第140話 年長者に仰天しちゃう、ぽっちゃり
ポテトを思わぬ形で評価され、ドルートさんに店を出すよう迫られてからしばらく。
時間もそろそろいい頃合いだったので、バーベキューをお開きにして今は皆でログハウスの広間に集まっていた。
そこには大きなソファが並べられていて、わたしはふかふかのソファに腰を下ろしている。
え、このソファはどこから持ってきたんだって?
それはもちろん、ドルートさんの提供だ。
「コロネさん、本日は重ね重ねありがとうございます。このようなしっかりとしたお家で寝泊まりさせていただいて」
「いやいや、こちらこそだよ! こんなソファも貰っちゃって、他にも色々と便利な魔道具も……! 本当にありがとうございます!」
「ハハハ、それならば良かったです。私が持っていても腐らせるだけでしたからね」
ドルートさんは楽しそうに笑う。
よく見ると頬が少し赤っぽくなってるから、もしかしてお酒でも飲んだのかもしれない。
そう言えば、ドルートさんはバーベキューをしていた時もログハウスのデッキにあるテーブルにリベッカさんと座ってただけだったよね。
あんまりバーベキューの方のお肉とかを食べていた記憶がない。
夫婦水入らずだから特にわたしも深くは入り込まなかったんだけど、その時に二人でお酒でも飲んだのかもしれないね。
幸運にも今日はキレイな満月だったし、辺りは一面草原だ。
しかも夜というシチュエーションも相まって、何だか少し幻想的な雰囲気もある。
そんな景色を見ながら晩酌でもしたら、中々に捗りそうだ。
まあお酒飲んだことないからわかんないけど。
「ねぇねぇ、コロネお姉ちゃん! ポテト屋さんの名前なににするか決めた!?」
「いや、決めてないよ。というか、そもそもポテト屋さんを開くかどうかも決めてないからね」
「ええ~! やろうよポテト屋さん! きっと楽しいよ!」
「うーん、そうだなぁ」
隣に座るナターリャちゃんはさっきからかなりわたしの出店の件に食いついてくる。
「でも、ポテト屋さんを開いても需要があるかは分からないよ? ほら、ドルートさんもちょっと胃もたれしてたし」
「いやはや、面目ない限りです」
「いやいや、別にドルートさんを責めているわけじゃないよ? ただ、ちょっとお年を召した人があんまりポテトを食べると体調が悪くなっちゃうかもってことで」
「ええ~! でも、ナターリャはたくさんポテト食べたけど何ともないよ!」
「そりゃあナターリャちゃんはまだ若いからだよ。年を取るとだんだんとカロリーが高い物とか食べにくくなっていくらしいよ。四十歳や五十歳でピザとかステーキ食べまくってる人ってあんまりいないでしょ?」
人間、誰しも歳には勝てないからね。
年齢を重ねるにつれて次第に油っこいものとか甘ったるいものとかが受け付けなくなってくる、なんて話はよく聞くし。
まあ、わたしは生涯現役を目指しているけどね。
何歳になってもステーキの美味しさがわかる人間でありたいと常々思っている。
わたしがしみじみとした表情で教えてあげると、ナターリャちゃんはよくわかっていないのか首を傾げた。
「うーん、そうなのかなぁ? ナターリャは、四十歳でも五十歳でもお肉料理好きだったよ?」
「いやぁ、その心意気はわたしも同じだよ。だけど…………って、ちょっと待って。いま、好きだった、って言った?」
わたしの聞き間違いじゃなければ、ナターリャちゃんは「好きだった」と過去形で言ったはずだ。
何やら不穏な胸騒ぎがする。
「? うん、そうだよ。ナターリャは四十歳の時も五十歳の時もお肉食べてたもん!」
「ごめん。大変失礼かもしれないんだけど…………ナターリャちゃんっていま何歳?」
「ナターリャ? えっとねぇ~、たしか今は九十九歳!!」
「ぶふっ!?」
ナターリャちゃんのまさかの回答に何も口にしてないのにむせてしまった。
ビックリして唾液が器官に入るところだったよ!
「ナ、ナターリャちゃんっていま九十九歳なの!?」
「うん、そうだよ? あれ、ナターリャ言ってなかったっけ?」
「言ってないよ! 初耳だよ! てか、普通にわたしより大先輩じゃん!?」
わたしがいま十六歳だから、ざっとその六倍以上の歳が離れている。
人間だったらヨボヨボのおばあちゃんになってるはずだけど……そうか。
今更ながらに思い出した。
ナターリャちゃんの種族はエルフだ。
エルフといえばよくファンタジーモノの作品に出てくる種族だけど、その大きな特徴の一つに『長寿』というものがある。
ナターリャちゃんは見た目は十歳かそこらくらいの年齢にしか見えないけど、その実年齢は驚異の九十九歳。
普段から子供っぽい可愛らしい言動しかしないから、いつの間にか無意識に年下の女の子だと勘違いしていたよ……!
「えっと、これからはナターリャさんって呼んだ方がいいですかね……?」
「えっ、どうして!? ナターリャの呼び方はいつも通りでいいよ!」
「い、いやでも九十九歳のお方に失礼じゃ……」
「ナターリャ、コロネお姉ちゃんのこと失礼な人だなんて思ったことないよ! むしろ、よそよそしい態度を取られる方が傷つくかも……」
言いながら、ナターリャちゃんが悲しげな表情を浮かべた。
その様子を見ていたドルートさんが、笑いながら話に入ってくる。
「コロネさん、エルフとはそもそもが長寿である種族なのです。我々人間の歳と比べる必要はありませんよ。人間だって、他の動物と比べたら長寿になるでしょうし」
「……そっか。そうだね。ごめんね、ナターリャちゃん! これからも今まで通り、ナターリャちゃんって呼ばせてもらうよ!」
「……ほんとっ!? わーい! ナターリャも、コロネお姉ちゃんのことずっとコロネお姉ちゃんって呼ぶね!」
ナターリャちゃんは嬉しそうにしながら、わたしに抱きついてきた。
わたしはそれを優しく受け止める。
九十九歳のエルフに『お姉ちゃん』と呼ばれる十六歳のわたし。
……うん、やっぱりここは異世界だね。
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