第33話 カレー

 魔女は大釜でなにやらグツグツと煮込んでいた。ブツブツと呟きながら。

 空腹に耐えかねてお菓子の家のお菓子に手を出し、魔女に捕らえられたヘンゼルとグレーテルは、震えながらその様を見守るしか無かった。


「ねぇ、グレーテル。僕たちきっと、あの中に入れられて食べられちゃうんだよ」


 泣きべそをかきながら、ヘンゼルはグレーテルに言った。二人が入れられている檻にはガッチリとした鍵が掛けられていて、とても逃げ出せそうもない。


 けれども、グレーテルはじっと魔女と鍋を見ながら黙ったままだ。

 先程帰ってきた魔女は確か、その手に2羽のトリとジャガイモ、ニンジン、玉ねぎに香草等を持っていた。そして、下ごしらえをしてすぐに、鍋にかかりきりになっていた。

 漂い始めた、空腹を誘うこの匂い。この匂いは-


 と、突然グレーテルが魔女に向かって言った。


「ねぇ、おばあさん。ご飯は炊いたの?」

「おぉ!そうじゃった!じゃが今は手が離せん。どうしたもんかのぅ」

「私たちがご飯を炊くわ。だから、ここから出して」

「仕方ないのぅ」


 ふぅ、と溜息をつき、魔女はヘンゼルとグレーテルを檻から出す。


「やっぱりカレーにはご飯がなきゃのぅ」


 そう言うと、魔女はまたブツブツと呟き始める。


 おいしくなぁれ ほっぺが落ちてしまうほどに おいしくなぁれ 笑顔の花が咲くように

 お菓子より ご飯を食べよう 子供たち 美味しいご飯は 栄養満点


 それを耳にしたグレーテルは、


「ねぇ、ヘンゼル。お米炊いておいて!できるでしょ?」

「えぇっ?!僕が?!グレーテルは?」


 不満顔のヘンゼルをよそに、魔女の傍らに立った。


「おばあさん。私にお料理を教えて。このカレー、すごく美味しそう!」

「なんじゃ、お前はカレーもまともに作れんのか。そんなことじゃから、お菓子ばかりを食べる悪い子になるんじゃよ」

「おばあさん、違うの。あのね、私たち-」


 魔女は実は、お菓子ばかりを食べてちゃんとご飯を食べない子供を叱る良い魔女だったので、継母にご飯もまともに食べさせてもらえない事を聞くと、ヘンゼルとグレーテルを引き取り育てることを決めた。


 こうして、グレーテルは魔女の指導でメキメキと料理の腕を上げ、魔女とグレーテルの作る美味しい料理を食べ続けたヘンゼルはスクスクと育ちましたとさ。


【終】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る