痛い系な石像 

 アンドレーが鋭い目つきでポムを睨んだ。


 ポムは、相手が何かを企んでいるのを察した。


 今さっきの、靴舐めプレイには、なしかしらの意図が隠されている。


 だが、どんな意図なのかまでは見破れなかった。


 場は、緊張に包まれた。


 アンドレーの次の動きが読めない。


 4人の男たちは、アンドレーの様子をうかがって、しばし静まり返った。


 10秒ぐらいしたとき。


 スコットが、頓狂な声をあげた。


「お、おい!

 なんだこれ」


 全員がスコットを見た。


 彼の足首が、パンパンに膨れ上がって、しかも灰色になっていた。


 スコットが、逃げ惑おうとしたが、足が動かせなかった。


 氷漬けにされたような感覚だった。


 つぎに、マルコも同じような声で叫んだ。


「うわッ! うわーーーッ!」 


 彼の足も、スコットと同様の怪現象が起きていた。


 いや、スコットだけでない。


 ザッツもだ。


 スコット、マルコ、ザッツの3人の足首が、灰色に変色してパンパンにふくれ上がっていた。


 怪現象の原因を見抜いたポムが叫ぶ。


墓場人形グレイブドールだ!」

 

 黒魔術ダークマジカスキルのグレイブドール。


 術を受けた者は、ゆっくりじっくり石化する。


 3人の足の怪現象の正体は石化の症状だったのだ。


「あッ! さっきお前は!?」


 ザッツがアンドレーを睨みながら叫んだ。


 さっきアンドレーは、くつを舐めながら、このスキルを発動していたのだ。


 彼はそれに気づいた。


「おい誰か聖水を持ってないか」 


 黒魔術ダークマジカの呪いは、術がかかってすぐなら聖水で無効にできる。


「持ってるぞ!」


 用意のいいマルコがポケットから聖水を取り出した。


 うまいことにちょうど3人分あった。


 彼は他の2人に聖水を投げ渡した。


 みんな一目散に、聖水を足にふりかけた。


 だが、不可解なことに、効果がなかった。


「おい、なぜだ。どうして効かないんだ」 


 彼らの疑問にアンドレーが答えてくれた。


「レイヤードスキルだ。

 墓場人形グレイブドールにストッパブルを重ねた」


 ストッパブルは、ポムにも使われた黒魔術ダークマジカだ。


 治癒を難航させる忌々しい呪い。

 

 墓場人形グレイブドール×ストッパブル=聖水の効かない石化魔法

 

 徐々に進行する石化を、なすすべなく傍観するしかできない恐怖のレイヤードスキルだ。 


 アンドレーがペロペロやっていたのは、魔法スキル発動時に放たれるの黄色い光を頭で隠すためだ。


 隠しスキルは、巧妙に仕掛けられていた。


 3人がジタバタあがく間にも石化は進行した。


 つま先から始まった石化現象は、もう彼らのお臍の部分まで上がってきていた。


「おい、待て、やめろ、来るな」  

 

 3人が、阿鼻叫喚の叫びを叫んでいる。


 来るなといっても、石化の波は、彼らのみぞおち、胸板、鎖骨へと這い上がっていった。


 そして、首が石になり、口がカチコチにかたまり、目玉が石ころになり、やがて、髪の先まで灰色に染められた。


 松明に照らされて、夜の荒野に浮かぶ石像は、まさに墓場グレイブ人形ドールであった。

 

 ポムが絶句していた。


 木に縛られた娘たちも同様だった。


 その場は、しんと静まり返り、墓場そのもののようでった。


 アンドレーは、ついに、スキルで人殺しをやったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る