かけがえのない君と

坂綺知永

プロローグ

プロローグ

2020年10月31日青森県青森市 市内にある某十字路ー。

天気は雨

巷ではハロウィン祭が開催されている。

宮野 晃は、大学の講義を終え、家路についてた。

大雨が降りしきる中で彼は傘を差し、車の水しぶきを浴びながら歩く。時々舌打ちをしながら。

雷が絶え間なく響くが彼にとってはそんなのはどうでもよいこと。家に帰りたい。それだけだった。

パトカーのサイレンが突然鳴り響いてきた。

大雨の中、かれはひたすらに歩いている。

サイレンの音が近くなってくる。

「そこの車、止まりなさい!!」

警察官の怒声と停止を求める声を無視している対象車がいるのかそれが何度も彼の耳に入ってくる。

「さっさとつかまってほしいなぁ」

イラつきながらも家路を急ぐ。

「そこの車、何しているんですかやめなさい!!」

警察官の声が焦りの色を見せた。

後ろを振り向くと、軽自動車が彼の目前と差し掛かっていた。

唐突に起きている彼の頭はこの状況を把握することが出来ず、そのまま轢かれてしまった。

その車はそのまま大雨の中へ消えた。

「うっ、はぁつ」

薄れていく意識の中、彼は自分に今起きたことを整理しようとした。

しかし、轢かれたときに頭が受けた衝撃で考えることができなくなっていた。

目の前がだんだんとかすんでいく。

警察官の声すらまともに聞こえなくなっている。

「君、名前、名前言える?」

「み、やの」

苗字を言いかけた時彼は意識を失った。

大雨が小降りになっていた。彼を轢いた車の痕跡を消して。


病院に搬送された後、彼は2ヵ月の間、意識が戻らず昏睡状態に陥っていた。

12月31日。2020年がそろそろ終わるころに彼は突然意識を回復し、目を開けた。

目には光がなく真っ黒なまま、病室の天井を見上げていた。

それから、医師が彼に尋ねた。

「君は、自分の名前を言えるかな?」

彼はうつろな表情のまま答えた。

「わからない。僕は、誰ですか?」



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