第107話 どちらか一つだけと言われて片方選べるほど簡単じゃない
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―視点 リアリティアクセル
俺の前の前には一つのアイテムが置かれている。
ケーキ屋・・・御堂から手に入れる事ができた【蘇生薬】
死亡したプレイヤーを蘇生させ自分のソウルギアに出来ると言う俺が諦めて、同時に求めていた物。
そしていまだに使えず、こうして持っているだけのアイテムだ。
使い方は調べて知った。
まず最低条件として【プレイヤー】である事。
ポイントを消費して、ソウルギア関係で遺体を埋葬した事。
この二つを完了しているのなら後は、アプリから【遺体回収】を行う事で手元に戻しこの蘇生薬を使えばいい。
そうすればそのプレイヤーは自分の新たなソウルギアとして蘇生する。
そうだ、もうやり方は分かっている。こんなのは調べればすぐわかった。俺も何の憂いも無ければ直ぐに使っただろう。
だが、俺は未だに迷っている。
ここにある蘇生薬は1個。そう、1個しかない。
俺がこの地獄で、俺の愚かさのせいで失ってしまったのは二人。
大切な恋人と―
大切な親友を―
俺は迷っている。誰を蘇らせればいいのか。
一度手に入った以上、いつかもしかしたら同じ蘇生薬を手に入れられる可能性もあるだろう。その時にもう一人をなんて簡単な話じゃあない。
俺は二人に謝らなくちゃならない。
俺の我がままで、俺の愚かさの所為で、俺の無駄な正義感が、好奇心が二人を殺したのだ。断罪されても仕方ない、憎まれても仕方ない。勿論それが怖い訳じゃあない。寧ろ俺はそれを望んでもいる。
親友は小さな頃から一緒だった。
どこに行くにも一緒で、一緒に馬鹿をやっては彼女に怒られていたものだ。学校も小中高と俺達三人は一緒だった。
あいつに彼女が出来たと言うことで触発された彼女と俺が恋人になった時も「漸くか」と安堵してたのを覚えている。
ついでに言うと付き合ったはいいが一月持たずに破局している。理由はあちら側が単純にお遊びだったらしい、その日は俺たちが二人で全力で慰めたのを今でも覚えている。
俺が、お前は彼女が好きじゃないのかと言うと青い顔して全力で
『え、無理・・・俺にも選ぶ権利があるんだぞ?』と心底震えた声で言って、彼女にぼこぼこにされたのもいい思い出だ。勿論あの後俺がジュースを奢ってやったが。
懐かしく楽しい思い出だ。
彼女も小さい頃からずっと一緒だった、喧嘩もしたし、一緒に悪戯等もやった。俺達はいつでも3人一緒だった。
いつか親友に恋人が出来た時は4人になるか、それともなんて色々話してた。
そんな時に俺達はプレイヤーになってしまったのだ。俺の好奇心のせいで。
だからこそ―
俺は二人のどちらを『選んで』蘇らせる事が出来なかった。
だが、そろそろ答えを決めなくてはならない。
リバティから言われたのだ。
【このままそれ持ち続けてたら、使う前に誰かに奪われるぞ? それだけならいいけど、私やケーキ屋とかを巻き込むんだから早くしてくれ】
防衛ミッションの時からの縁で一緒に行動を共にしている彼女。今ネットではケーキ屋が蘇生薬の情報の隠蔽の他、俺が蘇生薬を所持している事が既に大々的に知られている。俺は掲示板等はあまり見ないが、大々的に盛り上がっているらしい。
それは俺が了承し、あえてリバティに流してもらった情報だ。
ケーキ屋、御堂から譲ってもらったこの蘇生薬、あいつに累が及ばない様にそうしてもらっているが、その俺が彼等と行動を共にして居る以上、早く使用しなくてはいずれこのアイテムが目的の誰かが俺を狙ってくる可能性がある。
それだけならば俺が相手をすればいいが、俺以外の者が襲われれば折角情報操作してくれたリバティに申し訳が立たない。これでケーキ屋が襲われでもすれば最悪だ。
ならばどちらを蘇らせるか。
堂々巡りが続く。
もう一つが手に入る保障はない。
流石に蘇生薬は販売リストに載っていない以上、これほどのレアアイテム欲しがらない奴はいないだろう。
「なぁ・・隼人、恵・・・結局の所、俺は何にも変わってないよ」
人一倍好奇心旺盛で。
無駄に正義感が強くて。
そんな俺に呆れながらも付いてきてくれた二人。
今の俺を見たら、二人はなんていうだろうか? 憎んでくれるだろうか、怒りに任せて罵声を浴びせてくれるだろうか。
許されてしまったら・・・俺はそれが怖い。
ミッションが終わって数日、俺は毎日こんな感じだ。
どうしても最後の一歩を踏み出せない。
愛している女性と
大切な親友
俺にとっては何方もかけがえのない存在。
隼人がこれを見ていたら何ていうだろうか?
