第40話 迎撃開始
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「術式隊、対死霊結界の範囲を城壁から五百メートル先まで拡大しろ。出力が落ちる? 死霊や騎兵の出現場所がそこまで下げられればいい、上を厚くして側面は手薄で構わん」
手元にいくつもの通信術式を展開したアグラヴェインは、城壁の上に立ちながら各所へと指示を飛ばしていく。
「アグラヴェイン卿! 城壁近辺の住民の避難、あと二割ほどです!」
「急がせろ、戦闘によって住居や財産に被害が発生した場合はこちらで修繕費用を二割増しで補填する。避難に該当していない地区も屋内待機と家屋用結界の使用を徹底させろ!」
「了解であります!」
「他の領地の警戒態勢も上げて置け。それから放送班、娯楽系の有料配信を一時的に国で全額負担、必要以上に不安をあおるな、むしろ屋内から出ないように誘導しろ。――各工場や商店も最低限のライフラインを残して自粛、明日の朝までは掛からんと説得しろ」
「次、地上近接部隊、城壁外への展開は完了したな? いいか、前に出過ぎるな、攻勢では無く防衛が任務だと忘れずに、必ず小隊単位で行動し、互いに補助の出来る距離を保て。――術式工兵、作業の進捗はどうだ、……よし、直ちに撤収、多少の不備はこの際構わん!」
ふと、顔の横に新たな術式陣が表示される、それは王城の管制室からの物で、
「アグラヴェイン卿、陽動隊の射出準備完了、――射出されました!!」
直後、光の軌跡を持って高速の飛翔体が前へと突き抜け、音速超過を知らせる破裂音が衝撃波と共に鳴り響く。
「パーシヴァル卿め、射出に合わせて自前の加速術式まで使ったな」
上を見上げるのは一瞬、即座に視線を術式陣へ戻し、叫ぶ。
「総員構えろ! 陽動が行った、直ぐに死霊が湧いてくるぞ!!」
準備の時間は終わり、ここからは、実践の時間だ。
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「パー子、ギラファさん、着地お願いしますっす!」
現在、キャメロットの城壁から三キロ程度。少々離れすぎている気もするが、災厄がこちらに反応するのなら、ある程度城壁から距離をとって置きたい。
パー子が槍の加速術式を逆噴射し、ギラファさんが翅を展開してエアブレーキを掛ければ、飛翔体は急激にその速度を低下。
加護を発動してなお意識が飛びそうな程の減速Gが掛かり、一瞬体中の血液が足先から頭部に流れる様に視界がレッドアウトしたが、自分達の乗った飛翔体は確かに速度を落とし、それに合わせてパー子と自分を抱えたギラファさんが飛翔体から離脱する。
「予定通り、ワイルドハントの暗雲はこちらを追尾していますわ」
パー子の言葉に空を見上げれば、先程までキャメロットの周辺に展開していた暗がりが、自分達を追う様に急速に縦に広がってきているのが視界に映った。
「流石に引き剥がせはしないっすか。でも、大部分はこっちに流れてる感じっすね」
視線の先、次々と蒼雷が鳴り響き、それに合わせて死霊の群が大地へと展開していく光景を眺め、ギラファさんが口を開く。
「キャメロットとの間を結ぶように湧きつつも、密度としてはこちらが濃いか。城兵の奮闘次第ではあちらに流れるだろうが、こちらはこちらで親玉を降ろすために派手に行くぞ!」
「――では、一番槍はいただきますわね?」
そう言ってパー子がギラファさんの腕から飛び降り、空中に展開した光槍を掴んで更に上空へと加速する。
「円卓の騎士が一席、聖槍のパーシヴァル、参りますわ!!」
槍を離し、両手を開けたパー子の周囲に展開するのは、数十はあろうかと言う光槍の群。
まるで槍衾の様に辺りに浮かぶ光槍を、彼女は、投げるのではなく、ただ触れる。
直後、流れる様な動作で騎士の手指が触れた光槍が、その指先の微調整を持って加速術式でぶちまけられた。
「貫き穿て、ペルセヴァル!!」
行く先は無論、死霊の群。地上に展開した死霊達だけでなく、落ちてゆく最中の蒼雷すらも貫き霧散させて行く。
と、
「ちょおいパー子! 一発横掠めてったっすよ!?」
「あら御免あそばせ。ですが蜜希、貴女を抱えていては教官が参戦できませんわよ?」
言いおったなこやつ。
「上等! ギラファさん!!」
名前を呼べんで、自分は彼の腕から抜け出した。
