痛い系な荒野

 アンドレーが呼び出されたのは、町から離れた荒野であった。


 枯れ木と雑草とあちこちに転がった岩石。


 それ以外になんにもない場所だ。 


 もう日が暮れてしまっていたので暗かった。


 松明の火があって、それが唯一の光源でった。

 

 そこにポムが陣取っていた。


 相手は、車椅子のポム。

 風魔道士ウィンディー・ウィザードのザッツ。

 時魔道士タイム・トリッカーのマルコ。

 盗賊シーフのスコット。

 の4人だ。


 一本の枯れ木にエディタとジアーナが縛り付けられていた。


 2人は何も言えないように猿轡をされている。


 アンドレーが、4人の前に仁王立ちしていた。


「余裕だな」


 ポムがからかうように言った。


「お膳立てに感謝する。

 これでまたエディタをにできる可能性が高まる」


 アンドレーが言うと、ポムが忌々しそうに言い返した。


「ここは町の外だ。

 スキルは使いたい放題。

 そしてこっちは3人がかりだ。

 余裕かませる立場かどうかをよく考えろよ」


「大丈夫だ。

 いくら町の外といえども、人に向かってスキルを使えば貴様らの口と手が悪魔の色に染まる。

 ルールを守って表面を取り繕うだけの貴様らが、スキルを使えないのはわかっておる」


 アンドレーが言い切った直後、ザッツがニヤリと笑った。


「エアリアル・ブレード!」


 叫ぶ彼の唇が黄色く光る。


 魔法スキル発動を知らせる光学現象。


 透明な風の刃が、シュッと宙を駆け抜け、エディタの頬に傷をつけた。


 エアリアル・ブレードは風魔道士ウィンディー・ウィザードスキルだ。


 エディタの頬に、薄い血の糸が滴り、術者のザッツの唇が紫に染まった。


 ザッツが言った。


「おまえはわかってない。

 俺たちはルールを守って表面を取り繕ってんじゃねぇ。

 ルールを破っても表面が守られる存在なんだよ」


 ポムが続けた。


「父さんは町の最高権力者だ。

 

 俺はその息子。

 

 つまり、無敵のバリアで守られてるってことだ。

 

 違反をおかして悪魔の色に染まっても、そんなもんは保安局に取り合って不正にリセット処理させればいい。

 

 普通ならリセット処理を受けるには、服役して、違反に応じた刑期を満了しなとダメだが、そんなルールは俺らには関係ない。 

 

 父さんの力を借りれば、今変色したばかりのザッツの唇も、明日の朝には元通りだ。

 

 聴衆の目が届かない場所なら、何やったって許されるんだよ」


 アンドレーが言った。


「聴衆の目を気にするなら、無敵のバリアというわけではなかろう。


 無敵というのは我のように涅槃を得た者のことを言うのだ」 


 アンドレーが剣を抜いた。


「おっと、剣なんか抜いていいのか?」


 ポムが、車椅子をおしてエディタの前に移動した。


 ナイフを彼女の乳房に押し付けた。


 エディタが、猿轡越しに、小さな悲鳴をあげた。


「卑怯だろ? 


 これが権力の為せる技だ」


 アンドレーの、剣を握る手が緩んだ。


 そのとき、ポムの仲間の3人が一斉同時にスキルを発動させた。


「トルネード・ブロー!」


「スピードドライブ!」   


「スラッシュライナー!」


 三位一体の連携スキルが、アンドレーを襲った。

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