第59話 お礼の品を見せられちゃう、ぽっちゃり
宿屋で朝ごはんを済ませたわたしたちは、オリビアが用意した馬車に乗せられてみんな仲良く揺られていた。
てっきり徒歩で目的地まで向かうのかと思ってたけど、言われてみればオリビアは貴族令嬢。
わざわざ徒歩なんて手段を取ることはないよね。
ちなみに案の定、ルカはあわあわしながらオリビアの対応をして、オリビアの分の朝ごはんも用意してくれた。
オリビアはわたしたちと一緒に朝ごはんが食べられることになって素直に喜んでいたけど、ルカの心労はすごかっただろうね。
ただ、少しだけ予想外だったのは――
「ナターリャさんはエルフなのですね! それでは、やはり魔法などは熟達しておられるのでしょうか?」
「うん! でも、ナターリャの魔法はまだまだだよ。冒険者としてもまだ駆け出しだから、頑張ってクエストをこなしてるんだ!」
「それは素晴らしい心がけだと思います。今後もぜひベルオウンでの活躍をお願いしたいです」
このように、オリビアとナターリャちゃんの距離が一気に深まったことだった。
見た目だけで言えばオリビアとナターリャちゃんの二人が一番年が近そうだから、仲良くなりやすかったのかもしれないね。
それに魔法の上達を目指しているオリビアからしたら、他種族であり魔法に精通したエルフのナターリャちゃんに興味津々だったというのもあるかもしれない。
わたしと対面する形で反対側の席に座るオリビアとナターリャちゃんを見ながらそんなことを考えているも、オリビアの腕の中に収まったわいちゃんがぱたぱたと声をあげた。
「あの~、オリビアはん。しばらく歩いたと思うんやけど、あとどれくらいで目的地につくんやろか?」
「もうまもなく到着しますよ。なのでもう少し待っていてくださいね」
わいちゃんの言うとおり、何だかんだもう三十分くらいは馬車に乗っている気がする。
これだけ移動すると、窓から見える周囲の街並みも少しだけ変わってきている。
宿屋付近は冒険者ギルドが近くにあることもあって屋台や市場、武器屋に魔道具店などのお店がたくさんあった。
だけどここら辺はどちらかと言うとより住宅街に近いというか……なんか発展途上といった感じがする。
バラバラに破壊されてる家とか結構あるし。
「なんかここら辺ってギルドがある辺りと雰囲気違くない?」
「そうですね。この辺りはベルオウンの中でも端の方で、復興地区になりますから」
「復興地区?」
「はい。六年ほど前にベルオウンの街がロックドラゴンに襲われたことはご存知でしょうか?」
「ああ、《魔の大森林》からやって来た魔物だよね」
「はい。冒険者ギルドのギルドマスターや大勢の冒険者、騎士たちの活躍によって何とかロックドラゴンの撃退には成功したのですが、このように街の一部が破壊されてしまいまして……」
「だから所々破壊されてる家があるんだね」
「はい。ですが、これでもかなり復興は進んでいるんですよ。ロックドラゴンの事件があった当時は本当にここら一帯は人が住めるような状態ではなかったので」
そうなんだ。
それならたしかにオリビアの言うとおり、かなり復興は進んでいるみたいだ。
まだ瓦礫まみれの家はあるとはいえ、普通に建っている家もあるし、市民も普通に歩いている。
これなら十分に人が住むことは可能だろう。
馬車の窓から見える景色をサラと一緒に見ていると、ゆっくりと馬車が停まった。
「ようやく到着したようですね。皆さん、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。どうぞ、馬車を降りてください」
馬車の扉を開けて降りるオリビアに促されて、わたしたちもぞろぞろと馬車から降りていく。
そして全員が馬車から降りたのを確認すると、オリビアがニマニマと笑みをこらえるような顔をしている。
そして、バァーン! と大げさな仕草で宣言した。
「こちらが私からコロネさんに進呈するお礼の品です!!」
オリビアが手を挙げた先にあったのは、とっても立派な豪邸だった。
わたしとナターリャちゃんはお互いに目を見合わせて、小首をかしげる。
よく意味が理解できなかったので、わたしはオリビアに確認する。
「……えーと、オリビアさん。お礼の品というのは……」
「はい! こちらのお屋敷になります!!」
オリビアは元気よく宣言した。
その宣言を真顔で聞いてから、ポクポクポクチーン! と理解したところで。
「「えっ、ええええええええええええええ!!?」」
わたしとナターリャちゃんは驚きのあまりに絶叫してしまう。
そんなわたしたちの驚愕の叫びを聞いて、オリビアは満足そうにニッコリと笑った。
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