生とは思えない程手馴れたチャカの扱い。そして父の組織…これから察するに、お父様のご職業は香港マフィアってとこかしら?ふふっ、よろしくできね〜)
私はもう、なんか1周回って穏やかな気持ちで話を聞いていた。
(まずいまずい♪ホントにまずいな〜!マフィアの息子にあんな態度とっちゃったんだ、私。もぉー、花子ったらおてんばなんだから!うふふふ!もういっそ殺してくれ。)
やっぱり穏やかじゃいられなかった。
「あと、1つ言いたいことがあって…」
「?」
彼のその言葉に反応し、なんだなんだと顔を上げたのが運の尽きだった。
「…!ひっ…」
百目鬼・ウィリアム・万里は私を見ていた。
しかも瞳孔バッキバキで。
慌てて再度教科書で顔を隠そうがもう後の祭りである。
(あ、終わった。え、なんで?なんで見てるの?あ、さっき私が殺してくれって思ったから?いやいや嘘じゃん、全然まだ生きたいんだけど。120とかまで。ギネス載るレベルで。てか、え?心読んだの?えー怖怖。何なんですか?エスパーなんですか?)
私がそんな事を考えている間にも、百目鬼・ウィリアム・万里は近づいてくる。
助けを求めようと横目で優子を見れば、もう既に私の遺影に向け合掌していた。
(この優カスがぁぁあ!私まだ死んでねェから!てかアイツなんで私の遺影持ってんだよ?!うーわ線香上げ始めたよマジありえねぇ)
そして遂に彼が、私の机の前でピタリと足を止めた。
線香臭い中、じわっと嫌な汗が流れる。
恐る恐る教科書を下げると、再び瞳孔バキバキ☆万里様と目が合った。
(…今から人殺すヤツの目じゃん……)
「田中花子さん、だよね?」
開口一番、目の前の男はそう言った。
「…え」
(ヒィィ!なんで名前知って!?)
「ほら今朝、俺と曲がり角でぶつかったよね?覚えてる?」
「あー、えーっと……」
忘れたとは言わせない。そんな無言の圧を感じた。
(クッソォ〜!いざとなったらしらばっくれようと思ったのに謎に圧凄いし、なんか名前バレてるし!)
私が彼に無礼を働いたことを認めようものなら、先程トムに向けられていた銃口が、今度は私の方に向いてしまうかもしれない。
だがしかし、バッチリ顔を見られている上に名前までバレているので、シラを切るのはどうやら無理そうである。
(よし!もうこうなったら土下座しかない!兎にも角にも土下座よ土下座よ!謝って謝って、命乞いしまくるしかねぇぇぇええ!!!!!)
ガタッ!
半ばヤケクソ気味に私は立ち上がった。
百目鬼・ウィリアム・万里、謎の黒人、しれっと教室に戻ってきたトムを含め、クラス中の注目が私に集まる。
そんな張り詰めた空気の中、私は覚悟を決め口を開いた。
「あらあらこいつァ驚いた!今朝のおにーさんじゃないッスか!しかもなんとまぁ、まさかまさかの同級生!いや〜万里君、君エラい大人っぽいねェ〜!そのーアレだ、アレ。そのグラサン?とかね、ヒュー!(口笛)めっちゃイケてるぜェ〜!まぁこれからはタメ!ということでね、タメ口でやらせてもらいたいんですけども〜ってまあね、それはそれとしてね、ちょ万里くん〜!こんなとこで再会するなんて、なんかうちら超ロマンティックゥ〜⤴︎じゃない?!ノリで入籍するか?なーんつって!だははは!」
静まり返る教室。
ただそこには、静寂だけがあった。
(え?いやいやいや…は、なんでこうなるの?謝罪しようと口を開いたかと思えばベラベラベラベラお前は何を言ってんだ?田中花子よ。ヤクでもキメてんのか?)
過去一自分を恨みつつ、チラッと目の前の男に視線を向ける。
(あ〜ヤバいヤバいなんかめっちゃ震えてるわ。多分これアレだ。怒りで震え止まらないってヤツだわ。クッソ畜生〜!!もう殺るなら一思いに殺れよ!百目鬼・ウィリアム・万里!!!)
私が覚悟を決め、ギュッと目を瞑ったその時だった。
「……はい」
チャカを取り出すこともせず、万里様はただそうポツリと呟いた。
(…「はい」?え何が?何に対しての??あ、違う、違うわ。多分これ「灰」だわ。これから私を灰にしてやるって事だわ。え、エグ〜!!!)
そんなエグい未来予想図を繰り広げていると、何故か万里様は片膝をつき私の手を取った。
(?!?!何何何!?もう怖い!怖いって!)
その意味不明な行動に怯える私に彼は言った。
「田中花子さん、貴方のプロポーズお受けします。俺と、結婚を前提に付き合ってください。」
「え?あ、はい」
(………うん?ちょっと待って??)
段々と、自分の頭がクリアになっていく。
(私今、告白された??)
(百目鬼・ウィリアム・万里に???)
(しかも今、流れでOKしたの?私。)
サァーっと血の気が引いていく。
「「「「えぇええ〜〜〜?!?!?」」」」
私が驚くより先に、クラス中からどよめきが上がった。
「え…違…ちょ…待てよ……」
心の中のキムタクはもう既にチワワぐらい矮小な存在となっていた。
ライスシャワーを振りまく優子にツッコむ気力すらもう起こらない。
「はは、まさか君の方からプロポーズしてくれるなんて思わなかったなぁ」
そう言って爆弾発言をぶちかました男が立ち上がる。
「ヒィッ!…えーっと、あの…」
(待って待って?!プロポーズって何?え、誰が?……私が!?!?)
そんなわけないと、自分が言った言葉をよくよく思いかえす。
『ノリで入籍するか?なーんつって!だははは!』
(アレかーーーッ!!!)
自分自身最大の失言に頭を抱える。
(いや『なーんつって!』って言ってんじゃん?!こいつ聞こえてねェのか?てかそもそもなんで受け入れてんの?おかしいだろ??)
絶望する私に、彼は顔を赤らめ言った。
「俺、すごく嬉しかった。これからよろしくね、花子♡」
(えぇ…)
田中花子17歳。反社の彼ピができましたが、とりあえず早急に別れたいです。
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