第6話  とあるご令嬢を救出しちゃう、ぽっちゃり


「きゃぁあああああああああああああ!!」


 っ!?

 えぇ、突然なにごと!? 


「今のって叫び声、だよね……? もしかして、誰か襲われてるの!?」


 ついさっきわたしもゴブリンとギガントボアと戦ったばかりだし、あり得ない話じゃなさそう。

 そもそもこの森自体もろに魔物とか潜んでそうだし。

 もし魔物に襲われてるなら早く助けにいかないと!

 なんだけど……。


「ぬぐぐ……か、体が重い!」 


 わたしはぷるぷると体を震わせながら立ち上がる。

 ギガントボアの肉を食べすぎてしまったためにめちゃくちゃ体が重くなっている。

 多分この状態でいきなり走ったりしたらお腹が痛くなり、最悪リバースしちゃいそう。

 そんなわたしを見てか、サラが心配そうに近寄ってくる。


「ぷるぅん……」

「あはは、大丈夫だよサラ。ちょっと急に動いてお腹がビックリしちゃってるだけだから」

 

 とは言え、このままだとロクに動けない。

 どうしたものか……と考えていると、一つの妙案を閃く。


「そうだ! こういう時こそ、魔法の出番じゃない!」


 この世界には魔法という便利なものがある。

 それに今しがたお肉を食べて魔力カロリーも補充したばかりだし、何か使える魔法はないかな。

 要はこの重い体を俊敏に動かせるようになればいいから、こういう時はあのメジャーな魔法を試してみよう!


「魔法発動――身体強化!」


 身体強化のイメージで魔法を発動してみると、わたしの体がほんのりと赤く光る。


 おお!

 一気に体が軽くなった!


 わたしはピョンピョンとその場でジャンプしてみるけど、全く体の負担は感じない。

 満腹の胃袋の気持ち悪さもなくなった。

 それどころか、今までにないくらい絶好調に体が動く!


 これなら問題なく全力疾走ができそうだ!


「よし、これで助けに行くことができる! それじゃあサラ、急いで被害者の元へ駆けつけよう!」

「ぷるん!」


 わたしは周囲に張っていたバリアを解除し、サラと一緒に全速力で叫び声の方に走っていった。




 〇  〇  〇




 走り出してから一分も経たないくらいで、悲鳴が聞こえた辺りに到着した。

 予想よりもめっちゃ早く着いたけど、それもそのはず。

 身体強化を施したわたしのダッシュは、普通の人間が出せる速度じゃなかったからね。

 軽いアトラクションレベルだったよ。


 わたしは立ち止まり、キョロキョロと辺りを見回す。


「たしか、ここら辺から聞こえたと思うんだけど……」


 周囲は木々が生い茂っていて、見通しが悪い。

 もしかすると、叫び声の主もどこかに移動したのかもしれない。

 これはよく探さないと見つけられないな。


 そう考えていると――


「ファイアボール!」

「フガァアアアアアアアアア!!」


 遠くからかすかな男の声と獣の叫びが響く。


「あっちか!」


 方角が分かったので、声が聞こえた方へ走っていく。

 木々をかき分けて進むと、ひらけた草原に出た。


 その草原の五十メートルくらい遠方。

 そこには豚の大男のような魔物――オークが見えた。

 口からは大きな牙が飛び出ていて、知性はなく本能だけで行動しているような、かなり凶悪な雰囲気をまとっている。

 しかもそれは一体だけではなく、うじゃうじゃと数十体のオークがいていた。


 そのオークたちの中心部に、二人組の男女が見え隠れしている。

 見た感じ、どちらも冒険者っぽい装いだ。

 その二人の冒険者は、貴族のような一人の少女を守るようにオークの群れと戦っていた。


 うーん、冒険者たちは緊迫した様子で何か話しているみたいだけど、ちょっと遠くてあまり聞こえてこないな。

 ……ここは試しに魔法を使ってみるか。

 風魔法を応用して遠くにいる人の話を盗み聞きするシーンなんかも見たことあるし、それを再現してみよう。


 わたしは遠くの人の話し声が聞こえてくるイメージで、応用型の風魔法を発動する。

 すると、冒険者たちの方に向けてふわりと緑色の風が流れた。

 その直後、鮮明な声が聞こえてくる。


「――はぁ、はぁ、絶対に俺たちから離れないでくださいよ、お嬢! どうにかしてお嬢だけでも逃がしますから!」

「……いえ、私だけ逃げるわけにはいきません。微力ですが、援護いたします」

「ありがとうございますお嬢様。ですが、決して無理はしないでください」


 やっぱり、オークの群れに襲われてるみたいだ。

 冒険者の二人は剣と魔法を駆使して必死にオークと戦っているけど、少しずつ押され始めている。


「チッ、剣が通らなくなってきやがった……! コイツら俺の剣筋に慣れてきやがったのか! クソッ、ファイアボール!」

「あまり前に出過ぎるなデリック! お嬢様の守りが薄くなる!」

「す、すいません、お嬢!」

「私は気にせず戦闘に集中して下さい! 防御系の魔法も使えますから! アイスシールド!」


 貴族らしき女の子が魔法を唱えると、彼女たちの周囲に氷のバリアが現れた。

 あの女の子は結構すごい魔法を使えるみたいだ。

 だけど……。


「「「フガァアアアアアアアアアア!!」」」


 オークたちも黙っていない。

 十体くらいのオークが棍棒こんぼうのような武器を振り下ろし、氷の盾を破壊しようとしている。

 あの様子だと、すぐに突破されてしまいそうだ。

 まあ、あまりに多勢に無勢すぎるから仕方ないね。


「レイラ! このままじゃジリ貧だ! 俺が一気に切り込むから、援護を頼む!」

「ダメだ! 今お嬢様の守りを手薄にするわけにはいかないし、このアイスシールドも長くは持たない! それにこの数のオークではデリック一人ひとりでは火力不足だろう!」

「ぐっ……だが、このままじゃ――」


 かなり不味い状況みたいだ。

 ここは私の出番かな。

 少し様子を伺ってみたけど、かなり窮地に追い込まれているみたいだし。

 さすがに見て見ぬふりはできない。


「ギガントボアの時よりも、もっと魔力を流し込んで……」


 わたしは右手に大量の魔力を集める。

 すると、バチバチと青白い火花と電気が散る。

 いい感じに、電撃が溜め込まれていっているね。

 ついさっきお肉で魔力カロリーを蓄積したから、今ならドデカイ魔法を叩き込めそうだ。


 電撃を右手に集中させ続けていると、周囲の木々に電気が飛び散るくらいまでエネルギーが溜まっていた。

 よし、これくらいでいいだろう。

 わたしの渾身の溜め技、とくとその身に受けるがいい!


 わたしはゆっくりと右手を引く。

 腕全体が輝くまでに充填された膨大な電撃を感じながら、オークの群れへ向かって勢いよく右手を突き出した。


「食らえッ! サンダァァァボルトォォオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 瞬間、わたしの右手から雷撃のような威力の電撃魔法が放たれる。

 まさしく疾風迅雷のごとき電撃魔法は、一瞬の内にオークの群れを蹂躙じゅうりんした。





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