第7話 17時12分
「ね、ねぇ…さっきの本当に蛇九くんなの…」
応接室の3人掛けのソファに一人座る宇治治が、青ざめた顔で尋ねる。
俺たちは応接室に戻って少しの間、先程の映像が衝撃的すぎて言葉を交わすことができなかった。
窓を見ると先程の雲1つない晴天とはうってかわって、激しい雨と風が何度も窓を突き破る勢いで打ち付けてくる。
「俺もちょっとしか見なかったけど…多分…蛇九だったと思う」
「多分」とつけたのは、そうであってほしくないという気持ちから出た言葉だったが、やはりベッドに寝ていた男の顔は、あいつだった。
中世的で端正な顔立ちをしている蛇九は大学内でも屈指のイケメンだ。
モデルをしていても不思議ではないあいつを間違えるわけがなかった。
口回りが血だらけで、目を見開き、絶命していた蛇九。
一体どうしてこんなことになった?
これは本当に現実なのか?
俺は夢の中にいるのではないか?
そう思い願いたくなるほど、蛇九の死に方は衝撃的だった。
「う、うぅ…どうして…蛇九くんが…」
因崎は部屋の隅で、宇治治と同じく顔を青くさせ震えている。
「……………。」
そう言えば。
俺が来る1時間前に因崎は蛇九から、『見せたいものがあるから部屋に来てくれ』と言われて一緒に応接室から出て行ったんだよな。
蛇九の部屋の前で驚いていたところを見ると、因崎は蛇九の部屋に入ろうとして死体を見つけた…ということになる。
今まで一緒に蛇九の部屋にいた…んじゃなかったのか?
「…とりあえず、警察に電話しないとじゃね?」
真剣な顔をした六角が、スマホを片手に俺たちを見る。
「そうだよな…頼んで良いか?」
「ああ…、…ん?なんかこの部屋電波悪いな…。ちょっと廊下出るわ」
六角はスマホの画面を見て舌打ちをすると応接室の扉に向かう。
「待って六角くん、一人で廊下に出るのは止めた方が良いんじゃない?」
だって蛇九くんのあの死に方は…、と宇治治が弱々しい声で六角を止める。
確かにあの死に方は、自殺とか事故死、ではない。
何者かに殺された、と考えるのが妥当だ。
けれど、だとすれば誰がそんなことをする?
もしこれが、有名な探偵漫画だとすれば、犯人はこの中にいるはずだが、俺たちは仲の良い友達同士だ。
そんなことあり得るはずがない。
だがそれならば。
「……蛇九を殺したやつがこのペンションに潜んでるかもしれない…」
そう口に出すと身体中の血の気が引いていくのが分かった。
「なら一層…早く、警察に来てもらわねぇとだろ?大丈夫、俺は扉のすぐそばにいるから、殺人鬼でも来たらすぐこの部屋に避難するぜ、お前らは休んでな」
まぁ、俺の方が強いかもだけどな、と六角はパンチングポーズにどや顔で決める。
その瞬間、宇治治が吹き出し、因崎も少しだけ笑って、応接室の重たい空気が軽くなった。
きっと六角なりの気遣い、なのだと思う。
いつもはムカつくが、こういう空気を読めるところは純粋に尊敬してしまう。
「俺も一緒に廊下に行くよ」
「大丈夫だって、お前も少し休んでろ」
六角はそう言って、応接室から出ていってしまった。
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