第2話

リリーの出港の日。僕はカバンに水やらパンやら、ランタンやらをぎゅうぎゅうに詰めていた。備えあれば憂いなし、だ。最後に大きいナイフを押し込んで家を出た。

港に走って行くと、もう船上では大勢の漁師が出港の準備をしていた。見送りの家族たちも大勢いる。その中にバンザの姿を見つけ、僕は駆け寄った。

「バンザはやっぱり行かないのか?もったいない」

「おれは料理屋で見習い修行があるからな。fが帰ってきたら、もっと上達してるぞ。何が食べたい?」

「サーモンとイモ。あれが一番好きだ」

「まったく、欲のないやつだな」

バンザは手を伸ばし、僕の頭を撫で回した。それほど年は変わらないのに、バンザは僕を小さい子供のように扱う。

「出港だぞー!早く乗れ!」

ガンガンという鐘の音と共に漁師たちが叫んだ。

「もう行くよ」

「おう、怪魚に喰われんなよ」

僕は漁師の手を借りながら甲板に登った。


帆に風を受け、白い船は出港した。甲板のハッチを開け、はしごを降りた。船室には荷物が所狭しと並んでいる。

「おい、君、fだろう」

年老いた知らない漁師に声をかけられた。

「外へきなさい。教えてやるから」

漁師について外に出ると、漁師は地図を広げながら地形の説明を始めた。

「あそこに小さく島が見えるだろう。あれがモエレン島だ」

漁師はつぎに西の海を指した。

「今はよく見えないが、あっちには「ジムルヤ」という大きな島がある。儂らの島とは、比べ物にならない。昔はジムルヤとも交易をしていたが、今はもう......」

「なんで今は交易しないんだ?」

「ああ、いや、若者は知らないほうがいい。皆そう思っている。挨拶が遅れたな、儂はラピスという。よろしくな」

ラピスの話をもっと聞きたかったが、仕事があるからと言って船の先の方へ行ってしまった。どうやら見張り番らしい。


漁師たちは皆各々仕事をしていて、僕だけが手持ち無沙汰だった。十里程と、遠くない距離とはいえ、風を頼りにする旅だ。運が悪ければ3日、いや一週間ということもあり得る。気長に待とうと思い、僕はカバンから「海底二万海里」を取り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る