腕の力で体を上に跳ね上げ、彼の大顎の上へと着地する。
普段の自分であれば難しい曲芸じみた動作も、竜の加護によって加速された思考と、フィーネによって更なるチューニングがされた全身のハーネスによる補助が合わさり、まるで慣れ親しんだ動作の様に自然に果たされた。
「さあ、お願いするっすよ、ギラファさん!!」
つまり、無茶が出来ると言う事だ。
「まったく、無茶をするな君は!!」
ギラファさんが頭を上に振り上げる動作に合わせ、跳躍。ホルスターから抜き放った『
自分がフィーネに出した、視線ロックや魔力追尾を含んだ幾つもの要望。その一つが、状況に合わせた光弾の形態変化。
――座標指定完了、数二十、射撃形態『拡散誘導』
「いっけえええええ!!」
視線でロックした標的へと、銃口から放たれた光弾が駆け抜ける。
空中で二十に枝分かれした光は、こちらへと狙いを定めていた空飛ぶ騎兵を的確に貫き、浄化させていく。
下を見れば、もう地面が近い。更には今の掃射を抜けてこちらへ駆けてくる騎兵が見えた。
――故に、
「次、射撃形態『放射』!」
身を翻し、銃口を下に向けて引き金を引けば、ロケットのブースターの様に光が吹き荒れ、自分の体は反動で減速しつつ地面に着地する。
足が地面に付いた瞬間、横に飛び退く。すると一瞬前に自分がいた場所を騎兵の槍が通過した。
「――!!」
直後に上空から飛来したギラファさんの刃が騎兵を両断し、背の翅を用いて再度飛翔していく姿に、自分は手を振って声を飛ばす。
「ヒュー! ありがとうございます!」
そのまま空の騎兵を連続で切り裂き、急降下して地を翔ける様に此方の横を通り過ぎてゆくギラファさんは、嘆息と共に言葉をつくり、
「君はもう少し安全に行動したまえ! 今のはこっちの肝が冷えたぞ!!」
まあまあそう言わないで、
「自分でも対応出来たっすよー! でもまあ、なるべく気を付けるっす!」
一応フィーネから譲り受けた索敵用の術式陣を顔横に展開し、加護で加圧された思考で確認しては居るのだが、なにぶんにも死霊は蒼雷と共に突然現れる。
背後からの接近にはアラートが鳴るようにしてはあるが、それに頼りきりは不味い。視界は一方向に固定せず、なるべく俯瞰的に戦況を見極める必要があるだろう。
「蜜希、余り離れすぎないように、孤立されると援護が届きませんわ!」
自分と同じく地上に着地し、四方八方へと光槍を投げ放つパー子の声に、片手を上げて返事とする。
「はいはい、そんじゃあ初陣。いっちょ蹴散らすっすよ、『
射撃形態は最初と同様の『拡散誘導』、ただし今度は視線による誘導では無く、死霊の魔力に反応する自動誘導形式に設定。
僅かなチャージを終えて放たれた光弾は、自分の頭上で花のように展開。地上の死霊へと雨のように降り注ぐ。
味方への誤射は気にしない。自分がフィーネに「これだけは絶対に」と強く要望を出した二つが、味方への誤射対策と、自分が望む以上の損傷を相手に与えない事だ。
今は死霊相手なので後者は関係ないのだが、この二つは同様の機能として実装されている。
つまり、「敵に向けて撃ったとしても、味方に当たった場合は威力がゼロになる」のだ。どういう原理なのか聞いたところ、光弾の性質を概念的に定義し使用者の意志に応じて効果が変動するとのことだが正直まったく分からんす。
ただまあ、安全性に関しては射撃訓練中に、不意打ちで光弾が放たれた場所にパー子を投げ入れる形で証明済みだ。標的を貫通した光弾が勢いそのままパー子へ直撃したが、体にはダメージはおろか衝撃すらなかった。
ただ、試しに吹っ飛べと念じながら当てたら盛大にパー子が吹き飛んでいったので、この辺りは自分の意思次第の模様。
フィーネの造った神骸機装のトンデモっぷりに思わずドン引きしたわけだが、理想的な武器であるのは事実なので良しとする。
「こっちは殲滅戦、親玉を引きずり出すためにも、出し惜しみせずにぶちまけるっすよ!!」
あ、誘導甘かった一発がパー子の尻に激突した。まあ、派手なエフェクトが散っただけで害は無かったので良しとするっすか。
「後で一発ひっぱたかせなさいな!!」
全面的に私が悪いのでとりあえず頭は下げて置いたっす。
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