July 21 ②
書かれていたのは誰かの『人名』と『店名』
恐らくそれは日常的などうでもいいメモ書きだと思われるが、その当時では日本がSRCと貿易をすることはあり得なかったらしい。ずっと怪しんでいたタケダの母は、当時、付き合っていた軍関係者の彼氏と個人的調査をしていたそうだが、同僚と上長にバレてからは中東の辺境地へと部署異動されてしまったそうだ。
そのような話を母から聞かされていたので、その仇とまでは考えてはいないがタケダはバレない範囲で調べてみようとは思っていた。
そして、そこに私が話した『研究所』の件。ずっと謎に動いていた高額な金の流れとその出所に、裏で糸を引いている何かを感じているのだと。
それが在ってだけど、後はただ単に人助けを見捨てるのは今後の自分の人生において後悔を残すのも嫌だからと照れ隠しのように言っていた。
現状はその、タケダの立場は大丈夫かと私は聞いた。いつまでも私とこうやってのんびりしていいのかと。
今の自分は云わば”待機命令”みたいなものだと。戦いの現場ではとにかく足手まといなので村へ呼び出された同僚待ちだそうだ。
それも、今日中には向こうの制圧も完了して戻ってくるだろうからと、暗黙的に逃がしてくれることを示唆していた。
日本には「一宿一飯の恩返し」という礼儀があるそうね。それどころの話ではないぐらい、タケダには世話になった。もしまた会えるなら、何かお返しをしなきゃね・・・・・・
もしかするとだけど、私なんかではなくタケダのような人物が、世界を変えていくのではないかともこの時ふと感じた。別れ際にタケダは言っていた。
「ぼくも、もちろんむりはしないけれど、もともとしらべるために頑張って出世するつもりだったんだ。ぜんぼうやくろまくが分かれば、僕らも動くかもしれない。そんなときにでもまた、お会いするかもしれませんね」
『僕ら』・・・・・・
立ち振る舞いや声には頼りなさそうな男ではあったが、その言葉と思想にはなんだか希望が見える青年だった。
最後に「僕の肩を撃ってください」とタケダは言った。何を言っているのかが分からなかったが、説明を聞いて感謝の気持ちでまた少し泣きそうになった。
「僕はあなたにおそわれたことにしてください。そして無線と銃や食りょう、医りょうせつびなどをうばわれたことにすればおたがいにだいじょうぶ。あなたは、れいの村でそんざいはバレているんでしょう?」
そう言って、自分では撃つ勇気なんてないから、是非、とも言われて、恩人を撃つなんてことは私でも嫌だから断ったが、タケダは何だかキラキラした眼差しで私が持っていたSIG P320を手渡してきた。
必ず、この恩は返させてもらいますから。
そう、ちゃんと言葉にしてタケダに伝えた。すると
「死なないでくださいね。ごぶうんを」
『ごぶうんを』と、この言葉の意味はまだ私には分からないが、きっと
「see you…」
って意味だと思う。ええ。必ず生き残ってみせるわ。そしてタケダは勿論、ボビーたちや隊長の家族たち、そして自分の家族にも会って、話すことや伝えるべき事、お礼の気持ちや謝らなくてはならない想いが沢山ある。
タケダを強く抱きしめてから、日本語で「ありがとう」と伝えタケダの肩を撃ち抜いた。ちゃんと骨や重要な筋組織が破壊されないように。日本式の敬礼が分からなかったが、しっかりと軍式敬礼をしてから去っていった。
後部座席のオリバーはまだ今もずっと後ろで寝ている。タケダとの別れの後、車を走らせて一先ず安全だと思われる場所まで移動してきた。今はタケダから貰った無線を気にしながら、これを書いている。当たり前だが、ここまで無線が届く訳は無い。貰ってきたのは、追手である捜索隊ではなくても軍関係者が近づいて来たらすぐに分かるようにする為だ。
スマホもノートPCも、村で取り上げられてしまったままなので、今は急いでイギリス領事館へ向かわなくてはならないのだが、また熱が上がってきていて眩暈と疲労で普通に交通事故を起こしかけた。事故で私もオリバーも死んでしまうなんて、そんなバカなことも出来ないので今晩は一旦休むことにし、明日中には到着するようにする。その後の鋭気も養っておかなくてはならない・・・・・・
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