第92話 人海戦術しても多いものは多い。

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 結果だけ言えば、流川の作戦は成功した。


 リジェクションに雇われたサクラも使い今の混乱を何とか収める事に成功したのだ。一部どうして求められなかったプレイヤーはリジェクションが物理的に叩きのめして止めている。激昂しかけるプレイヤーもいたが、彼がレベル6だと知るや否や、恐れ戦いた様に動きを止めた。


 そこからは改めて流川の説明が入る。既に御堂達も各自探している【別の頭部を持っているレイドボス】を見つけて倒す。それがレイドボスの本体なので、それさえ倒せばミッションは終了すること、倒し過ぎてボスを増やしてもダメだが、最低限倒して時間を稼がなくてはならないので、探索が苦手なプレイヤーはこの周辺で数分おきに分身体を倒す事を説明した。


 このまま闇雲に倒しても埒があかず、漸くもたらされたクリアの光明にリジェクションの説得もあってか、漸くは乱獲は止まり、それぞれがレイドボスの本体を探す事になった。


 勿論見つけた傍から倒してもいい、早い者勝ちであるとも告げている。これならば適当に探そうとは思わないだろう。同時にプレイヤー同士で邪魔し合わない事も約束させた。そう言うのはミッションが終わってからそれぞれやってほしいと。


「はぁ・・・これでいいスかね? 後は俺も勝手に探させてもらうっすよ?」


「えぇ、十分です。ではこのミッション中は―」


「お互いもうこれ以上干渉しない・・・っすね? 今は見逃してやるけど、次は必ず殺してやるっス」


 怨嗟の言葉を吐き捨てリジェクションが走り去っていった。頼まれたことはやり通した以上、後は生き残る為にレイドボスを探すのだろう。


 流川とジェミニ達はこの場に残って待機している。分身体間引きのプレイヤー達がスキルによってまた精神異常になった時に抑え回復する役目と、何かあった時の連絡役だ。出来れば彼自身もレイドボスを探しに行きたい所だったが、何かあれば直ぐに動けるここが最適解だと、気持ちを押しとどめる。


「パパ。あの男裏でまた何かやってくるんじゃないかな?」


「可能性はありますが、そこまで気にしなくても大丈夫でしょう。僕を直接殺せない以上誰かを唆すしかなく、今は全員レイドボス探しに夢中になっている。雇われただろうプレイヤー達も、この状態では僕を狙うに狙えない」


「あぁ、それもあってここに居るんだね」


 ここで待機している限り、リジェクションが約束を破ろうともどうとでも出来る。


「それにしても・・・」


 御堂からの念話を改めて思い出す。


 ディザスターの事。


 ハトメヒトの事。


 何故それを知る事になったのが御堂なのか、それが不思議でならなかった。思う所がある、という訳ではない。ただなぜ彼にこれ以上の重荷を乗せなくてはならないのかと少しだけ憤りを感じている。


 御堂がハトメヒトから聞いた【受け継ぎし者】とは何を示しているのかも分からない。可能性として思いつくのは普通ではありえない増えるソウルギアだろうか。

 

 サイレーン、テルクシノエー、ミューズと、それぞれ女神などの名前になる。今回コンタクトを取ってきたのは見た目はともかくハトメヒトと言う女神だ。流川はそこまでサブカルや歴史に深い訳ではないので、名前を聞いただけではそれが何なのかまではよくわからない。今、空いた時間を使って漸くハトメヒトが古代エジプトの魚の神であることを理解した所だ。


 サイレーン。若しくはセイレーン、セイレーノス。RPG等のゲームやファンタジー漫画などを見ていればある程度よく聞く名前だ。セイレーンはよく海に居る人魚や羽の生えたハーピーのような存在、もしくはギリシア系統の神々とも言われる。


 テルクシノエーもまたサイレーンと同じくギリシアの女神、彼女の名前は「魅惑する女」を意味している。スキルや見た目も相まって確かにその通りと言えるだろう。


 ミューズもしくはムーサ、彼女達もまた女神である。つまり御堂の呼び出したソウルギア達は全て【女神の名】を冠した存在である事がわかる。


 ハトメヒトはエジプト系列の女神ではあるが、同じく女神である以上何かしらの関係性があるのかもしれない。


「これからも何かに巻き込まれるのかもしれない・・・か」 


「パパ・・・おにーさんの事、本当に大事なんだね」


「えぇ。彼が居なければ今の僕はありませんでした。そう思わせてくれる人なんですよ」


「ん、確かに見た目はともかく、優しくていい人だもんね、おにーさん」


「見た目で損してるけどねぇ。あれ禿って訳じゃないんでしょ?」


「ケーキ作りの時に邪魔だからと剃ってますからねぇ」


 背も高くガタイも良い、まさに力仕事が得意な土木作業員といった姿。仕事で日焼けして全体的に黒い上に更にスキンヘッドともなれば、中身を知らなければお近づきにはなりたくない人種である。


 それを考えれば中身を知ったからと言ってもリバティがよくあそこまで懐いている者だと苦笑する。だが御堂の事を知ればそうなるのも仕方ないだろう。面倒見がよく基本的に優しい御堂は、よく知れば知るほど普段の雰囲気が柔らかく、温和な人物だ。


