痛い系な愛

 ポムは、一脚の椅子を出し、部屋の真ん中に置いた。


 次に、エディタの手をとった。


 彼は、プリンセスをエスコートするプリンスとなり、彼女を椅子に座らせた。


 そして、ひざまずき、エディタの手に口づけた。


 予期せぬ演出に、エディタは面食らっていたが、頬がさくらんぼのように色づいていた。

 

 可愛かった。


「俺は君に嘘をついていたんだ」


「嘘?」


「冒険者として支援するからパーティーに入れと言ったけど、それは嘘だ」


 エディタは、嘘だと言われても、べつに不安にはならなかった。


 なぜなら、ポムが、美しい顔でやさしく微笑んでいたから。


 彼がついた嘘は、きっとやさしい嘘だ。 


 わたしにとってはうれしい嘘なんだ。


 そんな風に思えたから。


 ポムが顔を寄せてきた。


 息がかかるほど近くに顔を寄せてきた。


 エディタはドキドキが止まらなかった。


「本当のことを言うぞ。

 恋人としてパーティーに入って欲しい」


 近距離で目を合わせると、エディタは動けなくなった。


「お前と一緒に恋のクエストをクリアしたい。

 クリアして手にいれたポイントで、愛という名の魔法を買って、お前にドロップしたい」


 エディタは、脳みそが沸騰していて、何が何だかわからなくなっていた。


 だけど、唇だけが自然に動いた。


 動いて、こんな言葉を口にしてしまった。


「わかりました。

 では、わたしがあなたに愛という名の魔法をおかけましょう」


 ポムとエディタの視線がぶつかった。


 二人は、甘い熱視線でエンゲージされていた。


 フッ……フフッ……フフフフフッ……フフフフフフフフフ……


 ポムがお腹を押さえだした。


 エディタが面食らってしまった。


「どうしたんです?」


 フフフフフフフフ、フフフフフフフフ、フハハハハハハハ、アーハッハッハッハッハッハッハッハッ!


 ポムが大声で笑い出した。


 床に寝そべって、笑い転げた。


 エディタが呆気にとられている。


 椅子に座ったまま、放心状態になっている。


 すると、はじめはひとつだけだった笑い声が、ふたつになり、みっつになり、最後には四つの笑い声に分裂して、部屋の中を駆けずり回った。 


 4つの哄笑は、あきらかな嘲笑だった。


 エディタを馬鹿にするような笑いだった。


 足音と思われる音がゾロゾロと聞こえた。


 部屋の隅に積まれていた木箱の陰から、3人の男が出てきた。


 今の今までそこに隠れていて、二人の会話の初めから終わりまでをすっかり聞いていたようだ。


 みな、顔をしわくちゃにして、腹を抱えて大笑いしていた。


 床に寝そべるポムが、そいつらに向かって言った。

 

「おい! 聞いたか今の!」


「聞いた聞いた! やべぇ、腹がよじれそうだ」


「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」


「愛という名の魔法だってさ!」


 一分、二分と、男たちは笑い続けた。


 そのあいだ、エディタは、指先ひとつ動かさなかった。


 動かせなかった。


 目の焦点があっておらず、虚ろな顔をしていた。


 あとから出てきた男のひとりが、エディタの眼前でからかった。


「早く俺に、愛という名の魔法をかけてくれよ」


 他の男たちも悪ノリして、こんなことを次々に言った。


「こんなトラップに簡単にひっかるなんて、まるで昆虫なみの脳みそだな!」


「変な映画の見すぎだよ」


「あ~王子様~! 私をお城に連れてって~! アーハッハッハッハッハッハッ」


 エディタが、勢いよく立ち上がった。


 腹が立ったというよりも、辛くてその場にとどまることが出来なくなったのだ。


 彼女は、出口に向かって歩きだした。


 ポムが腕を掴んで止めた。


「離してよッ」


 エディタが振り払おうとした刹那。

 

 ピシッ! ポムが彼女の頬をぶった。


 頬が、火に焼かれたみたいに熱くなった。

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