第146話 良さげなお店を発見しちゃう、ぽっちゃり
ドルートさんから許可をもらい、三十分ほど自由時間を得ることができた。
各々が自由にしていい休憩時間として設けられたこの時間、わたしはすぐに馬車を飛び出してラグリージュの街に降り立った。
車道の端っこで手を広げ、ラグリージュの空気を全身で感じる。
「う~ん、気持ちいい風だなぁ。あ、近くに大きな港があるから、そこから風が吹いているのかな」
深呼吸して吸い込んだ空気は、ベルオウンの空気とはやはり少し違っていた。
ラグリージュは街の半分ほどが海に面しているエリアだからか、まだ港からは少し距離があるこの場所でもかすかに磯風っぽい香りが漂っている。
それに、日照りもベルオウンよりも直で当たっている感じがする。
この王国に四季があるのかわからないけど、体感としては日本の春先くらいの気温でまだ猛暑というほどではない。
真夏みたいな気温じゃなくて助かったよ。
「さて、それじゃあどこから見て行こっかな~」
「コロネお姉ちゃーん!」
「あれ、ナターリャちゃん。着いてきたの?」
「うん! だってコロネお姉ちゃんが急いでどこかに行こうとしてたから、気になって!」
「ごめんごめん。行き先を伝えてなかったね」
まあ別にそんな大した場所に行く訳じゃないけどね。
ちょっと我慢できなくなったからどこか美味しそうな料理でも食べようかと思っただけだし。
「実はさっき窓から街並みを見てた時に美味しそうな料理を売ってるお店がいくつかあったからね。ちょっとそれを味見しようと思って」
「なぁんだ、そうだったんだね! ま、コロネお姉ちゃんならそうだよね!」
「ふっふっふ、食はわたしの人生といっても過言ではないからね。それじゃあ早速、近場の出店でも見に行ってみよう!」
「うん! ナターリャもご飯楽しみ~!」
わたしはナターリャちゃんと一緒に車道から離れて歩道へ移動する。
人通りはベルオウンより少し多いくらいで、それなりに雑踏がある。
わたしははぐれないようにナターリャちゃんと手を繋ぎながら一緒に歩いてくる。
「そう言えば、サラとわいちゃんは馬車にいるの?」
「うん。エミリーお姉ちゃんとリベッカさんにもふもふぷにぷにされてたよ」
「そ、そうなんだ。従魔は珍しいからかな。まあ、楽しそうにしてるならよかったよ」
サラもわいちゃんも皆と馴染めているみたいで安心だ。
わたしはナターリャちゃんと一緒に街を歩いていると、色々な露店が建ち並んでいるのが見える。
「わあ! たくさんのお店があるね、コロネお姉ちゃん!」
「そうだね! でも見た感じここら辺はお土産屋さんとかかな?」
歩きながらざっと見た感じ、ここら辺は食事系のお店はなさそうだ。
代わりに多種多様のラグリージュ名物らしいお土産なんかが売られている。
お土産も買いたいところだけど、それは今じゃなくていい。
「ご飯を売ってるところはないかなぁ~っと……ん、あれは……」
何か美味しそうな料理を提供しているお店はないかと歩き回っていると、ふとスパイシーな香りが鼻をかすめた。
これは料理の香り!?
一体どこのお店で売ってるの!?
「コロネお姉ちゃん! あれ、ご飯屋さんじゃない!?」
キョロキョロと周囲を探していると、ナターリャちゃんが指をさした。
向こうの方にある一軒の屋台から、美味しそうな煙が昇っているのが見えた。
「そうかも! ちょっと行ってみようか!」
ナターリャちゃんと一緒に往来する人たちをすり抜けて目当てのお店へ直行する。
すると、店主のおじさんがわたしたちに気づいた。
「おう、らっしゃい嬢ちゃん!!」
薄着で頭にハチマキを巻いたおじさんは、力強い声で挨拶してくれた。
わたしはおじさんが太い腕で振っている中華鍋のような大きなフライパンを見る。
「おじさん、これは何の料理を作ってるの?」
「ん? ああ、これは海鮮チャーハンだ!」
「か、海鮮チャーハン!?」
「そうだぜ! ラグリージュは魚介類が美味いって有名だからな。そんな食材を使って作る海鮮チャーハンは絶品だぜ!」
大きなフライパンの中には、パラパラに焼けたご飯にエビや卵、長ネギなどが混在している。
見ているだけでめちゃくちゃ美味しそうだけど、間近でその香りを浴びるともう辛抱たまんない!
「おじさん! 大盛りの海鮮チャーハンお願いします!」
「ナターリャも、普通の大きさのやつ食べる~!」
「まいどあり! もうすぐ出来上がるから、ちょっと待っててくれ!」
おじさんはさらに気合いを入れてフライパンを振っていく。
その度に吹き抜けてくるチャーハンの香りを浴びながら、料理が完成するのをナターリャちゃんと一緒にワクワクしながら待つのだった。
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