いつまでもうじうじしてないで、さっさと決めろよってからっと笑いながら言うかもしれない。
恵なら俺の背中を蹴っ飛ばして、遅い、早くしなさいよって言うんだろうな。
あの日以来、渇いた俺の目は涙を流す事も無い。
あの日以来、無駄な正義感は切り捨てた。
あの日以来、俺は自分の感情を閉ざした。
自分に罰を与え、ディザスターに憎悪を向けその全てを滅ぼすと決めて、結局俺一人ではどこまで行っても何も変えられず、ただのプレイヤーの一人でしかない。
結局はディザスターの用意したアイテムを土下座までして手に入れている。
どの面下げて、復讐だなんだと言えるのか。
結局、俺はやはり俺のままだった。
蘇生薬を手に取る。
既に二人の遺体は回収してある。小さな箱が二つ・・・この中に二人の遺体が眠っている。この蘇生薬を使えばどちらかを今すぐ蘇らせる事が出来る。
二人のどちらかの声が、もう二度と聞く事の出来ないと思っていた声が、暖かさが、その全てが戻ってくる筈なのに。
「情けないな・・・俺は」
ふと窓の外を見れば、外でケーキ屋達が楽しそうに運動をしている姿が見えた。ガチャを回し終えたんだろう。俺はさっさと引いてしまったからな。
Sレアスキル1枚手に入った程度だが、それに関してはどうでもいい。
あいつの周りには複数のソウルギアの姿。
俺がどちらかを蘇生させれば、似たような光景が俺にも・・・
ケーキ屋がソウルギア達に追い掛け回されている姿に少しだけ苦笑し、俺はカーテンを閉めた。俺には色々と眩しすぎる。
どうするか。
後は俺が決めるだけなのだ。
どちらも決められないほどに大切な存在だ。俺の想いだけで選べる訳がない。ならば・・・そうだ、もうこれしかない。
想いを切り捨て、純粋の性能だけで決めるのが今の俺には一番かもしれない。
二人のソウルギアは今もちゃんと覚えている。
隼人のソウルギアは俺達の中で唯一【回復能力】を持っていたソウルギアだった。その分、戦闘力は低かったな。あいつもこんなの俺には似合わないとか言ってたけど、意外とお前には似合ってたと思うぞ。
色々チャラくて軽いお前だったけど、実は俺なんかよりもずっと他人を深く思いやれるお前にはとても似合っていたソウルギアだ。
仲間を癒し、仲間を護り、仲間を手助けするソウルギア。攻撃能力はほとんどなくてそこだけが弱点だったが、それは俺と恵がカバーしてた。
そして恵のソウルギアは完全な前衛格闘系だった。
両手と両足にごつい装備の様なものが展開されて、単純にパワーとスピードが増幅されるシンプルな奴だったな。正面から戦うと俺なんかじゃ歯が立たないくらい強かったのを覚えている。
通信空手をやってたからとか言っていたが、そんなんじゃすまない戦闘力を叩きだしていた。瞬間的な速さは俺すら目に追えない程だったからな。
そのブーストされた力と速度で真っ向から敵を叩きのめしていくソウルギア、勝気でさっぱりした性格の彼女にはお似合いともいえるソウルギアだ。
現状、俺達に必要なものは・・・回復能力だな。
ケーキ屋のサイレーンと、回復スキルを積んだ同じくケーキ屋のテルクシノエーが俺達の中でまともな回復スキル持ちだ。
俺はマジックがほとんどないので回復スキルは意味がないし、あのジェミニも回復スキルは弱点らしい。スピネルは魔法タイプだが、回復魔法は相性が悪いと使っていないそうだ。
