痛い系な冒険者ギルド
「さきほどはありがとうございました」
「とんでもない。男として当然のことをしたまでさ」
好青年が美しい顔で微笑むと、エディタの頬に花が咲いた。
「俺はポムだ。よろしく」
「わたしはエディタです」
ポムは自己肯定感の塊のような男。
エディタは自信なさげな女の子。
「ところで、あんなところで一人で何してたの?」
「……実はわたし、ハンディストー村に住んでまして、その……お金が必要なんです」
ハンディストー村といえば貧村で有名だ。
ポムは、彼女の身の上をすぐに理解した。
「なるほど。冒険者になって稼ごうと思って町にきたけど、なかなかパーティーが見つからず……ってな感じかな?」
「そうなんです」
ポムは、顔こそ優しそうに笑っている。
「だったらさぁ、うちのパーティーに入らない? 俺がスキルをドロップしてやるからさぁ」
エディタの目がキラッと光った。
「本当ですか!?」
「ああ、本当さ」
ポムは、その美しい顔をエディタに近づけて言った。
「困ってるプリンセスを助けるのがプリンスの仕事だからね」
盗聴中のアンドレーが、うむ、とうなずいて独り言を言った。
「左用。女を困らせる男は女の敵じゃ」
エディタはドキドキしていた。
美男子の顔が、視界いっぱいに大写しになって見える。
それはもう絶景であった。
二人はさっそく、スキルドロップの手続きのために、冒険者ギルドに向かった。
言うまでもなく、アンドレーは尾行した。
エアメールで盗聴するためには、同じ空間にいなければならない。
だから、アンドレーはギルドに入った。
そのギルドにはラウンジが併設されていた。
そのラウンジは、冒険者パーティーの待ち合わせ場所や、クエストで疲れた心身を休めるための休憩所として利用されている。
今日もたくさんの利用客がいた。
ちなみに、ここのステーキと葡萄酒は絶品だ。
アンドレーは、ラウンジに席をとり、エアメール盗聴を続行した。
彼は、拳と口元を隠していた。
違反者は、ギルド立ち入り禁止だから。
もし、違反者がギルドに立ち入ったら、すぐに騒ぎになるのだ。
二人はカウンターで仲よさげに会話していた。
ポムは、クエストポイントをたくさん持っているようで、それを使って
いくつかの書類を書いて、手続きを終えたみたいだ。
「じゃあ行こうか」
ポムがエディタの肩を抱いた。
まるで恋人を扱うような仕草であった。
エディタは戸惑ったが、拒否することはなかった。
むしろ、喜んでいるようでもあった。
顔に、乙女の恥じらいを浮かべていた。
二人がギルドから出ていこうとした。
すると、ポムが何かに気づいたらしく、不機嫌な顔をして立ち止まった。
彼は何かを睨みつけている。
アンドレーだ。
ポムは、ラウンジの席に腰掛けていたアンドレーに気づいたようだ。
布で口元を隠していたが、彼にはわかったようだ。
ポムは、エディタの肩を抱きながら、アンドレーの前まで来て、大声を出した。
「よお、違反者の兄ちゃん!」
ラウンジの客たちの顔色が一気にかわった。
冒険者たちは、ルールをちゃんと守り、苦労しながらクエストにトライしている。
規則を守っていることに誇りを持っている。
ある意味で、ルールが命になっている。
だから、違反者と聞いただけで目の色が変わってしまうのだ。
ポムは、そんな冒険者の習性を、わざと刺激するかのようにして、大声を続けた。
「どうしてお前がここにいる? ここは違反者が立ち入ってはならない神聖な場所のはずなんだが!」
冒険者たちが、席をたち始めた。
そして、力に覚えのある厳つい冒険者が、アンドレーを取り囲んだ。
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