第5話 スライムと契約しちゃう、ぽっちゃり
結論から言いたい。
ちょっと……いや、かーなり食べ過ぎた!
わたしは森の真ん中で大の字に寝そべっている。
お腹は、でん、とパンパンに膨らんでいた。
「うぅ、ぐ、苦しい。もう食べられない……けぷっ」
わたしの横には、大きな骨が山のように積み重なっている。
もちろん、これはわたしが食べた残骸だ。
骨付き肉を無我夢中で食べまくっていると、いつの間にかこうなっていた。
さすがは異世界。
とんでもない量のお肉だったよ……!
「ぷるぅん」
スライムが、大丈夫? と心配そうに傍に寄ってくれる。
「だ、大丈夫だよ。休んだら治るから。もうちょっとだけ安静にさせて」
「ぷるん」
今のわたしは無防備極まりない格好だ。
一応、周囲にバリア魔法のようなものを張ったので、これで何とかなるはず。
一息ついて休んでいると、目の前にポォンとポップアップが表示される。
『解体スライムがテイム可能になりました。テイムしますか? Yes / No』
「え、なにこれ」
なんか急に出てきたんだけど。
そう言えばこういう定型文のウィンドウみたいなのも異世界ファンタジー系だとよく見るよね。
わたしはもう一度現れた文章を読んでみる。
「えっと、テイムってモンスターとかを従わせるってことだよね? 解体スライムって出てるけど、これはキミのこと?」
「ぷるん!」
そうだよ! と言うようにスライムがぽよんと跳ねる。
つまり、このスライムがわたしと従魔契約みたいなものを結ぶのを了承してくれたってことだよね。
テイムってどんなことするのか分からないけど、まあこのスライムがしてもいいっていうなら断ることもないかな?
少し考えた後、わたしは『Yes』と書かれた文字に触れる。
その瞬間、わたしとスライムが同時に淡い光に包まれた。
「おお、なんか体がジンジンする!」
しばらく淡い光に包まれていると、やがて光が消えた。
これでテイムはできたのかな?
わたしが疑問に思っていると、それに答えるようにまたポップアップが表示される。
『テイムに成功しました。任意の名前をつけて下さい』
スライムがわたしの顔の横でぽよんと跳ねた。
わたしの名付けを待っているみたいだ。
「名前か。名前は大事だもんね。うーん、そうだなぁ……」
わたしは仰向けで寝転んだまま、アゴに手を当てて考える。
スライムだから、スラちゃんとか?
いや、これはちょっとそのまんま過ぎるよね。
なんかもう少しひねりたい。
スライムという種族にとらわれず、この子の特徴から考えてみよう。
ちっちゃくてカワイイ、ぽよんぽよん跳ねる、それから、魔物を取り込んで手軽にお肉にしてくれる。
動物の解体ができないわたしにとって、この子は絶対に必要な存在だ。
この子がいなかったら、わたしは何も食べられなくなるかもしれない。
つまり、このスライムはわたしにとって必要不可欠な相棒――パートナーなのだ。
お肉……料理…………料理の
その瞬間、わたしの頭の中で閃きが起こる。
「――サラ。キミの名前は、サラだ!」
わたしが名前をつけた瞬間、スライム――サラが輝きを強める。
「ぷるるぅん!」
輝きながら、サラはひときわも大きく跳ねた。
「名前、気に入ってくれたかな?」
「ぷるん!」
「それは良かった! これからよろしくね、サラ!」
「ぷるぅん!」
ぽよぽよ跳ねて寄ってくるサラを、なでなでする。
めっちゃカワイイ。
テイムしたからか、さっきよりもサラの気持ちがダイレクトに心に伝わってくるような気がする。
サラの感情に影響されて、わたしの心もハッピーな気持ちになっていく。
いやー、それにしても名前が気に入ってくれて良かったよ。
料理には絶対に必要な『お皿』からインスピレーションを得て、サラと名付けたんだよね。
これは全く安直じゃないよ。
スライムという種族から、サラの特性、そしてわたしの料理に欠かせない存在、という風に頑張って想像力を膨らませたんだから!
「そういえば、サラのステータスとかはどうなってるんだろう。見れるのかな?」
そう言うと、わたしの目の前にステータス画面が現れた。
―――――――――――――――――――
【名前】 サラ
【種族】 解体スライム
【危険度】 F
【レベル】 1
【スキル】 簡易解体、簡易加工、簡易組立、簡易分解
―――――――――――――――――――
おお、見たことある感じのステータス画面だ!
「ふむふむ。サラは解体スライムって種族なんだ。だから魔物のお肉をあんなにキレイに解体することができたんだね」
あのマンガやアニメで見るような骨付き肉は感動した。
スキルにも『簡易解体』っていうのがあるし、これも関係してるのかもしれないね。
「それにしても、レベルは1なのかー。まあ種族とかスキルとか見てもあんまり戦闘系じゃなさそうだし仕方ないのかな」
きっと魔物を倒したらレベルが上がるんだよね。
サラもレベルが上がったら新しいスキルとか獲得しそうなんだけど……今は難しいかな。
てか、さっきわたしギガントボアを倒したけどレベル上がったりしてるのだろうか。
「わたしのステータスも見れたりするのかな?」
サラのが見れたんだから、多分わたしのも見れるはず。
とりあえず、それっぽいセリフでも言ってみよう!