意外とスキルには自分に合うスキルと合わないスキルがあるからな。しかし合わないからと完全に回復スキルを外してる勢いの良さは中学生とは思えん。
ハルペーも回復スキルは無し、リバティは支援だが、回復できるタイプじゃあない。佐伯も俺・・・というか恵と同じタイプだ。
やはり俺達のチームで足りないのは回復と支援になる。
そうなればやはり今俺が蘇らせるのは恵ではなく隼人になるだろう。あいつの回復スキルがあれば次からのミッションも難易度が下がってくれる筈だ。レベルも俺のソウルギアとして復活するのならレベル4相当になるだろうから、能力も問題ない。
隼人の遺体が入っている小さな箱。
お前は我欲じゃなくて、これから先に必要だからという理由でお前を蘇らせたと知ったら何て言うだろうな。
ソウルギアは完全に従順な存在ではないと言う事をあの新しく増えたケーキ屋のソウルギア【ハトメヒト】から聞かされた。
正直な所、俺はその言葉に幾分か救われたんだ。
もし、俺が蘇らせて、蘇ったお前達が自分の意思なんてない、従順な人形として蘇ってしまったらと思うと、俺は俺が更に許せなくなる。
だが、生まれたソウルギアはちゃんと個人の意思を持っている。それからの対応でちゃんと心も変わると知れた。蘇生薬はちゃんと記憶も継承してくれるらしい、それならばきっと蘇ってくるお前達なら。
「・・・隼人。俺は最低な人間になっちまったよ」
蘇生薬を俺は隼人の遺骸を入れた箱に注ぎ込む。
液体の蘇生薬は桶の上に置いた隼人の遺骸を入れた箱に凄まじい速度で吸収されていく。どういう理屈なのかはわからない、ディザスターの技術は地球の技術なんて数世紀先まで追い込しているみたいだからな。
最後の一滴まで蘇生薬を取り込んだ箱だが、何も起きない。
待つ事数分、一切の反応が見られない。
まさかタイムオーバーだったとか? これが偽物だとでも?
いや、そんな事はない。ディザスターはそういう事に関しては嘘はつかない筈だ。今使ったこれは事実蘇生薬で、ちゃんと効果を――
「っ!?」
焦りを感じて箱を取り上げた瞬間、それはすさまじい光を放った。
目を開けていられないほどの光が放たれ俺は咄嗟に目を塞ぐ。持っている箱の感触が消えるのを感じ、瞼の裏からでも感じる光が消えるのを確かめゆっくりと目を開けるとそこには――
「【ソウルギア:少名毘古那】・・・・・久しぶりだな、透哉」
「・・・・・~~~~! はや・・・と・・・」
いつもの様に、力を抜いたような立ち方で、あの時のままの笑顔を俺に向ける隼人の姿があった。
「隼人・・・俺は・・・! 隼人・・・!」
「うん、あぁ、まぁ・・・あれだ。まずは歯ぁ食いしばれ?」
「え? ごっ!?」
蘇った隼人が笑顔から憤怒の表情になって俺を思い切り殴りつけたのだった。
―107話了
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今日も閲覧ありがとうございました。
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そろそろ今年もおしまいですね、クリスマスや正月と大きなイベントが間近ですが
皆さんもこの時期に風邪や怪我などしない様に元気に行きましょうね。
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