第96話 世界の全てが貴方を憎んでも、私は嫌いで止めてあげる
8万PVを達成しました。皆さん本当に有難うございます。
この短期間で8万PVは無名の私にとってはとても凄い事だと思います。
これからも頑張っていきますね。
描写や地の文が毎回上手く書けないのが大変です。
技量不足なのがまるわかりですね(汗 もっとうまく書けるようになりたいです。
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雨の様に降り注ぐ死へ導く肉片。
直撃すれば他のプレイヤー達と同様一瞬で即死するだろう。防御スキルがあれば防ぐ事も可能ではあるが、目の前を覆いつくすような肉片の雨をどうにかできるスキルは誰も持っていない。
一瞬誰よりも早く動く事が出来たジェミニの二人が唯一間に合った流川を蹴り飛ばし、ポルクスが流川を掴んで離れる事で射程外に追い出す事が出来たがそこまで。先に全弾直撃を受けたカストルがその物量に打ち砕かれ死亡した。
だが、御堂は間に合わない。
サイレーン達が必死に駆け寄るがそれよりも弾丸が降り注ぐのが早い。御堂も降り注いできた弾丸に対し何も動く事が出来ず、出来る事はリバティを抱きしめて庇う事が精いっぱいだった。
「マスターぁあああああああああ!?」
無情にも死の肉片が容赦なく御堂とリバティたちに降り注ぐ。
永遠にも感じる時間ではあったが、実際にはほんの数秒。そこにはハチの巣になって死亡している御堂とリバティの姿が――
「・・・っ!! あ、あれ?」
無く、そこには何のダメージも受けていない御堂とリバティが居た。幻覚ではない。その証拠に二人の周りには降り注いだ肉片が地面を貫いている。それ以上流石に再生しない様でピクピクと痙攣する肉片はおぞましいがそれ以上の事は何もない。
「ケーキ屋!? 生きてるのか!?」
「あ、あぁ・・なんでだ?」
直撃だった筈だ。
カストルも撃ち抜かれて死亡しているのに、御堂達が死なない理由がない。だが現実に御堂も庇われたリバティも無傷で居た。呆けていた御堂だが直ぐに意識を覚醒させリバティを抱きしめたまま更に後ろに下がる。
「リバティ! 大丈夫か!?」
返事がない。まさか何かあったのかと彼女をよく見てみると彼女はきれいに気絶していただけだった。安堵しつつもこの距離でも当てられる可能性を考え戻ってきた流川に合流する。既に回復しているカストルもそこにいた。
「御堂君・・・! よかった・・! しかし何故・・?」
「俺もわからん。絶対死んだと思ったんだが・・」
その答えは、予想もしない所から帰ってきた。
「戦力が減るのは困るのよ、特に貴方達にはね」
「!? り、リジェクションのソウルギア・・・!?」
御堂達の方に歩み寄ってきたソウルギア:リジェクション。先ほどまでミッションの結界内に入る為に少しばかり時間がかかってしまい到着が遅れたのだ。
「・・・貴女は」
「敵対するつもりはないわ。と言うかあと少しで消えるし、殺したいならどうぞ? でも・・・あのバカを殺すまでは待っててもらうわ」
そう言いながら遠くで肉の塊になっている元マスターを見つめる。碌な死に方はしないと彼女も思っていたが、そんなのが甘く見えてしまうほど尊厳も何もかも破壊されている姿がそこにあった。
怒りは湧いてこない。既にマスターに対する愛情は枯渇している。感じるのは少しの寂しさと哀れに感じる気持ちのみ。
「あれは私が殺すわ。貴方達は適当に支援して頂戴」
「・・・自分のマスターを、殺すの??」
信じられないと言った表情でサイレーンが彼女に問いかける。彼女はてっきりあの状態になってもマスターのソウルギアとして此方に敵対するのではと思っていたのだ。
だが彼女の口からは「自分のマスター」を殺すという言葉が紡がれる。サイレーンにはそれが信じられなかった。
いや大なり小なり、ジェミニもテルクシノエー達もその言葉に衝撃を受けている。自分のマスターを見捨てた上に、最後には殺しに来たという人型ソウルギアの根本を覆すような存在がそこにいる。
「貴女は、貴方達はマスターに愛されてるみたいね」
「は? そりゃあーしらは相思相愛だし? ・・・あんたは違うみたいだけど」
「多種多様なソウルギアがあるんだもの、仲違いする奴もいるって事よ。と言うか話してる時間なんてないから、とっとと行かせてもらうわ」
「待て! あいつは流川が言うに重力のスキルが――」
「あれは私の力よ」
今も尚自分自身を押しつぶそうとしている重力のスキル。その力の源はソウルギアである彼女【リジェクション】自身の力。
リジェクションとはその名の通り、拒絶,拒否,却下と言う物。男の人生そのものと言えるものだ。
家族を拒絶し、嫌なものは拒否し、相手の事はは認めず、それが力になったもの。故にソウルギアである彼女の力は、【排斥】する力、それが高じて重力や斥力を操れる基本的な力になっている。
