聴取音声データ 1-3

「大野さん、そのころからヒトが変わったようになりました。情緒がこう・・・感情の起伏が激しくなることが増えて」


「あなたはだれよりも大野教授とみたいね」


「・・・はい・・・・・・」

※思い出し目に涙する


「・・・少し休憩しましょうか?」


「あ、いえ・・・大丈夫です・・・すいません」


「・・・・・・」

「・・・・・・」

※水を飲み、少し落ち着きを取り戻す


「・・・彼は、色々と依存するようになりました。お酒や、くすり、研究そのものにも。そして、わたしに対しても・・・・・・」


「あなた自身は、そのことをどう感じた?」


「・・・あのころの大野さんは、そう、まるで助けを求めているような、追いつめられているような・・・毎晩といっていいほど、泣いていました」


「なぜ泣いていたの?」


「聞いても、なにも教えてくれませんでした。少しかわいそうなぐらい・・・なので聞いてはいけないものだと判断し、それ以上は詮索はしませんでした」


「・・・そう」


「でも、それは数か月ぐらいで改善・・・は、しました。元気、というよりかは、フっ切れきれたというか・・・・・・」


「情緒は、安定した?」


「はい。でも、安定というよりかは、なんかこう・・・歪な感じで・・・・・・」


「・・・・・・」


「でも、それまでは食事もろくに取らず、眠ることもなかなか出来なかったみたいで心配だったんです。とりあえずはそこが改善されて、わたしはホッとしました」


「・・・そうね。どんな心境の変化があったのかな」


「分かりませんが・・・でも明るく、楽しんでいる節もあるように見えました。そして・・・なんだか”恐さ”も感じるような雰囲気でした」


「なるほどね・・・・・・」





【以下、『大野 明 研究科長 録画日記データ 1』 抜粋】


◉REC


〇月〇日


まさか、こんな事態になるなんて・・・・・・


いや、この研究に参加する前から・・・その時点で分かっていたことだろう

勝手に、自分は関係ないって、どこか他人事のように感覚を鈍らせていただけだ・・・・・・


俺は自己都合に認知バイアスを曲げる最低野郎さ・・・・・・


いまさら、なんだ!

もう後になんて引けない

何万、何百万人という人の命を救うためなんだ

なにをいまさら・・・・・・


・・・ごめん

祥子・・・君だけだ

君さえいれば・・・僕は・・・・・・

ごめん・・・うぅ・・・ごめんよぉ・・・・・・

祥子・・・・・・


・・・いや、だめだ、ダメなんだ

こんな苦しみを、無駄に広げてどうする!バカか!


くそっ!!


※教授は画面外へ。なにかの衝撃音がする。椅子か机を蹴っている様子


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