第156話 絡まれちゃう、ぽっちゃり
たまたま近くを通っていたので飛び入り参加した大食い大会。
ビーチの上には、横に長いテーブルが一つ設置されていた。
そのテーブルには、いかにもフードファイターらしき人たちが八人すでに着席している。
その真向かいには仮説キッチンが置かれていて、料理人や給仕係の人たちがスタンバイしていた。
わたしは空いている一番左の席に案内される。
そこだけ空席になっており、そのテーブルの上には九番の札が立て掛けてあった。
ここがわたしの座席のようだ。
席に座ると、隣にいた男が小馬鹿にしたような笑みで語りかけてきた。
「へっ、嬢ちゃん。飛び入り参加とは中々の勇気じゃねぇか」
「……だれ?」
「おいおいこの大会に参加しておいて俺のことを知らねぇってのか!? ガハハハ、笑わせてくれるぜ! 知らねぇってんなら教えてやる。俺はジャイアント・ボブだ!」
「ジャイアント・ボブ!?」
この男がちょくちょく話題に出ていたジャイアント・ボブとかいう絶対王者か!
確かにガタイはめちゃくちゃ大きく、身長も高く、体に蓄えた脂肪もわたしの比ではない。
しかもギラギラとしたサングラスもしていて存在感が凄まじい。
実は小ぶりのオークですとか言われてもうっかり信じてしまいそうなくらいだ。
これは見るからに相当な強敵になりそうだね。
「見たところ嬢ちゃんは食の訓練を積んでねぇだろう。多少心得があるフードファイターならまだしも、嬢ちゃんみたいな素人じゃ俺に勝つことは不可能だ! それどころか、他の参加者と張り合うことも厳しいだろう。アイツらも俺ほどじゃねぇが、かなりの大食漢だ。ま、いい記念にはなるんじゃねぇか!? ガハハハハハ!!」
「……ふーん。そこまで言うならどんなもんか見せて貰おうじゃない。ていうか、そんな絶対王者さんがこんな端っこの席でいいの?」
「中央の席は左右の参加者の積み上がった皿が後々邪魔になる。一番食いやすいのは、テーブルの両端どちらかの席だ。片方のスペースが空くからな。ま、嬢ちゃんが飛び入り参加してくれたおかげでその作戦もパーになっちまったが」
「もしかして今から負けたときの言い訳?」
「まさか。これくらいハンデにもならねぇさ!」
この男、めちゃくちゃ突っかかってくるな。
何だろうこの既視感。
ああ、あれだ。
アメリカのドラマに出てくる太った陽気なキャラに似てるんだ。
キャップの帽子を反対向きに被って、似合わないグラサンみたいなのしてる感じ。
現にこの男もサングラスしてるし。
わたしがジャイアント・ボブの性格に辟易していると、司会の人が勢い良くマイクを手に取った。
『さあ、今年も始まりましたラグリージュ名物の大食い大会! 三日後に控える
心地よい日照りの中、司会の煽り文句が響きわたる。
そう言えばこの大食い大会のルールとか何も知らないんだけど、どういう風に進んでいくんだろう。
一回戦とか二回戦とかあるのかな。
奥にある仮説キッチンに目を向けてみると、すでに出来上がった料理を準備し終えている。
この先の流れがどうなるのか待っていると、またしても左隣からデカイ図体の男が顔を寄せてきた。
「へへっ、いよいよ第一回戦が始まるぜ。せいぜいムリしねぇようにな。リバースする時はあっちの海の中で頼むぜ」
「吐かないよ。そっちこそ、優勝の座から転げ落ちる覚悟はできた?」
「ガハハハ、おもしれぇ嬢ちゃんだ! そこまで言うならお手並み拝見といこうじゃねぇか!」
ジャイアント・ボブが豪快に笑う。
そのせいでギャラリーや他の参加者の注目を浴びてしまうが、今は気にならない。
参加するからには当然負けるつもりなんて毛頭ない。
このジャイアント・ボブって人がどれだけ強靭な胃袋を持っているのか知らないけど、わたしは全力で優勝をつかみに行くよ!
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