マスターである男が使えるのは未だに発動している彼女リジェクション自身の特殊スキル【比翼連理】の効果だ。お互いがお互いの力を扱う事が出来る様になるスキル。その限界はお互いの愛情によって変化する。
お互いに冷め切っている関係になった今では、重力操作程度しか使えず自我を失った事で調整すら出来なくなったが、今も発動し続けている事が、嫌でも二人は同じ魂を持つ物なのだと理解させられる。
「私なら、問題なく殺しに行ける。どうせ私はあれが死ねば消えるから、MVPでもなんでもくれてあげるから、援護しなさい」
「待って!? 答えを――」
「殺すわよ。だって、哀れ過ぎるでしょ? あんな状態で無理やり生かされてるなんて」
愛情は残っていないが、想い出は残っている。
嫌な事ばかりだったが、それでも少しは幸せな時もあった。
だからこそ、せめて――
「あの阿呆は私が殺してやるべきなのよ」
彼女の表情は憎悪や怒りではなく、呆れと寂寥感が浮かんでいるのがサイレーンには感じられた。
そして理解する。目の前の彼女は自分のマスターがこれ以上辱められない様に、終わらせに来たのだと。ソウルギアとして自分のマスターの為に最後の仕事をしに来たのだと。
「もういい? 邪魔するなら流石にぶちのめすけど」
「ん・・・ありがとう。貴方もマスター・・・好きだったんだね?」
「なんでそんな風になるのよ」
サイレーンの言葉に呆れた表情になる彼女。そして同時に普通のマスターとソウルギアはこういうものなのだと少しだけ嫉妬し、羨ましく思えた。
「いい加減に行かせてもらうけど、とりあえずあんた達はあいつを牽制し続けて頂戴。私はコアを探しにいくから」
肉の触手が凄まじい速さで生まれては周囲を薙ぎ払っていく。同時に重力の押しつぶされて破壊され肉片の弾丸が巻き散らされている。
「コア・・・か? そういえば前の緊急ミッションの時も」
「レイドボスは内部にコアがあるのよ。普通に倒してもいいけどコアを破壊すれば死ぬ。今回の場合は内部にあいつの心臓か何かあるはずだからそれを砕けば終わり」
「成程、俺達はあの触手とかが爆発する前に攻撃して抑えればいいって事か?」
「それしか出来ないんだし、せめてそれ位して頂戴な」
「うぐっ・・・」
リジェクションのソウルギアだけあって、彼女自身も毒舌だった。
「よし、とりあえず援護するぞ! 頼りにしていいんだよな?」
「えぇ。少なくとも後悔はさせないわ」
「武器はいらないのか? 余ってるのが――」
「必要ないわ、私の力を使うと逆に邪魔だから」
ジェミニの二人と戦っているときも基本彼女は素手だった。能力を発動させ戦うと普通の武器では彼女の力に耐えきれず自壊する。そしてそのようなものが無くても彼女は遠距離も中距離も近距離も問題なく戦う事が可能だ。
「わかった・・・。任せるぜ?」
「精々巻き込まれて死なないようにね。さっきみたいにはもう護ってあげないわよ?」
「あれは助かったよ、お陰で俺もリバティも生きてる。助けてくれてありがとうな」
「戦力を減らしたくなかっただけよ」
「それでもだ。感謝するよ」
頭を下げる御堂。彼女は敵、プレイヤーキラーのソウルギアではあるが、それでも助けてくれた事には変わりない。更にはこれから共に戦ってくれるというのだから礼を尽くさねばと土下座まではしないものの、会社で親方に頭を下げるレベルで彼女に礼をする。
御堂では庇う事しか出来なかった。そして庇ったとしても守りきれた可能性は低い。彼女が助けてくれなければ御堂もリバティもあっさり死んでいた。命が軽いこの戦いの中で、どんな理由があるにせよ助けてくれた事に御堂は礼を言いたかったのだ。
そんな御堂一瞥する。プレイヤーには色々な人間が居る。彼女のマスターの様な外道や目の前の男の様なまともな人間まで。
自分のマスターが目の前の男の様に優しく誠実であったならば、と一瞬だけ過った考えを打ち消して、頭を下げる御堂を無視して走り出す。
あまりにも羨ましくて、余りにもずるい。彼のソウルギアを殺したくなってしまうほどの男をこれ以上見ていたくなかった。目の前のアレとどうしても比べてしまうから。
「ほんと、あんたは間違ってたわ・・・止められなかった私の所為もあるかもだけど」
肉塊と化したリジェクションに近づきながら彼女は独り言つ。
誰もがプレイヤーとしてリジェクションを攻撃する。生き延びるために、ポイントの為に、殺された知り合いの為に。
そこには怒りと憎悪しかなく・・・だからこそせめて彼女は呟くのだ。
「憎まれ者、せめて私だけは【嫌い】で止めておいてあげるわ」
彼女が彼に贈れる言葉はもうそれしかなかった。
―96話了
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気が付けば100日目も近づいてきてますね。
つまり100話も近いという事です。
拙いお話ですが、100話まで続けられたのは皆さんのおかげです。
本当に有難うございます。
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