第75話 神州到着




「お、見えて来たっすね!」


 降下していく視界の中、目に映るのは乱立するビル群だ。

 それは地球で見たものと似ているようで、しかしやはりと言うべきか、その外観には鳥居や紙垂しでを思わせる意匠が施されていたり、ちょくちょくエキセントリックな魔改造が施されたものもある。


 東京都庁がモデルと思われる建物はこう、見るからに巨大ロボに変形しそうな配色になっているし、東京タワーは鳥居を幾何学的に組み合わせた前衛芸術の様になっているのは、あれやりすぎでは?


「ていうか今見えてるあれ、場所的に皇居な気がするんすけど、何すかあの馬鹿でかい四方鳥居?」


 見据える先、皇居外苑を含むと思しき辺りには、四方を高さ百メートルはある鳥居に囲まれ、更に堀と緑地を経て佇む神社の様な建物がある。


「あー、アレね。こっちに首都作る時に、やっぱり出雲やら伊勢やら、全国各地の寺社仏閣との調整は必要になってさー。じゃあ面倒だし寺社関係の集約所として建造したのがアレだね。

 正式名称は『神仏習合国家神州神格統括理事局』とかって長ったらしい名前付いてるけど、一般的には『統括局』とか呼ばれてるかなー」


 なるほど、と頷き、同時になるほど? と僅かに疑問を感じるも、それを無視する様にミナカさんの説明は続く。


「地上に見えてるのは祭事関係を行う場所で、四方にある鳥居は空間を区切る結界としての機能の他に、地脈を通じて全国各地の寺社仏閣へ経路を繋げる役割も担ってるんだー。だからあそこから各所の神社とかに情報的にアクセスできるし、地下には各所へ直通する鳥居型の転移門もあるよ!」


「それってあそこを乗っ取られたら全国ピンチって事じゃないっすか?」


「大丈夫大丈夫、あそこ墜とせるような敵相手なら全国何処に居ようが一緒だから! ああ、あと大鳥居の外にあるちょっと洋風な建物が行政関係を執り行う所だよ、地球側だと国会議事堂って言うんだっけ? デザイン良いから殆どそのまま作っちゃった!」


 それで鳥居の横に佇む西洋建築とか言うカオスな景観が出来上がっているんすか……


「まあ、ブリテンも各領地からキャメロットまで直通で行ける円卓専用転移礼装がありますから、似たようなものですわねー」


 パー子の言葉に、そのあたりは何処の国も似たような物かと思っていると、視界が更に高度を落とした。


「およ? あそこが行き先じゃないんすか?」


「あー、うん。それでもよかったんだけど、ちょっと御刻みこくに『相手を気遣いなさい!』って怒られたから、まずは私の家と言うか、神社の方へ降りるねー」


 そう言って向かう先は、地球側で言うと皇居から南東方面、中央区の方角。急激に高度を落として降り立ったのは、日本橋辺りにある、どちらかと言えば小規模な神社の境内だった。


「――ここは?」


「ここは水天宮。私が祀られてる神社の一つ。――一応は統括局の方が私の本拠地と言うか主社なんだけど、あっちは肩こるから基本はこっちに住んでる感じ!」


 仮にも最高神を祀るにしては小規模な気がしなくも無いが、水天宮と言えば確か本宮を福岡県に置く神社の筈だ。その分社であり、建築物の密集する都会であるならば十分な広さと言った所だろうか。


 ……と言うか、建物の細部とかは違うし車みたいなのは少ないし、あからさまに異質な建築物も多いんすけど、ぱっと見の街並みや道の整備され具合が地球側そのまんまで困惑して来たっすよ?


 そんな思考を走らせていると、拝殿の方から石畳を女性が歩いて来た。


 紅白の巫女服に、薄紅色の羽織、――千早と言うのだっただろうか、それを羽織った黒髪の女性、何処かまだ幼さを残した顔立ちの彼女が言葉を作る。


「――ようこそお越しくださいました、お客様方。私はかんなぎ御刻みこくと申します。そちらにいらっしゃいます天之御中主神アメノミナカヌシノカミ様に仕える巫女であり、この『神仏習合国家 神州』」における神職達、その実働の長を務めております」


 そう言って頭を下げる彼女に対し、此方も慌てた動きで頭を下げる。周囲を見ればパー子やフィーネは淀みない動作で礼を返しているので、この辺り日頃の習慣の差であろうか。


 ……にしても、私より若そうに見えるのに神職達のトップとは……


 実働の、と言って居る事から厳密な長は他に居るのだろうが、だとしても地球側でいう大臣とかそっち系の様な立場であろう。


 パーシヴァルやモードレッドの時も感じたが、この世界だと若者の出世具合が尋常では無いと言うか、戦闘に密接な事もあってか実力主義が極まっている気がしないでもない。


 と、顔を上げた彼女が笑みを浮かべてこちらを見つめる。


「どうぞ中へ、長距離移動で色々お疲れでしょうから、まずは離れでお茶とお菓子で一息ついていただいて、詳しいお話はそれからとさせていただきます。――ああミナカ様、貴女様は少し残っていただきます」


 こちらを促し、それに続こうとしていたミナカさんを呼び止める声色は、笑みでありながら背筋に寒い物が走る凄みを感じさせていた。


「うげ!? 御刻おこってる!?」


「当たり前です! まったく貴女と来たら、ブリテン側にキチンと話を通す前に行動した上、皆様を超高速機動でここまで連れてくるとか何やってるんですか!!」


「でもでも、キチンと書類は提出したし、マーリンに挨拶もしたんだけどー!?」


「おバカ! 書類は受理されなきゃ意味が無いし、マーリン様からは貴方の滅茶苦茶に関する苦情の通信文書が届いてますよ!!」


 拝殿から右、離れへと他の巫女の女性に案内されつつ、聞こえる背後の会話の内容に、思わず巫女とは何だっただろうかと考えてしまうのだった。


「あのー、神州って神様にタメ口OKなんすか?」


「……いえ、アレはあのお二人が特殊と言いますか……ミナカ様は最高神でありながら非常に親しみやすい神格ですけど、流石にあのように話せるのは御刻様だけですし、御刻様につきましても、ミナカ様以外の神格の方々には丁寧な対応をしていると言いますか……」


「あの二人、同じ布団で寝ているって噂がある程仲がいいんですよね……ええ、お二方を題材にしたジャンルが神州でかなりホットでして」


「後半の情報必要でしたの?」


「と言うかナマモノ系は色々面倒な気がするんすけど……え? 割と一般的? 恐ろしい世界っすね……」


 そんな会話をしつつ離れの建物へと向かう自分達の背後では、件の二人による会話が続き、


「大体パーシヴァル様は申請書類に記載されていなかったですよね!? アグラヴェイン様からの連絡が無ければこちらの対応に不備が生じていましたよ!!」


「いやー、だってミッチー達の会話を聞いてたらパーちんと滅茶苦茶仲良さそうだったからさー?」


「他国の重鎮を変なあだ名で呼ばない――ッ!」


 それに関してはパー子呼びしてる自分も他人事では無いので何も言えないと言うか、横でパー子が『パーちん……』って凄い味わい深い顔してるんすけど……いやこれどうなるんすかねー?


 

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