星穹のラクスシャルキ
くるまえび
プロローグ 月魄の踊り子 ①
とろぉん……と。
甘ったるい
「………………きれいだったなぁ……」
うるめいて霞む、鏡のような灰銀の瞳。
灼熱をはねつける琥珀の肌と、うなじを隠す程度に切られた黒曜の髪。みすぼらしいが風通しのいい、亜麻の一枚着。
似たような風貌をした
昼下がりの仕事中、ちょっとした物思いにふける
ラピスラズリを一面に溶かした紺碧の海。一時期さんざん読み回された、
あるいは――――見かければ流星のごとく目を奪う、
四方を見晴るかす砂漠の国でありながら、マーハの王宮暮らしは飢えや渇きとは縁遠い。日々の労働こそあれ、王宮の
どっぷり妄想し、内輪で語らう。こんなに心を潤わせる娯楽もなかった。
庭園で葉をのばすナツメヤシの下で、奥まった刺繍部屋で、昼食のラバシュをあぶる粘土窯のそばで。妄想ごてごての
ただ、サフィは少し違う。
十六歳になる少女を惑わせ、白昼夢に誘うもの。
それは、まだ見ぬ海でも物語でも――――目を奪われた
洗い場に戻ってきた二人の
「あれ? サフィ? サフィってば」
「…………昨日から三度目かしら。世話の焼けるお嬢様ねぇ」
あどけない顔立ちの
名前を呼び、肩をゆすり、袖のない一枚着をぐいぐい引っぱる…………が、返事はない。
「ネフリム、どうしよう…………連帯責任?」
「…………意外とシビアよね、あなた」
大人っぽい雰囲気の
「マルシャ、ここに汲みたて冷え冷えの井戸水があるわね?」
「………………また汲んでくるのぉ?」
「ふふっ、まあ見てなさいな」
サフィは一人、抜けるような南の空を眺めていた。
雲一つない蒼穹を押しあげるのは、オパールの塊を彫刻したような白亜の大宮殿。とめどない灼熱の輝きを、黄金の大ドームが
ぴん――――…… 瞳の奥に、また一滴が飛びこんだ。
「もう一度見たいなぁ………………王妃様」
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