2-16 謎解き
凛汰の
「第三の事件である
「俺が間違っていないことくらい、お前が一番、分かってるはずだ」
「さあ。全然分かんないや。むしろ、そんな言いがかりをつける凛汰のことが、僕には不思議で仕方ないよ? 僕よりも
「お前よりも怪しい奴って、誰のことだ?」
そう問い掛ければ、梗介は平然と言い放った。
「三隅真比人。――記者さんだよ。記者さんが、帆乃花を殺したんだ」
美月が、隣で表情を
「みんな、ここで帆乃花の遺体を見つけたときのことを思い出してよ。特に、美月ねえ。死んだ帆乃花の髪には、
「う、うん……」
美月は、
「ほらね。みんなは、美月ねえが
「そんな……梗介くん、どうして……?」
美月が、つらそうに
「
美月は、もはや声も出ない様子だ。強いショックを受ける姿を、凛汰は横目に
「お前は、あの事件現場から、そういう絵を
そう言って、両手を前にゆっくりと伸ばすと、
「煙草の灰は、真犯人が三隅さんに罪をなすりつけるための
「俺なら、もっと違う絵が
「凛汰……」
目が覚めたような顔で振り向く美月に、凛汰は軽く頷いた。そして、両手のフレームをほどく代わりに、梗介に右手の人差し指を突きつける。
「梗介。お前に質問だ。生前の帆乃花と最後に会ったのは、いつだ?」
梗介は、すぐには答えなかった。探るような目で凛汰を見てから、
「
「……へえ。俺と美月、三隅さんとお前の四人で、
「そうだけど、それが何?」
あっさりと認めた梗介は、
「教員寮を出たとき、帆乃花の姿が見えなかったんだよ。きっと僕に声を掛けた時点で満足して、先に行っちゃったんだよ。帆乃花って、そういう気まぐれなところがあるでしょ? ねえ、浅葱さん。それに、クソ
笑みの仮面をかぶり直した梗介が、二人に水を向けた。大柴は、
「だから、僕はいったん自宅に帰って、帆乃花がいないことを確認してから、帆乃花を探して村のあちこちを歩いてたんだ。僕のアリバイを証言してくれる村人はいないから、別に信じなくても構わないよ?」
「ああ。そうさせてもらうぜ。その証言は、信じるには
凛汰が断言すると、梗介の笑みの仮面が、また一瞬だけ確かに外れた。
「二つ目の質問だ。この神域に転がされていた帆乃花は、いつ死んだ?」
「そんなの、決まってるじゃん。今日だよ」
「今日の、いつだ?」
「午前中でしょ? 今朝には、神域で焼けた
「いいや。それは、絶対にあり得ない」
きっぱりと
「三つ目の質問だ。帆乃花は、どこで殺されたと思う?」
「ここに決まってるじゃん。ちょうど、いま僕が立ってるところ」
「それも、絶対にあり得ないな」
凛汰は、再び断言した。そして、梗介の足元を指でさす。――帆乃花の遺体が寝かされていた場所は、濃い灰色の
「帆乃花の死体発見時、神域の岩場に
話を聞いていた大柴が、感心した顔で「そっか、なるほど……」と声を
「『神域は殺害現場ではない』イコール『土の匂いが付着した場所が、殺害現場になる』のかどうかは、疑問の余地があるけどな。なぜなら、遺体の死亡推定時刻を
美月が、戸惑った様子で「土に?」と
「土に埋められた遺体は、
「何それ? 帆乃花を土に埋めた犯人が、僕だって言いたいの?」
「その通りだ」
凛汰は、いきり立つ梗介を受け流して、隣の美月に目を向ける。そして「美月。俺と三隅さんが初めて会ったときのことを、思い出せ」と言って、昨日の回想を
「凛汰と三隅さんが、初めて会ったとき……四月一日に、凛汰が櫛湊村に来て……嘉嶋先生を
「ああ。あのとき三隅さんは、奇妙なことを二つ言ってたぜ。覚えてるか?」
美月は、さほど間を空けずに頷いた。きっと美月も、あのときの三隅の
「あのとき、三隅さんは……私と凛汰を残して、教員寮を出ていく前に……『〝姫依祭〟が始まるまで、宝探しに行ってくるから』って言ってたよね」
大柴が、不気味そうに顔を引き
――『たとえ記事には書けなくとも、個人的な知的好奇心を満たしたいのさ。この櫛湊村には、掘り出し物の〝真実〟が、たくさん眠っているかもしれないからね……?』
生前の三隅の声が、脳裏で静かに
「四月一日の昼下がりに、三隅さんは俺と美月を教員寮に残して、一人で出掛けた。三隅さんは記者だし、五年も〝
凛汰が言わんとする意味を、美月と浅葱は
「三隅さんは、気づいたんだよ。櫛湊村から、いつの間にか村人が一人消えていることに。そして、〝姫依祭〟開始前に、見つけたんだよ。掘り出し物の〝真実〟を」
ここまで言えば、さすがに大柴も気づいたらしい。顔色が悪くなり、教え子の少年をぎこちなく振り返る。視線を追った凛汰は、
「例えば――誰にも見つからないように、森に埋めていたはずの帆乃花の遺体が、何者かによって掘り起こされていて、しかも遺体のそばに煙草の吸殻が添えられていたとしたら? 遺体の隠し場所に戻った犯人は、一体何を思うだろうな」
梗介の顔から、また薄ら笑いが消えた。凛汰は、もっと直接的な言葉を選んだ。
「もし、昨日の四月一日のうちに、三隅さんが帆乃花の遺体を発見していたら? そして、帆乃花の遺体のそばに、自ら煙草の
「……僕さ、凛汰が何を言ってるのか、いよいよ分からなくなってきちゃった。もっと簡潔にまとめてくれる?」
凛汰は、「いいぜ」と短く応じた。
「つまり――お前の犯行である蛇ノ目帆乃花殺しは、昨日の四月一日の昼下がりから、〝姫依祭〟が始まるまでの間に、三隅真比人に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます