痛い系な拷問部屋

 声の主はポムの父親であった。


 黒いタキシード風の服を着ている。


 ソードマジカでは、政治家がよくこういう服を着ている。


 ポムの父はこの町の町長で、ポムはその息子なのだ。


 権威者の息子だ。


 父の名はハザード。


 ハザードが二人のもとにやってきた。


 ポムは舌打ちをしながらアンドレーの胸ぐらを離した。


「息子の無礼をどうぞお許しください」


 ハザードも、息子と同様にハンサムだ。


 30代なかばぐらいだろうか。


 父親と呼ぶにはあまりにも若々しかった。


 彼は、町民から絶大な人気があった。


「何があったんだ?」 


 ハザードがポムにたずねた。


 ポムがアンドレーの口の布をひったくった。


 紫の唇が露出した。


 ハザードは、その唇と背後のギルドの建物を見て、事態を把握したらしい。


「お前はもうよい」


 と言って、ポムたちをその場から去らせた。


 ハザードとアンドレーが二人きりになった。


「最近こういう噂を耳にしたんだ。

 違反行為を繰り返しながら女漁りをしている不届きものがいると。

 君も聞いたことがないか?」

 

 アンドレーは、


「ない」


 とぶっきら棒に答えて、その場から立ち去った。


 去っていくアンドレーの背中を見つめるハザードの瞳は、息子とそっくりであった。


 血気盛んで野心に満ちた瞳だ。



 ハザードと別れたアンドレーは、3人の娘と合流した。


「心配しましたわ。

 大勢の冒険者に大怪我を負わせるんじゃないかと思って」


 とオリーヴィア。


「我は涅槃を得た聖者。

 性欲を満たすこと以外の目的で力を使うわけがなかろう。

 暴力反対じゃ」 


「うふふ。頼もしいお方」


 オリーヴィアが、アンドレーの乳首を弄んだ。


「さて、あの二人はどこへいったかのぅ」


 アンドレーがとつぜん、四つん這いになった。


 犬の恰好だ。


 今しがた女にフラレたばかりの男が、いきなり犬の真似事をしはじめた。


「サーチ・ノーズ」


 またスキルを発動した。


 盗賊シーフのスキルだ。


 嗅覚を十倍にするスキルで、盗みを強力にサポートしてくれる。


 アンドレーの執着心はやはり不退転だ。


 彼はまだエディタをあきらめていない。

 

 このスキルをつかって、今から彼女をおいかけるつもりだ。


 彼は、犬のように地面に鼻をこすりながら、四つん這いの恰好で歩き始め、エディタの匂いを探し始めた。


 女を探すために犬になりさがる……不名誉スキルがなければできない芸当である。 


 さて、エディタとポムは今どこにいるのか?


 石壁の地下室みたいな場所にいた。


 あちこちに木箱が積まれていた。


 物置かと思われたが、それにしては物が少なすぎる。


 ここは一体なんの部屋だ?


「ここはね。パーティーメンバーが集まってクエストの作戦会議をする場所なんだ。

 俺たちの秘密基地さ」


 ポムがエディタに説明した。


 秘密基地といえば少年の好きなやつだ。


 エディタは、ポムという美男子が、まだ少年の心を忘れずに持っているんだと思って、キュンとした。


(美男子×童心って、なんかいいなぁ)


 ただし、その空間は、クエストの作戦会議場というには、少し違和感があった。


 なんというか、とても寒々しくて、ほのかに血の匂いがする。


 それに、壁からぶら下がっている手枷のついた鎖。


 ……あれは一体何に使うんだろう。


 エディタが手枷を不気味そうに眺めているとポムが解説した。


「ここはね、昔は罪人を拷問する部屋だったらしい。

 悪趣味な俺の曾祖父ひいじいちゃんが買い取ったらしいよ」 


 ポムの爽やかなスマイルのおかげで、エディタの表情が緩んだ。


 ポムが、部屋のドアを閉めた。


 妙に分厚くて頑丈そうなスライド式の鉄扉だった。


 拷問部屋だったから、声が外にでないようにするための工夫か。


 ガラガラガラガラドスンッ!


 物凄い音だった。


 男の腕力でも開け閉めが大変そうだった。


「すごい扉だろ? ほら開けてみなよ」 


 ポムがエディタに扉を開けさせた。


 細い彼女の腕ではびくともしなかった。


「ハハハハ。開かないだろ? 

 ちなみにこの扉が、この部屋の唯一の出入り口なんだ」


 エディタは、彼がなぜドアを開けさせようとしたり、出入り口がひとつしかないことを説明したのか、その時にはその理由には気づいていなかった。

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