第258話  『霧』問題に直面しちゃう、ぽっちゃり


「――『霧』だよ。例のごとく、海豊祭かいほうさい開催直前になって、またあの『霧』が出やがったんだ!!」


 おじさんは、神妙な面持ちで答えてくれた。

 だけど、正直いまいち状況が掴めない。

 なのでわたしは、おじさんに根本的な部分を質問することにした。


「霧って……なんなの?」


 わたしとしては、てっきりヤバめの魔物でも現れたのかと思っていたんだけど、原因はまさかの自然現象だった。

 まあ濃霧とかだと視界不良に陥ってしまって危ないから、お祭りは中止というのも分からなくはないけど、どこか街の住人の雰囲気とは異なる気がする。

 わたしはおじさんに聞いたつもりだったんだけど、隣にいたエミリーがその疑問に答えてくれた。


「……ここ最近は、海豊祭かいほうさいの開催直前になって、謎の霧が蔓延する現象が発生しているようです」

「謎の霧?」

「はい。王都から正式な調査隊なども派遣されているようなのですが、原因は不明なようで……」

「原因不明の霧か。ラグリージュって昔からそんな自然災害が発生したりするんだ」

「いいや、この霧が出現しだしたのはつい三、四年前くらいのことだ」


 おじさんが渋い声で入ってきた。

 その発言に、わたしは脳内で疑問符が増える。


「えっと、昔からこの霧は発生してたわけじゃないの? てっきり何か地形的な問題で周期的に出現する自然現象なのかと思ってたんだけど」

「それならまだ良かったんだが、生憎そういう訳じゃない。それに、自然現象なら霧が発生する原因はとっくに解明されてるはずだろ?」

「あ、そっか。霧の発生原因は未解明なんだっけ」


 さっきエミリーが言っていたことを忘れていた。

 つまり、要約するとこういうことか。

 霧は三、四年まえからいきなり出現し、それは決まって海豊祭かいほうさいが開催される直前で、しかもその原因は一切不明。

 ううむ、聞けば聞くほど謎が深まる現象だ。


「私はここ数年間はベルオウンの方でアルバート様とオリビア様のメイドとしてこの街を離れておりましたので、父からの又聞きにはなるのですが……こちらの商人の方のお話を聞く限り、ほとんど相違はないようですね……」

「そっか……。ちなみに、これまでは霧が発生したらお祭りはどうなってたの? 無理やり開催してたり?」


 ラグリージュの文化的にあり得なくはない。

 多少の障害ならうやむやにして押しきりそうな感じがある。


 だけど、おじさんは悲しそうな顔をして首を横に振った。


「いや、霧が発生したら海豊祭かいほうさいは中止だ。これまでもずっとそうだった。一度、霧が発生しても開催を決行したことがあったんだが、そうするとまるで神の怒りを買ったようにどんどん霧が濃くなっていき、最終的にはラグリージュ全域が前もよく見えないほどの霧に包まれちまったんだ。それ以降、霧が発生したら祭りは中止することに決まっちまった。さすがに参加者に危険が及びかねない事態だからな」

「ええっ! それじゃあ、このまま霧が広がり続けて解消できなかったら、明日のお祭りは中止ってこと!?」

「……残念ながら、そういうことになるな。その雰囲気だと嬢ちゃんは祭りには初参加っぽいが、このままだと中止になる可能性が濃厚だってことは覚悟しておいた方がいいぞ」


 そ、そんな!

 もうわたしはお弁当屋さんをオープンする気マンマンなんだよ!?

 今さらこの気持ちを引っ込めることはできない!


 ……だったら、方法は一つしかないか。

 わたしはぎゅっと拳を握り、決意に炎を灯らせる。


「それなら……わたしがその謎の『霧』問題を解決するしかなさそうだね……!!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る