第10話:資源採掘者の問題
「あの……そういえば、鉱石の採掘ってアース様がやられているのでしょうか」
ビトラさんの一軒が終わってから数日後のお昼。
みんなで昼食を食べた後、以前から気になっていた質問をアース様に尋ねた。
地底屋敷にはたくさんの素材(主に鉱石)があるけど、誰が採取しているのか気にかかっていた。
「いや、私ではない。ついでに言うと、アシステンでもない。鉱石を採掘している人間が別にいるんだ」
「そうなんですか。てっきりアース様かアシステンさんが集めているものだと……」
「思い返すと、まだ君を紹介していなかったな。では、さっそく彼の元へ行こう。資源を採掘しているのは、ワーキンという名前のドワーフだ」
鉱石を採掘してくれている方はドワーフなんだ。
資源の採取にピッタリのイメージだった。
アシステンさんがそっとアース様に話しかける。
「グラウンド様、フルオラ様にお話しされた方が……」
「ああ、そうだった。ワーキンはドワーフ特有の少し気難しいところがあってな。私と同じ、人嫌いな性格だ。おまけに、やたらと他人を信じない。初対面の君には不躾な態度を取るかもしれないが、どうか大目に見てやってほしい」
「わ、わかりましたっ。失礼がないよう気をつけますっ」
ドワーフって気難しい人が多いのか……緊張するな。
そんなことを考えながらぼんやりとアース様たちの後を追ったけど、お屋敷を出たところで二人を止めた。
「あっ、お待ちください。《ミニエアコン》を持っていきます。きっと暑いでしょうから」
「そうだな、彼にも渡してくれると助かる」
アース様とアシステンさんに連れられ地底を潜ること、数十分。
お屋敷のある階層より、さらに数段階地下に着いた。
この辺りにはまだ松明しか灯っていない。
私たちが普段暮らしている空間に比べると半分くらい狭いけど、平坦な地面が広がっていた。
小さな広場みたいなスペースだ。
よく見ると石柱がギリギリまで削られているから、平らになるよう加工したのかもしれない。
隅っこにはこじんまりとした小屋が一つ。
ワーキンさんが寝泊まりしているのかな? と思ったとき、背の低い男性が中から出てきた。
骨太な体型、ギラリと鋭い目つき、もじゃもじゃの茶色い髭。
本で見たドワーフそのものだった。
『おい! 誰だ!』
「仕事中にすまないな、ワーキン。私だ」
『辺境伯様だったか! 何用で!? 今忙しいんだ!』
ワーキンさんはとても声が大きい。
ただ話しているだけだろうに、怒鳴られているような気分になった。
「先日、地底屋敷に新しい仲間が増えてな。君に紹介したいのだ」
『新しい仲間!? 誰だ、そいつは!』
「フルオラ、こちらに来てくれ」
「フ、フルオラ・メルキュールでございますっ。どうぞよろしくお願いしますっ」
お辞儀をするも、ワーキンさんは私をチラッと見ただけだった。
『なんだ! 小娘じゃないか! なんでこんなヤツを雇ったんだ! 結婚すんのか!?』
「ち、違う! そうじゃない! 結婚ではない! 手違いで婚姻したとかそんなことはない! 彼女は地底屋敷の専属錬金術師だ!」
『錬金術師ぃ? この小娘がぁ?』
ワーキンさんはじろじろと私を見やる。
本当に錬金術が使えるのか信じられないようだ。
それならば……。
「あ、あのっ、良かったらこれどうぞ。身に着けたらお身体が涼しくなると思います」
《ミニエアコン》を差し出す。
途端に、ワーキンさんは訝しげな表情になった。
『なんだよ、これは! こんな箱見たことないぞ!』
「そ、それは《ミニエアコン》と言いまして、涼しい空気で身体の周囲を覆う魔道具です。私が作りました」
勢いに圧されつつも、魔道具の説明をする。
ワーキンさんは怪訝な顔のままではあるけど、《ミニエアコン》を首から下げてくれた。
出っ張りを押すと、表情がいくぶんか和らいだのでホッとする。
『ふーん……確かに涼しいな。こりゃあいい。暑くて仕方なかったんだ』
「これで私が錬金術師だと信じていただけるでしょうか……?」
『いいや信じない!』
「えええっ!?」
そんなぁ。
私が尋ねると、ワーキンさんはまた厳しい顔つきに戻ってしまった。
『俺は自分の目で見たことしか信じない! これは俺のポリシーだ!』
「ワーキン……彼女を信じてやってくれ」
アース様も説得してくれたけど、ワーキンさんは絶対に首を縦に振ろうとはしなかった。
『小娘! そこまで言うのなら、俺にも考えがある! 錬金術が使えるんなら、俺の目の前でやってみせろ!』
「わ、わかりました。でしたら、何をお作りすればよろしいでしょうか」
『壊れないピッケルだ! ちょっと待ってろ!』
ワーキンさんは小屋に行くと、何本ものピッケルを持ってきた。
地面にガラガラと置く。
『これを見ろ!』
と叫ぶので、一つ取り上げて観察した。
先っぽの尖ったところが欠けている。
よく見ると、他のピッケルも所々壊れていた。
『ここの岩石はひと際硬いんだ! 辺境伯様がたくさんピッケルを用意してくれてるんだけどな、俺はなるべく道具を壊したくない! だから、いくら採掘しても壊れないピッケルを作れ! そうしたらお前が錬金術師だと信じてやる!』
ドドンッ! と指をさされ宣言される。
アース様とアシステンさんはおろおろしているような気がするけど、私の心も目も新しい仕事に向いてしまっていた。
「……お任せください、ワーキンさん。絶対に壊れないピッケルを錬成します」
絶対に壊れないピッケルか……難しそうだ。
いやぁ、楽しくなってきたね。
今まで作ったことがない魔道具を要望され、沸々とやる気が湧いてくる。
うまくいったら、また一歩成長できると思う。
何より、ワーキンさんも地底屋敷の大事な一員。
絶対良いピッケルを作るぞ!
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