第155話  大食い大会に参加しちゃう、ぽっちゃり


 貿易港を歩いていると、かすかにマイクを通した声が聞こえてきた。


『さあさあ皆さん、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ラグリージュ名物大食い大会の開催だよ! お金を払えば飛び入り参加も可能! 今年は前回王者を破る者は現れるのかぁー!?』


 わいちゃんが言っていたように、かすかにいい匂いも漂ってくる。

 どうやら、マイクの声も謎のいい匂いもわたしたちの進行方向の先から流れてきているようだ。


「コロネお姉ちゃん、大食い大会だって!」

「おもしろそうだね! ちょっと行ってみよう!!」

「うん!」


 わたしはナターリャちゃんと一緒に走り出す。

 すでに貿易港の端の方まで来ていたので、ほどなくして港を抜けることができた。

 港の隣は切り出されたビーチが広がっていて、ここはさっきまでの工業的な雰囲気とはうって変わって観光需要を満たしたリゾート地のようだ。

 ビーチフラッグやパラソルなんかが点在し、男女問わず水着の人も少なからずいる。

 もちろんわたしたちみたいな普通の格好の人も歩いてるけど、みんな比較的軽装が多い。


 そんなビーチの一角で、何やら人だかりができているエリアがあった。

 その群衆の真ん中で、一人の男性が聴衆を煽るようにマイクで叫ぶ。


『まもなく大食い大会が開始されます! 現時点での参加者は八名! みな屈強な実力者揃いだが、中でも前回王者のジャイアント・ボブの存在は触れずにはいられないでしょう! さあさあ、まもなく参加を締め切りますが、新たなチャレンジャーは現れないかぁー!?』


 ここまで近付くとうっすらとしか聞こえなかったマイクの声もはっきり響いてくる。

 人だかりの近くまで歩いてみると、色んな所から話し声が聞こえてきた。


「お前、挑戦してみろよ」

「いやいや、あのジャイアント・ボブがいるんだぞ。優勝は絶対ムリだろ」

「前回は二百人前のホットドッグをペロリと完食して平然と追加で飯食ってたからな」

「上位三位以内に入ったら参加費は返ってくるし、賞品も貰えるんだぜ」

「けど参加費は金貨五枚だろ? それじゃあ普通に飯食いに行った方が得だって」


 何やらギャラリーはあまり参加に積極的ではないみたいだ。

 さっきからちょくちょく『ジャイアント・ボブ』とかいう名前が聞こえてくるけど、その人が強すぎてみんな尻込みしてるのかな?


『現在参加が確定している八名はすでに所定の席についていただいております! 料理班・給仕班のスタンバイもバッチリだー! さあさあ、それではもうまもなく大食い大会を開催します!!』


 大食い大会の開催が近づき、ギャラリーの熱気も高まってくる。

 それと同時に、わたしの決意も固まった!


「ナターリャちゃん! わたし、この大食い大会に参加してくるよ!」

「うん、わかった! 頑張ってねコロネお姉ちゃん!」

「ありがとう! ちょっとサラも預かっていてくれる?」

「もちろんだよ! おいで、サラちゃん!」

「ぷるーん!」


 わたしの服の隙間からサラがするんと抜けてナターリャちゃんの肩に飛び乗る。

 別にサラを服の下に隠したまま行っても良かったんだけど、後から不正を疑われたら嫌だからね。

 ここは念には念をということで、サラはナターリャちゃんたちと一緒に見学していてもらおう。


 一人になったわたしはギャラリーをかき分けていき、手を上げて会場に足を踏み入れた。


「すみません! わたし挑戦していいですか!?」


 わたしが名乗りをあげた瞬間、ギャラリーがざわざわと騒ぎ出す。

 そして、司会の男の人も歓迎するようにわたしに指をさした。


『おおっと、ここで新たなチャレンジャーの登場だぁああああああああ! なんとなんと、最後のチャレンジャーは女性! しかも若い! これは私も予想外の展開です!』


 司会の人がわたしの登場を囃し立てていると、一人の係員の人がやって来た。

 その人に参加費として金貨五枚を支払い、名前を用紙に記入する。

 少し待っていると、別の係員の人がわたしの服の胸部に丸い名札を持ってきてくれた。

 その名札は手のひらくらいの大きさがあり、中央に『9』という数字が書かれ、その下に『コロネ』と記載されている。

 この数字は参加者番号だろう。

 これで正式に今大会の出場メンバーの一人になったわけだ。


「大食い大会なんて参加するのは初めてだからね! この異世界の大食いマスターたちがどれくらいのレベルなのか楽しみだ!」


 わたしの出場が正式に決定した瞬間、新規の参加はここで締め切り。

 司会によって大食い大会開催のスピーチが宣言された。



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