痛い系な悲鳴

「腸を掻き出してやろうか?」


 ポムが嬉しそうに言った。


 ナイフの切っ先を彼女の腹に押し当てている。


 エディタは、気が狂ったように首をブンブンと振った。


 何も話さず、ただただ泣きじゃくっている。


 その声が、ポムを喜ばせた。


「昔通ってた幼稚園にさぁ、好きになった女先生がいたんだ。

 

 彼女は花が好きで、花壇を宝物のようにしていた。

 

 俺は彼女が好きで好きでたまらなかった。

 

 だからある日、彼女が大事にしてる花壇をめちゃめちゃにしてやったんだ。

 

 そしたら彼女、ひどく悲しんでた。

 

 彼女は俺にこんなことをたずねてきた。

 

 どうしてこんなひどいことをするの?

 

 俺は先生のことが好きだからだと答えた。

 

 すると彼女はこんなことを言った。

 

 好きだったらこんな酷いことはしない!

  

 俺にはさっぱりわからなかったよ。

 

 俺はただ好きの気持ちを表現しただけなのに。

 

 それ依頼、彼女は俺を避けるようになった。

 

 俺は、とても悲しかった。

 

 そのことがあって以来、俺は好きという感情を押さえつけるようになった。

 

 好きは表現しちゃいけないんだと思った。

 

 好きは隠さなきゃ……。

 

 だけどさぁ、そんなことしてたら病気になっちまったんだよ。

 

 隠しつづけていた好きが、やがて化物になって吹き出すようになってきた」 

 

 ポムはしゃべっているあいだ、ナイフの切っ先で彼女の全身を愛撫していた。


 エディタは、体の隅々に、恐ろしい感触を味わった。


「俺が14歳になったときだ。

 

 町でたまたまその女先生を見かけたんだ。

 

 少し歳をとったけど、やっぱり綺麗だった。

 

 その時だ。俺の中の化物が、俺にこんなことを囁いた。


 あいつを喰ってしまえ。これ以上『好き』を押さえ込んでいると、お前は本当に潰れてしまうぞ。


 その瞬間から、俺は半分意識を失っていた。


 気が付けば、彼女がこの部屋で血まみれになって倒れていたんだ。

 

 そう、俺は彼女を拉致し、監禁し、十日間に渡って陵辱したんだ。

 

 彼女はギャーギャーとえげつない声で叫んでた。

 

 その時の声、今でも覚えてる。

 

 忘れられない。

 

 気持ちよかった~。 


 そのときに、俺は心に誓った。


 今後二度と、自分に嘘をつかない、と。


 好きな相手をめちゃくちゃにしてやると! 


 だから、今でもこんなことをやっているんだ。


 こうやって、半分透明人間みたいに影の薄いやつを捕まえて、じっくりいたぶるんだよ。


 さぁ、悲鳴を聞かせろ。


 泣け、喚け、あの日あの時の彼女のようにッ!」

  

 エディタが、やっとの感じで言った。


「こんなことやってたら、いつかはバレて裁かれる。

 不幸になるのはあなたよ。 

 だから、もうこんなことはやめて」

  

「不幸? 大いに結構。

 どうせ俺は幸せにはなれない。

 俺の気持ちを分かる女なんて、この世には一人もいないんだからな」

 

 ポムは、ナイフをエディタの口に突っ込んだ。

 

 舌に尖ったものが当たっているのがわかった。


 彼女は縮み上がった。 


「それになぁ、すでに何回かバレてんだよ。

 ところが裁かれたことは一度もない。

 不思議だねぇ?

 どうしてだろうねぇ?

 ウフフフフフフフ」 


 ポムは「そろそろ本番を始めようか」と言った。


 顔つきがあきらかにかわった。


 真剣な顔になったのだ。


 難しい手術をする執刀医のような顔。


 それが、この上なく恐ろしかった。


 こいつは、本当に、私の腸を引きずり出す!


 そう思えてならなかった。


 ポムが、ナイフの切っ先を、エディタのうつくしいお腹にくっつけた。


 そして、柄を持つ五本の指が、ギュッと、思い切り強く握り締められた。

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