「ステータスオープン!」
ブォン! という音と共に、目の前にわたしのステータスが表示された。
―――――――――――――――――――
【名前】
【種族】 人間
【レベル】 3
【固有スキル】
【スキル】 アイテムボックス、マシュマロボディ、食の鑑定(New!)
【従魔】 サラ〈解体スライム〉
―――――――――――――――――――
「おお、出た出た! え~と、なになに……」
わたしは自分のステータスを眺める。
かなりシンプルなステータス画面なので、めっちゃ見やすい。
ザッとステータス全体に目を通した後、わたしは見逃すことができない部分を
「固有スキル、『
わたしはステータス画面に表示されている『
すると、ステータス画面の上に被さるように、新たなポップアップが現れる。
え~と、なになに……。
―――――――――――――――――――
固有スキル:
食べ物から摂取したカロリーを自由に魔力へ変換できる。魔力量は無限。全属性の魔法適性アリ。魔法発動時の魔力変換効率が最大となる。
―――――――――――――――――――
「いや、明らかにチートじゃん!」
わたしはあまりの驚きに思わずガバッと起き上がる。
パンパンのお腹が張って少し苦しいが、今は固有スキルの性能の方に注意がいってしまう。
急に体を動かしたが、ステータス画面はわたしの顔についてきて変わらず目の前に表示されていた。
「魔力量無限……全属性の魔法適性……魔力変換効率も最大……。うん、何度みても規格外だよね、コレ」
さすがにこのレベルの強さを持ってるのがこの異世界の常識なんて言わないよね?
こんなバケモノがゴロゴロしてるならわたしはちょっとこの世界で生きていける自信がない。
「それに、一番気になるのは“カロリーを魔力に変換できる”ってところだよ! カロリーを魔力にできるってことは、つまり食べれば食べるだけ強くなるってことでしょ? え、こんなの最高じゃん」
しかもこれカロリーを魔力に『変換』してるわけだから、元のカロリーはなくなるってことだよね。
てことは、バクバク食べまくっても全部魔力に変換していけば太らないんじゃないの?
これはつまり、ようやく異世界であの悪魔のセリフ「わたしって食べても太らない体質だから~。何でも気にせず食べちゃうの~。うふふ~」を、言えるようになったということ!?
わたしが幼いころから夢だった、『太らない体質』がまさかこんな形で叶うことになるなんて!
ありがとう神さま!
ぶっちゃけ、テンション高めでちょっと合わないなぁ、とか思ってたけど、いま初めて神さまとの出会いに感謝したよ!!
「よっしゃー! これぞ異世界のゼロカロリー理論! これでもうカロリーなんて邪悪な物質への悩みも罪悪感もなくなるぞぉおおおおおおおお!!」
「ぷるーん!」
わたしは歓喜に立ち上がり、バンザイして人生最大の喜びを全身で噛みしめる。
もうお腹の苦しさなんて感じない!
わたしが狂喜しているからか、サラも一緒にぽよぽよ跳ねて真似してくれた。
「他のスキルは……アイテムボックスは想像通りのものだろうし、その次の『マシュマロボディ』ってなんだろう?」
気になったので、スキル欄のマシュマロボディをタッチする。
―――――――――――――――――――
スキル:マシュマロボディ
物理ダメージの内、打撃系・衝撃系の攻撃を完全無効にする。
―――――――――――――――――――
ふむふむ、なるほど。
どうやらこのマシュマロボディというスキルがあれば、打撃や衝撃を受けてもへっちゃらなようだ。
そう言えば、ギガントボアの背中から落下した時も特に何ともなかったな。
あの高さからぽっちゃりが落下したら全身の骨が砕けててもおかしくないんだけど、無傷だったのはこのスキルがあったからだったんだね。
「あとは、この『食の鑑定』ってスキルか。New! って表示されてるけど、ギガントボアを倒したことで新しく獲得したスキルなのかな?」
閉じろ、と念じるとマシュマロボディのポップアップが消える。
それから代わりに食の鑑定をタッチした。
―――――――――――――――――――
スキル:食の鑑定
食品や食材に関する情報を調べることができる。
―――――――――――――――――――
ふむ、どうやら名前の通りのスキルみたいだね。
普通の鑑定じゃなくて食の鑑定だから、そういった食べ物関係に強い鑑定スキルなんだろう。
ぽっちゃりには嬉しいスキルだ。
「これでスキルのチェックは完了! こうなったら、ぐずぐずしてはいられない!」
異世界のゼロカロリー理論をこの身に宿したわたしは、新たな決意に心を打ち震わせていた。
それすなわち……。
「さっさとこの森を抜けて、この世界の美味しい食べ物を片っ端から食べまくってやるぞー!」
「ぷるん!」
「よし! それじゃまずはこの森を出て、人が住んでる街を探しに――」
「きゃぁあああああああああああああ!!」
突然、女の子の叫び声が遠くから響き渡った。
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