第131話  大量の品物を受け取っちゃう、ぽっちゃり


 ドルートさんの怒涛のセールストークを拝聴していくばくか時間が経った。

 紹介された商品はどれもこれも素晴らしい物ばかりだったんだけど、わたしはテーブルの上に並べられた……というより山積みにされた物品の数々を呆然と眺める。


「あ、あのドルートさん。最後にもう一度だけ確認なんだけど、これ本当に全部もらっていいの?」


 テーブルの上には様々な形状のランプや魔道具が積まれている。

 ドルートさん曰く、このログハウス全体の照明問題を解決するにはこれくらいの数のランプが必要だとのこと。

 たしかにログハウスは大きいからその全ての部屋にランプを設置していくと大小合わせて百個くらいいるかもしれないけど……さすがにこれ全部もらうのは申し訳なくなる。


 しかもドルートさんがくれたのはランプだけではなく、キッチンに取り付ける用の火と水の魔道具もある。

 火の魔道具はガスコンロに近い形状で、魔力を流すことで炎を出すことができる優れ物。

 水の魔道具も同様で、魔力を流すことで水が出てくるみたいだ。


 こんなにも大量の商品を一気にあげると言われている状況なんだけど……ドルートさんは笑いながら手を振った。


「いえいえ、本当にお気になさらないでください。これはせめてものお礼ですので」

「そ、そう? そこまで言うならもらっちゃおうかな?」


 ドルートさんに遠慮しながら答えたわたしは、傍にいたエミリーに小声で話しかける。


「ねぇエミリー、これ全部買おうと思ったらいくらぐらいするのかな?」

「お、恐らくですけど、軽く白金貨はっきんか三枚は超えるかと思いますぅ……!」

白金貨はっきんか三枚……ざっと三百万円……!?」

「特に、あの大型ランプと火と水の魔道具は〈アイゼンハワー商会〉が誇る一級品ですよぅ。ドルート様は商品の使用感を試すために持ち歩いているって仰られてましたけど、あれは普段使いするような物ではなく、貴族様などの屋敷に設置する類いの物ですぅ!」

「もしかしたら貴族との取引用に持っていた商品なのかもしれないね……。そんな高価なものを豪快に全部くれるなんて、ドルートさんヤバくない?」


 わたしが引きつった笑顔をしながらドルートさんに向き合う。


「おや、どうかされましたかな?」

「う、ううん。でも、こんなにたくさんの商品を全部くれるなんてやっぱりドルートさんはすごいね……!」

「とんでもございません。これらは以前に私が使用した中古品ですので。もしご使用いただいて商品の質が良いと思われましたら、その時はぜひ〈アイゼンハワー商会〉までご連絡いただければと」


 ハハハハ、と笑い出す。

 ドルートさんは冗談めかして言っているけど、本当に〈アイゼンハワー商会〉にお邪魔してしまいそうだ。

 いま見せてくれた商品以外にも絶対いい商品があるだろうしね!


 だけどその一方で、なんか上手く商法に乗せられたような感じもする……!

 いや、今は別にドルートさんがわたしに商品を売りつけてるわけじゃないし、むしろ善意でわたしたちにランプをプレゼントしようとしてくれてるんだから問題はないんだけどね。

 ただ、こういう営業トークみたいなものはさすが商人だなと思ってしまう。


「でも、これでキッチンに備え付ける最低限の魔道具は揃ったね! あとは調理器具なんかがあれば完璧なんだけど……」


 ドルートさんのおかげでキッチン機能は向上したけど、見たところ肝心の調理器具はない。

 これだとせっかく豪華な設備があっても宝の持ち腐れだ。

 鍋とかフライパンとかがなかったら料理はできないからね。


 わたしが惜しい気持ちで呟くと、足元にいたサラがぴょんぴょんと跳ねてテーブルの上にジャンプした。


「ぷるん!」

「? サラ、どうかしたの?」

「ぷる、ぷる、ぷるーん!」


 サラは一時いっときぷるぷると震えた後、スライムボディからゴトリと何かの物体を放出した。

 生み出されたものを見たわたしは、カッと目を見開く。


「こ、これってまさか……フライパン!?」


 丸い形状に黒を基調とした色合いのそれは、まさにわたしがイメージした通りの調理器具――フライパンだった。

 続けてサラはスライムボディを膨らませて、大きな鍋も放出した。


「な、鍋まで!? サラ、どうして調理器具なんか作れるの!?」

「ぷるるーん!」


 サラのスキルには簡易解体や簡易加工なんかのスキルさあったけど、さすがにゼロから何らかの物体を生み出すようなスキルはなかったはずだ。

 ということは、この鍋やフライパンは鉄か何かの物体を加工したってこと? 

 でも、サラって鉄みたいな鉱物とか吸収してたっけ?


 わたしが少し悩んでいると、ドルートさんがおもむろにフライパンを手に取った。


「おお、これは素晴らしい。見たところ、アイアンゴーレムの素材を使用したフライパンですな。美しく、かつ洗練された加工が施されていることが分かります」

「アイアンゴーレム? ……あ、そう言えばこの前それっほい魔物倒したっけ」


 先日の狂乱化現象が発生した日に、ベルオウンの街の周辺でそんな魔物を倒した気がする。

 サラはその魔物もしっかり回収してくれていたんだね。


「だけど、まさかアイアンゴーレムがこんな調理器具に化けるなんて、やっぱりサラはすごいね!」

「ぷるん!」

「これだけ器具があれば、夕食は私が作らせていただきますよぅ!」


 エミリーが気合いを入れるようにグッと拳を握りながら言ってくれた。

 たしかにこれだけ調理器具が揃っていれば普通に料理はできそうだし、エミリーの作ってくれるご飯は美味しいから楽しみだ。

 ん?

 でもちょっと待てよ?


 アイアンゴーレムの素材をこれだけ色々な調理器具に加工できるなら、もしかしてもっと別の物も作れるんじゃ……!

 ラグリージュでは海豊祭かいほうさいというお祭りが賑わっていて、そこではある料理が有名らしい。

 せっかくだから、一足先にそれを味わってみてもいいかもしれない。


「いいこと思いついた! せっかくだから、今夜の晩ごはんは皆でバーベキューにしようよ!!」



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