挨拶をせずに死ぬまでの時間を考える。

エリー.ファー

挨拶をせずに死ぬまでの時間を考える。

「才能があふれている。それでいて、相手の悲しみを見てしまう。その結果、明らかに自分の精神が高尚である確信を持ってしまう。嫌われてはいるが直接的な被害は一切なく、むしろ興味を抱かれる存在として損害よりも利益の方が圧倒的に多い。気が付けば同じ場所にいることはなく、明らかに前へと進んでいる。努力はしない。しかし、実力はある。才能がある。その上で、使い方も心得ている。自分の創り出した世界に、自分を落として冷静に分析をしながら、無意味な有利、不利については興味を持っていない。気が付けば、影も踏ませぬ先頭を進む者である」


「この看板に、この文章を書いたのは誰なのですか」

「さあ、興味もないな」


「あそこにいる人たちは、何を話しているのですか」

「さあね。どうでもいいことだろう」


「あそこの看板に書いてある言葉って、好きな人が多いらしいですね」

「色々な理由があると思うけどね。でも、興味深く感じている人がいるってことだろうね」


「看板に何かが書かれている、という小説って誰か読むと思いますか」

「読むんじゃないの」

「何故ですか」

「今、君は読んでるよね」


「この小説って、ちょっと変ですよね。だって、看板に何かが書いてあったというだけの話ですよ」

「それは、小説っていう文化を舐め過ぎじゃないかな。それだけの物語なんて幾らでもあると思うよ」

「あるとは思いますが、数は少ないですよね」

「数は少ないということは、あるという証明ですね」


「看板に文字を書くなんて、大間違いだ」

「汚い字だったからかな」

「そう。もっと丁寧に書くべき」


「小説なんて嫌いだよ」

「そうですか。僕は好きだけどね」

「まぁ、別に僕と一緒に嫌いになって欲しいなんて思ってはいないけどね」

「僕も同じだな」

「小説って廃れるかな」

「廃れるよ」

「小説家は廃れるかな」

「廃れるよ」

「芸術家は廃れるかな」

「廃れないよ」

「どうして」

「農耕民族ではなく遊牧民族だからだ。仮に悪意が侵入しても、皆殺しは絶対に実現不可能だ」

「命を賭けられるかい」

「君の命も賭けよう」

「勝手に賭けるなよ」


「看板の撤去を進めましょう」

「お金がかかりますよ」

「どれくらい」

「これくらい」

「やめようか」

「やめましょう。別に、誰も怒っていませんし」

「そうだなぁ。しかし、まぁ、昔と違って怒られる前に、何もかも綺麗にするのが流行してしまっているよなぁ。そう、思うだろ」

「えぇ。単純に業務が増えて面倒臭い限りです」


「小説を借りてもいいですか」

「駄目です」

「小説を捨ててもいいですか」

「駄目に決まっているでしょう」

「小説家になりたいですか」

「あの、私は小説家です」

「小説って面白いですか」

「面白い小説も面白くない小説もありますね」

「小説家になるためには、どうするべきですか」

「才能を持って生まれてくることじゃないですかね。才能がある、この要素が最も重要です」

「才能って、本当にあるんですかね」

「ない人は、その存在を疑いますね」

「都合のいい、回答ですね」

「能力のある人にとって現実は都合の良いものですし、能力のない人にとって現実は都合の悪いものになります」

「非常に、性格が悪いんですね」

「そう。そうなんですよ。気づいて頂けて何よりです」

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