◆1-6:メラン 農場区画(3)
比較的若い惑星の地表であれば頻繁にあるという話だが、地揺れというものを体験するのはメランたち大人も含め、ここにいる全員が初めてのことであった。
ここは宇宙空間に浮かぶ巨大な深宇宙探査艦なので、正確には大地の揺れではなく、人工重力の制御不良というべきであるが。
メランとミゲルは片膝を突き、片手を支えにすることでどうにか耐えたものの、子供たちは堪らず倒れたり、或いは尻を突いてその場にへたり込むことになる。中には
その強烈な力の作用は一度では済まず、その向きも上下左右へと変え、区画内のすべてを揺さ振った。時間にしてほんの十秒程度のことではあったが、いつ収まるかも分からない未知の衝撃に子供たちが恐慌をきたす。下が柔らかな有機土壌で、周囲に倒れたり落下したりする物がない地形だったのは幸いだったと言えよう。
ようやく揺れが収まり、次に続く揺れがないことを用心深く確認してからミゲルが立ち上がる。
「……傾いてるな」
メランも何かがおかしいとは感じていたものの、言われてようやくその違和感の正体に合点がいく。
真っ直ぐ平坦だった農場区画が、今は明らかに傾斜が感じられるようになっていた。傾斜角は5%か10%ぐらいはあるだろうか。両脇に生えた作物が揃って同じ方向を向き、穂を垂れている。
まだ重力制御に異常があるのか。いや、船体に対しこの区画モジュール全体が脱落するようにして傾いたのかもしれないな、とメランは先ほどの揺れからのイメージを膨らませて類推する。
そこへ不意にけたたましいビープ音が鳴り、メランの手首の端末上に大きなホロ画面がポップした。今の震動に対する警告ならこれは遅すぎる。ただでさえ怯えていた子供たちが、その音でさらに恐怖を募らせ高周波の悲鳴で不安を
「まずいな、これ。統括AIのリブートなんて、聞いたこともねーことやってやがる。今のはこれのせいか?」
ヘッドギアを被ったままのミゲルへの警告は中のセルフモニターでなされていて、彼の手首のアラートは発動していないようだった。
それを見てメランも、今さらながら自分のヘッドギアを被り直そうと背中に手を回した。が、そこにあるはずの手応えがない。
焦ったメランは首を
メランが目線を下げると、そこには
「あー、クソッ!」
なんということか。さっきの揺れでスーツ本体にヘッドギアを吊り下げておくためのホックが外れてしまったらしい。外れること自体は絶対にありえないとまでは言えないものの、身に降りかかった不運の重なりに思わず悪態をつく。
それに気付いた子供たちの間からも、あー、という落胆の声が上がる。そこに、駄目な大人を嘲笑うかのような響きが含まれているのは、自分の気のせいだと思うことにする。
「とにかく落ち着こう、みんな。怪我してるやつはいないか?」
今朝受け取ったばかりの貸与品を追うことはひとまず諦め、メランはより優先すべき子供たちのことへと注意を向ける。
「私たちは大丈夫です。ほら」
スペースヴァンパイアの少女が優等生然とした身振りで示した先には、傾斜した地面を物珍しくして遊ぶ子供たちの姿があった。
先ほど転がっていったヘッドギアの様子に触発されたのか、地面に寝そべって横向きにゴロゴロ転がったり、またそうやって他人を転がそうとしたりして笑い声を上げていた。
ちょっと前まで怖がって悲鳴を上げていたことなど何処吹く風。その
「急ぎましょう先輩。ここは危険です。商業区画の近くには緊急脱出用の避難挺ユニットもありますし」
「ああ、こいつらは俺がそこに避難させるから。お前はここから第三機関室に急げ」
ミゲルの返答は思いがけないものであったが、メランがその意味を問い
先ほどの緊急事態を報せるアラートもそうだったが、これも初めて見るインフォメーションである。
それは、メラン個人を名指しした緊急ミッションの招集であった。
「やっと〈オラクル〉が応答したと思ったらこれだ」
「なんで俺なんでしょう?」
機関室に一番近い手隙の警備員という指名なら経験豊富なミゲルの方が相応しいように思えるが。
「知らねーよ。〈オラクル〉様の深淵な考えなんて。まあ、お前さんの腕っぷしが必要な事態ってことじゃないか?」
端末に目を近づけて詳しくインフォメーションを確認すると、状況は【侵入者による破壊工作の懸念】、オーダーは【速やかな鎮圧・無力化。そのための増援】となっていた。
「初日の任務にしちゃハード過ぎるが……、訓練じゃねぇ。本番だ。気合入れてけよ!」
ミゲルの拳が、対衝撃ジェルを徹してメランの下腹にゴツンと突き刺さる。
「はいっ!」
口元を引き締め鋭い返事を返す。
メランは真っ赤に燃える髪を
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