痛い系に参上!

 エディタが目を閉じた瞬間……!


 縦一文字に、切り込みが入った。


 傷口が、だんだんと赤く染まっていった。


 しばらくすると、傷口の隙間から、赤くドロドロしたものが滲み出し、やがてトロリと滴りはじめた。


 だが、その傷が生じた場所は、エディタの腹ではなかった。


 赤く滴ったものは、エディタの血ではなかった。

 

 傷ができた場所は、恐ろしき拷問部屋を堅く閉ざしていた鉄扉だ。


 彼女を絶望させた、あの重くて頑丈な鉄扉に、縦にパックリと傷が開いていたのだ。


「なんだ? 何が起きた?」


 中の男たちがめいめいにザワついた。


 鉄扉の傷口が、まるでバーナーで炙られでもするように、メラメラと赤く光り始めた。

 

 やがて、扉全体が濡れた煎餅みたいになって、ヘニャリと折れ曲がってしまった。


 扉はもう扉ではなくなり、床に寝そべった得体のしれない鉄くずになった。


 エディタの目が光った。


 彼女は、地獄で仏を見た人間の目になっていた。  

 

 ほぼ無意識に叫んだ。


「助けてッ!」


 彼女の視線の先にはあいつがいた。


 エディタのことを執拗につけまわしていた変態。


 女に貢がせたスキルを性欲のためだけに悪用する違反者。


 涅槃を得て転生してから、女漁りしかやってこなかった元僧侶。


 アンドレー。


 やつが、崩れた扉の向こうに立っていた。


 彼の手には剣がある。その剣が、夕陽のように真っ赤に燃えていた。


「誰だッ」


 男たちが叫んだ。


 ポムだけは、相手の正体を知っていた。


「いらっしゃい」 


 ポムは、それほど焦っていなかった。


「まぁ上がれよ」

 

 彼は余裕の表情でアンドレーを中に招いた。


 アンドレーは、躊躇なく中に入った。


 壁に磔られたエディタを見て一言。


「うむ、悪くないな。

 我もこういうプレイには興味があった」


 アンドレーは、エディタの前にたち、むき出しの乳房をマジマジと観察した。


「いい形じゃ」


 彼はエディタの顎をクイッとあげて、キスをした。


「やはりおぬしは、我のハーレムに入るべきじゃ」

 

 そう言うと、後ろを振り返り、ポムたちを睨みつけた。


 ポムが言った。


火炎魔法剣フィア・ソード・アートか」


「左用」


 鉄扉を斬り破ったスキルをポムが言い当てた。


 魔法剣士ソード・アーティストの上級スキル・火炎魔法剣フィア・ソード・アート


 火炎魔法フィア・マジカを封じ込めた剣で斬られると、傷口が灼熱の炎に焼かれる。

 

 鉄扉が溶け崩れたのも、他ならぬこの火炎魔法剣フィア・ソード・アートの力によるものであった。


 もちろん、こんな危険な技は、町中使用禁止だ。


 彼は、またしても違反を重ねた。

 

 だが、彼にそんなことは関係ない。


 「不食」「不財」「不名誉」「不眠」の転生聖者。


 彼に関係あるのは性欲のみ。


 エディタのみ。


「違反が好きな奴だな」 


 ポムが言った。 


「好きというのとは違う。

 ただ単に、冒険者としてのルールに用事がないだけじゃ」


 アンドレーが答えるとポムが笑った。


「冒険者として? フン、お前は人としても結構やべぇぞ」


「貴様には劣るから心配しておらん」 


 アンドレーは淡々と返す。


「どうする? エディタを助けるために違反を重ねるか?」


 挑発するポムには余裕がある。


 高火力スキルを目の前で見せつけられても微動だにしていない。


 もしかしたら彼は、アンドレーに匹敵するチートスキルを持っているのかもしれない。


 あるいは、スキルとは別の形のチートを隠し持っているのかもしれない。


 でなければ、彼が、この場でこんな態度を取れる理由を説明できない。

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