真夜中の甘やかし〜孤独を癒すご褒美スイーツは摩訶不思議な路地裏から〜
ワタリ
第1話:今夜、プリンあります
真夜中のコンビニスイーツが好きだ。
くたくたに疲れ切って、ぎちぎちの満員電車にゆられて、とぼとぼ帰る道すがらコンビニに立ち寄って自分への労いを吟味する瞬間が何より幸せだ。
――いや、もうそれしか自分を保つ
幸せどころか、限界だった。
だから、こんなよくあることでぎりぎりで保っていた糸が切れてしまったんだ。
『店舗移転のため24マートは閉店しました』
病院での寝泊まりが続き、久しぶりにアパートへ帰れた夜。
コンビニに立ち寄ってプリンでも買おうと思ったら、ドアの前に閉店の張り紙があった。いつもはほんの少し近寄っただけで獲物が罠にかかったとばかりにガガーッと勢いよく開くドアが、まるで閉店告知の張り紙がお
夜なのに蛍光灯がついていない時点で嫌な予感はしたんだよな。
まあ、いいや。
別に他のコンビニに行きゃいいんだし。駅の反対側にあったよな。
5分歩いた道を引き返すだけ。それだけだ。
なんなら別に今日は食わなくたっていいじゃないか。
自分を納得させるためのあらゆる言葉が次々と浮かぶ。なのに、身体は一歩も動かない。前向きな思考を身体が全力で拒んでいる。
死ぬほど勉強して医学部に入って、死ぬほど勉強して国試に受かって、ようやく医者としてのスタートラインに立てたと思ったら今度は死ぬほど働いている。
死ぬまで続くのか、これが。
死ななきゃ終わらねぇってことなのか。
――死ぬしかねぇってことなのかよ。
極端な考えばかりがせわしなく駆け巡る。どうにかして頭ん中の嵐を止めたくて、俺は頭をぶんぶんと振った。
ふと、コンビニの二軒先で光るものが目の端に入った。それはクリップライトがついた小さな立て看板だった。その看板をよく見ると、
『今夜、プリンあります』
そう、チョークで書かれていた。俺は看板の方まで歩いた。看板には矢印が書いてあった。俺は矢印が指す方角を見た。ビルとビルの隙間、野良猫が通るような細くて狭い路地の奥に光が見えた。
「ここって、私有地じゃねぇのかな……」
こんなところ入っていいのか少し躊躇したが、プリンという文字にどうしようもなく魅かれた。
路地を通り、光の前に立つ。目の前にあるのはアンティーク風の木製ドア。窓枠はステンドグラスになっていて、よくみるとショートケーキの形をしていた。ドアノブをゆっくり回し、そっと中を覗くと、たぬきと目が合った。
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