第3話

「ん?冷たい......」

いつの間にか眠ってしまっていたようだ。日はもう落ちている。異常な寒さと服が肌に張り付く嫌な感触を覚えた。雨が降ったのか、「海底二万海里」も水を吸って重くなっている。

「くそ、甲板で読むんじゃなかった!」

とりあえず飯を食おうと思い、カバンを肩に賭け、震えつつリリーを探した。しかしリリーはどこにもいない。リリーだけでなく他の漁師達も。どこかの港に降りたのかと考えたが、周りには小島一つない。船は変わらず北上している。操縦者がいない巨船に一人取り残されるなんて、こんなにも恐ろしいことがあるか。

「リリー!ラピス!」

僕は迷子になった濡れ犬のように歩き回っているうちに、雨が振り始めた。こんなことなら来るんじゃなかった。皆怪魚に喰われてしまったのか?そんな思いが脳裏をよぎった時だった。


がん!と大きな音を立て、船先が下がり、沈み始めた。弾みで恐ろしく暗い海に振り落とされそうになり、僕は必死で船の後方に向かって走た。混乱していても本能的に体が動く。甲板は雨で濡れ、よく滑る。船はがたんがたんと大きく揺れながら海に飲み込まれていく。その度に僕の体は跳ね飛ばされそうになる。全身の力を振り絞り、僕は手すりにしがみついた。

雨はいよいよ激しくなり、雷を連れてきた。まるで僕を叱っているかのような雷鳴が体を痺れさせた。

「たすけて!誰かいないの!」

そんなことを叫んでも、返事はない。脳みそをフル回転させて助かる方法を考えているうちにも船は沈んでいく。

僕は一塁の望みを賭け、真っ黒な海に飛び込んだ。波が痛い。寒い。溺れまいとがむしゃらに腕を荒れる海に叩きつける。しかしそんな奮闘も虚しく、海水は体温を着実に奪っていった。


じきに寒さというものも感じなくなり、手足も動かなくなった。


最後に聞こえたのは、海水が耳に流れ込む、ごぼという音だけだった。

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