「あ、でもこのシーズン終わったら生やすかなぁって言ってたね」


「つまりチンピラが極道になるんだ」


「ぶふっ!?」


 カストロの言葉に噴き出すポルクス。


「ま、何にせよ、全ては生き残ってから。だよねマスター」 


「ですね。考えるのも悩むのも、調べるのも、このシーズンを終えてからです」


 流川は一定の時間毎に他のプレイヤーに指示を出し続けながら、レイドボスが倒されるのを待っていた。












「と、所でさ、多分レイドボスって、イルカじゃなくてシャチだと思うんだ」


 佐伯達と合流した御堂は全員を引き連れてくまなく周囲のレイドボスを探している。今の所見えるボス達は全員が同じ東部にしか見えず、違う頭の本体は見つかっていない。


 そもそも違う頭と言っても何が違うのか分からなかったが、そこにリバティがおずおずと御堂に話し掛けた。


「シャチ・・・? なんでまた?」


「あ、あいつが長々と喋ってた時に「シャチ頭の」って言ってたんだ。あいつ本当の事しか言えないんだろ? な、なら・・・」


「・・・・本体はシャチの頭をした奴・・・と言う事」


 リバティの言葉に返すスピネル。


 別にボスを狙っている訳ではないが、これは十分なアドバンテージではないかと考えた。プレイヤー達も違う頭と言う事は知っているのでわざわざ伝える必要はないと彼女は告げる。一応全員で探しているが、出来るならば自分達でポイントを獲得したいとも考えていたのだ。


「いや、それはいいんだけどさ?」


「ぅえ・・!? く、クレア・・・ど、どうしたんだよ??」


「イルカとシャチって、見分け方あんの??」


「・・・・・・」


 クレアの言葉に全員が止まる。


 そもそもの話、リアルでシャチやイルカなどを見た事などほとんどない者ばかりだった。見たと言ってもテレビなどで流し見程度でしかない。御堂も動物などに興味はなかったのでイルカとシャチの差など分かるはずがなかった。


 それはバンカーやアクセル、というよりここに居るほぼ全員違いなど分かっていないという体たらく。だが、そこに一人救世主が居た。


「あー、俺分かるぞ? 動物番組とか家族とみてるし」


「まさかの佐伯少年!?」


「影が薄いヒーローだったのに、ここで出番をもぎ取ってきたよ・・・!」


「酷くねぇかサイレーンさん!?」


 誰もがどうしようと焦りだした所に佐伯が名乗り出た。彼の兄妹は動物番組などが大好きなので必然家族全員で見る事が多く、彼も兄として一緒に見る事が多かった。弟や妹たちに請われて、水族館や動物園に連れて行ったこともあるし、喜んでもらえるように動物辞典やスマホなどで動物については色々調べていたのだ。


 特に、水族館に連れて行った時はイルカショーや何やらではしゃいでいた家族の為にイルカの種類やシャチとの違い、実はイルカもシャチもクジラの仲間だと言う事も色々調べている。まさに今回に至っては彼こそがキーマンと言えるだろう。


「それにこいつらの頭って結構デフォルメされてるし、多分直ぐ見分けつくと思うぜ? 後色々見て回ったんだけど、イルカ頭の分身はほぼ寸分たがわず同じ顔してるから、本体がシャチだっていうんなら、見つかれば直ぐわかる筈だ」


「おいおい救世主だよ、ここに救世主が居るぞ?」


「す、凄いです佐伯さん!!」


「くそっ! 俺も調べて置けば「キャー! ハルペー君素敵ー!」とか言って貰えた可能性が・・・!」


「・・・多分それだけはない」


「ひでぇ!?」


 白い目で言い捨てるスピネルの言葉にショックを受けて落ち込むハルペー。何とかなりそうという安心感が彼等の中にある程度の余裕を持たせていた。


「所で御堂く・・・殿? 分身体、ハトメヒトと言ったか。これらと会話出来たのなら、ボスの居場所を再び聞く事は出来ないのか?」


「あー、羅漢さん。俺の事は御堂でいいぜ? 君とか殿とか恥ずかしいんで・・・で、なんだが、あいつらあれからは基本的に最初と変わらない状態になっちまっててさ、そもそも話が通じないんだ」


 あれからその辺の分身体に話し掛けた御堂だが、あれ以降はよくわからない文言を口走りながら奇怪な行動をとるのみでまともな会話が成り立つことは無かった。


 御堂が思うに、恐らくはあの会話が彼女に許された自由な時間だったのではないかと感じている。今は恐らくハトメヒト本人ではなく、【レイドボス】として存在しているのだろう。


「成程な、そこからは我等が探さねばならぬという事か」

 

「多分、な。俺の勝手な想像かもしれないが」


「何、そういう時はそれこそが答えかもしれぬ。拙僧としても可能性があれば程度だったからな。素直に佐伯殿の手腕に期待する事にしよう」


「うっす! 任せておいてくれ! んじゃ御堂のおっさ・・・さん! 行こうぜ!」 


「だれがおっささんじゃ」


 今一格好がつかない御堂達だが、プレイヤーの中では一番レイドボスの本体に近づきかけていたのだった。



―92話了


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1日1話、そろそろ何を書いていいのか難しくなってきましたね。

お仕事して、小説書いて、古戦場して、やる夫スレ投下しては

かなりハードモードです。

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