第65話 城壁にて





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 城塞都市の城壁上では、幾つかの人影があわただしく駆けまわって居た。


「あ――もう!! さっきから流れ弾がえげつないんすけど!?」


 叫びを上げる蜜希が見据える先、数キロ向こうでぶつかり合う二人のアーサー王がいる。


 そのうち先代の振るう光剣は、一太刀振るうごとに光の斬撃が円弧となって突き抜け飛翔する。必然その内のいくつかは城壁へとぶつかる軌道を描く訳で、


「ギラファさん! 大丈夫っすか!?」


 迫る百メートル越えの飛ぶ斬撃を、カウンターアタックの要領で突っ込んだギラファさんが砕き散らした。


 武器もなく、己の体で光の斬撃を受け止めて置きながら、実に涼しい声が彼から帰る。


「私の甲殻なら問題ない、それよりマーリン達の準備はどうなってるかね?」


 その言葉に視線を向けた先、神格二人が城壁上で何やら話し込みつつ杖を操作していた。


 因みに騎士団は大多数が都市の中へと退避済みだ。まあ一般戦闘員にあんな規格外攻撃受け止めろと言うのも酷な話で、むしろなんで平然と受け止めてるんすかねギラファさん?


 とはいえそんな事より今は状況の確認だ、自分はマーリンさんとモルガンさんに向けて口を開き、


「そこの新婚夫婦! 術式の構築はどんなもんっすか!?」

 

「んぐぅ!?」


 モルガンさんが盛大にどもって構築中の光が弾けた。


「おいいいいい!? 集中乱れるから変な言い方するなよ! いや事実なんだけどさ!?」


 叫ぶマーリンさんには悪いが、正直反応が面白いので今後しばらくはからかえそうだな思うわけで、


「事実ならいいじゃないっすか、てか軽く流してたっすけど謝罪も無しに普通に合流とか良い空気吸い過ぎじゃないっすか? ん?」


 自分の言葉に、城壁上の全員の視線が神格二人に集まって、無言の抗議の前に、やがて二人は一様に跪き、


「ああああああそれに関しては何一つ言い返せないいいいい!! ごめんなさい!」


「え、ええと、申し訳ありませんでした!!」


 謝罪の言葉に自分は頷き、城壁の上に残る騎士たちと共に親指を上げて笑みを見せる。


「許す! ってな訳で進捗どんなもんっすか?」


「反応軽ッ!? ――ええと、防護術式の強化は完了しましたが、陛下とアリスが聖剣の最終拘束を解放した場合どう頑張っても持ちません」


 いやそれかなりピンチでは無いだろうか、ぶっちゃけ今にもその段階に移行しそうな気配が漂っているのだが。


 城壁上が重い沈黙に包まれかけたタイミングで、体の周りに二桁の数で術式陣を展開しているマーリンさんが叫ぶ。


「そっち対策も七割がた終わってる! ただ耐えられるかは正直なところ五分ってところかな!」


「上等! 1%でも可能性があるなら試す価値ありっすよ! ――パー子!」


 言葉の行く先はギラファさんの対応できない位置の光刃をアグラヴェイン卿やモードレッド卿と共に迎撃しているパー子だ。


 光槍を束ね、破城杭にしたうえで光刃を相殺している親友は、此方の呼び声に更に迎撃のための光槍を多重展開し、


「わかってますわ! ――ですけれど、来ますわよ!!」


 答えに頷きを返して見上げれば、遠く、今までとは明らかに規模の異なる光の輝きが見えている。


 直後、突き抜ける様に飛来した衝撃波が城壁と都市上空を覆う防護術式へと激突。激しい鳴動と共に術式の表面が一度洗い流される様に飛沫が舞った。


 その余波を姿勢を低くして耐えるなか、瞳に映る光景は――


「なんすかあの馬鹿みたいなサイズの光剣は―――――!!?」


 どう考えてもサイズ比が狂っているとしか言いようがない光の聖剣。空の暗雲を突き抜けそびえ立つそれは未だ剣先を見せず、一体どれだけの長さか分りもしない。


「アレが、先代アーサー王の……」


「ああ、最終拘束開放形態である超越の刃。当時と変わらないのならば、その切っ先は成層圏すら斬り伏せる」


「――――過剰戦力では?」


「そうでもない、それこそ五百年前の災厄の時などしょっちゅうアレを振るっていたからな」


 流石に城壁へと戻って来たギラファさんの言葉に、自分は最早口を開けて呆けるしかない。


「言って置きますけど、規模で言ったら貴女が私達に放ったアレも似たようなものですからね?」


「と言うか蜜希はアレもう一回使えないの?」


 モルガンさんとマーリンの疑問に、自分はホルスターに収めた希望を軽く叩き、


「んー、多分テンションが鍵な気はするんすけど、流石にあの時の激昂状態は自分で再現するのはMURIっすね」


 確か使用者の精神強度が云々と言って居たし、テンション次第なのは疑う余地も無いのだが、現状自分は全身筋肉痛状態だ。正直今すぐ風呂入って寝たい。 


 だがそんな思考を置き去りにする様に、事態はさらに激しさを増す。


 再度の爆圧と共に視界に生まれたのは、光輝く黄金の装甲を持った全長二百メートル越えの巨神の姿だ。


「アーサー王何やってんすかあれ!!」

 

 ロボじゃん! 勇者で王様的なロボじゃん!! しかもなんか塔みたいな機構備えてるし!!


「あの腕一体どういう武器なんすか?」


 何やら先程通信でアーサー王と話して居たアグラヴェイン卿へと疑問を投げかけると、彼は此方を一瞥してから肩を竦め、


「――わからん」


 はい?


「ちょっ!? アグラヴェイン卿? どういうことですの!?」


 パー子の叫びには全面的に同意しかないが、帰ってくる答えは無情にも事実として突き付けられる。


「陛下が最終拘束を解放したことは一度も無い、故にその内容は俺も未知だ。――あんな訳の分からない物が出てくるとも思っていなかったしな」


「あー、なるほどっす……」


「なに、今すぐに実演されるだろうさ、見たまえ蜜希」


 ギラファさんに促される様に見据える視線の先、望遠術式にノイズが走る程の魔力が吹き荒れた。


 展開した足場に己を固定し、高速で回転する塔のような機関。その回転が不意に噛むように停止し、後端を撃鉄が叩いた瞬間。


 天より迫る光剣を、地より放たれた光撃が、真正面から迎え撃った。


 

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