第5話 意志

 川原で石を拾った。

 特に、石の収集癖がある訳では無い。

 ただ、数多ある石の中でこの石だけが、連れて帰れと訴えかけている気がしたのだ。



 その夜、夢を見た。

 大きな岩の夢だ。

 高い山にあった大きな岩は、長い間その場で風雨に晒され続けていた。


 ここはもうたくさんだ!

 そう思った岩は、ある嵐の夜に風の力を借りて山を飛び出した。


 山を飛び出した岩は、転がり落ちる間にあちこちにぶつかり、削れて割れて、半分ほどの大きさになって滝壺に落ちた。

 岩は、今度は長い年月を、滝壺の中で水流に転がされて続けた。


 ここはもうたくさんだ。

 そう思った岩は、ある嵐の夜に荒れ狂う水の力を借りて滝壺から飛び出した。


 滝壺を飛び出した岩は、激流に流される間にあちこちにぶつかり、削れて割れて、半分ほどの大きさになって、川岸近くの底に落ち着いた。

 けれどもすぐに川の水量が減ってしまったお陰で、川原の数多の石のひとつとなった。


 川原の数多の石のひとつとなった岩は、風雨に晒され、また、多くの動物や人間に踏まれ続けて、角はすっかり無くなり、丸く平たくなっていった。


 ここはもうたくさんだ。

 そう思った岩は、ある一人の人間に出会った……



 今、その石は、我が家のリビングを見渡す場所に、ケースに入って鎮座している。

 時々子供が


「ねぇ、またこの石のお話聞かせて!」


 とねだるので、石を拾った日に見た夢を話して聞かせている。


「へぇ、この小さな石、もともとはそんなにおっきい岩だったんだね!すごいね!」


 目を輝かせながらそういう子供の言葉が聞こえているのか、そんな時の石は得意げに輝いているようにも見える。


 ……まぁ、気のせいだとは思うのだが。


【終】

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