第19話 仲間
「……とりあえず、私の生まれ育ったアラクネの村についてでも話そうか」
リアンは二人に自分のことを語る。生まれ育った村のこと。母や赤ん坊の頃から親しかった幼馴染のこと。村の人々の暮らし。楽しかったこと、悲しかったこと、幸せだったこと、辛かったこと。
全てが、奪われたときのこと。
大切に思っていた友達を、自ら殺めてしまったこと。
あのときのことを思い出して、リアンはまた激しい怒りに心が焼かれる。あの残酷な儀式を生み出した者たちに対しても、それを実行させた帝国の支配者たちに対しても、果てのない憎悪が溢れる。
「……私は、ワイアット帝国を許さない。無関係の人間がたくさんいることも理解してるけど、私は、帝国に住む全ての人間が嫌いだ。理屈ではもう、この気持ちは制御できない」
語り終えて、リアンは大きく息を吐く。怒りも憎しみも、忘れてはいない。でも、感情を爆発させるだけでは、復讐を成し遂げることはできない。
冷静に、目標を達成しなければならない。
それから、ロクサナが口を開く。
「……お話を聞かせてくださり、ありがとうございます。リアンさんのことがわかって良かったです。そして、本当に、申し訳ありませんでした。私たちは、贖罪のしようがない、罪深いことをしてしまいました……」
「ロクサナに謝罪なんてされても仕方ない。ロクサナは何もしてないんだから。それに、私は誰の謝罪も受け入れるつもりはない。謝罪なんかで片付く話じゃないんだ。奪われた以上に、奪い返す。いつか満足するまで」
「……そうですね。それが、当然の復讐でしょう。それだけのことをしてしまいました」
「納得したなら、もう話は終わりでいい?」
「最後に、一つ……」
「何?」
「リアンさんは、復讐を望んでも、ただ破壊を望んでいるわけではありませんよね? リアンさんの一番の望みは……本当に、人間を支配する覇権国家なるものを作り上げることなのでしょうか? 何か他に思い描く未来もあるのではないでしょうか?」
ロクサナは鋭いというべきだろうか。あるいは、リアンがわかりやすいのだろうか。
「……他に思い描く未来、か。まぁ、あるよ」
「それは、どんな未来でしょうか?」
リアンは答えるか迷う。全てを打ち明ける必要はないし、そんな間柄でもない。
迷って、結局話してみることにした。誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。
「……私は、いずれたくさん子供を産んで、育てていきたいんだ。アラクネは元々女しか生まれない種族で、人間と交わって子を残す種族だから、私が人間と子供を作れば、それも叶う。そして、いつかの未来に、また、アラクネの村を再興させたい。皆が生きていた証を、後世に残していきたい……。私だけが知ってる、皆のこと、皆の暮らし、皆の思い……伝えていきたい……」
アラクネの寿命は、人間よりも少し長いらしい。せいぜい二百年くらいのものだが、その分生殖適齢期も人間より長い。
復讐を果たした後、改めて子作りに励む時間もあるかもしれない。
荒唐無稽な望みというわけではない。
「それが、リアンさんの本当の望みなんですね。破壊でも、支配でもなく、一人の女としての幸せを、望んでいらっしゃるんですね……」
「そういう見方も、できるのかもね」
ロクサナが立ち上がり、リアンの傍で跪く。
「リアンさん。私も、あなたと共に戦わせてください。目指す場所が同じではないことは理解しています。でも、きっと重なり合う部分もあります。少なくとも、私は、リアンさんがたくさんの子を産み育て、穏やかに暮らしていく未来を、実現したいです」
「……私と一緒に戦おうだなんて、変わってるね。言っとくけど、私はこれからもたくさんの人を殺すよ。何も知らず、何の罪もなく、ただ平穏に暮らしていただけの一般市民だって、たくさん」
「……わかっています。それでも、私はリアンさんと共に戦いたいと思いました」
「なんでそうなるんだか……」
「リアンさんの話を聞いて、その戦いの果てを、共に見たいと思いました」
「……そう。まぁ、積極的に協力してくれるんなら、ありがたいことだね。頼りにしてるよ」
「はい。尽力します」
「用が済んだならもう帰りな。うっとうしい」
「はい……。今夜はこれで失礼します」
ロクサナがすっと立ち上がり、速やかに部屋を去る。
残ったのは、ザリナ。
「ザリナは帰らないの?」
「……一つだけ、お願いがあるのだけど」
「何?」
「リアンを……抱きしめても、いい?」
「……はぁ? なんで?」
「そうしてあげたくなったから」
「なんでそうなるんだか。……まぁ、好きにすればいいよ」
考えるのも面倒になり、リアンがベッドから立ち上がると、ザリナが近づいてきて、リアンを正面から優しく抱きしめた。
女性の柔らかさと、人間の温もりが、リアンの心を慰める。
「……まだ子供なのに、重すぎる荷物を背負わせてしまってごめんなさい。もし、辛くてどうしようもないときがきたら、私に甘えてくれてもいいから……」
「……人間になんか、甘えないよ」
「そうね。そうかもしれないね」
ザリナはしばらくリアンを離さなかった。
リアンにはその表情は見えていなかったけれど、泣いていることは、その体が小さく震えていることから、わかっていた。
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