痛い系(いたいけ)な転生者―煩悩を断ち切った僧侶が天寿を全うして異世界に転生したら女神様のミスのせいで性欲のモンスターに化けてハーレムを作っちゃった話―
ドロップ
プロローグ 涅槃の聖者×異世界の女神=貢がせクソホスト!?
痛い系(いたいけ)なミス
ここは天界の転生事務局。
さまざまな世界で天寿を全うした魂が集まる場所。
そして、魂を次の世界へ送り出す場所。
今日も、数え切れないほどの魂がぞろぞろとやってくる。
転生事務局は大盛況だ。
ブースが無尽蔵にならんでいる。
それぞれのブースに、人間の形やら、動物の形やら、虫の形やらの青く光る魂が行列をつくっている。
ブースには、事務員姿の女神が配置されている。
彼女たちが魂と面談して転生先を決めるのだ。
「はい、では次のかたどうぞ」
事務女神がいうと、ブースに人間の形をした魂が入ってきて椅子に座った。
なんだか堂々とした、只者ならぬオーラを漂わせる魂であった。
女神がパソコン画面を見ながら、その魂の経歴を確認した。
「まぁ、すごい! 地球で修行して煩悩を断ち切って仏の悟りを得られたんですね」
「左用」
魂が毅然として答えた。
「では、転生先の第一希望をお聞かせください」
「我に希望なし。希望は苦悩の根源。人は希望を持つことで苦しむ。涅槃を得て極楽往生したければ、あらゆる希望を捨てよ」
女神は苦笑いした。
「そうですか……」
(やりにくい魂だな……)
「でも、一応お答え頂かないと事務作業を進められないので、とりあえずなんでもいいから希望を出して頂けますか?」
魂がぶっきら棒に言った。
「どこでもよい」
「それだとちょっと私が困るんです……」
魂はまったく興味がないといった風にパソコン画面を指さして言った。
「そこでよい」
画面に映っていたのは、ひとつ前の客が選んだ転生先だった。
剣と魔法の世界『ソードマジカ』
「……ほんとうにそんな選び方でよろしいのですか? リセットできませんが」
「来るもの拒まず去るもの追わず。すべては仏の思し召し。どんな世界に行こうと、すべてを受け入れるのが修行者としてのあるべき姿」
(大丈夫か…この魂)
「わ、わかりました。では、転生先はこちらに決定させていただきます」
女神がエンターキーをパンと押した。
転生先は『ソードマジカ』に決定。
「ソードマジカに転生するには、あらかじめ5つのデフォルトスキルを選択していただくことになります。メニューの中からチョイスしていただけますか?」
女神はレストランのメニュー表みたいなものを魂に差し出した。
魂はそれを見ようともせずに、ぶっきら棒な声で答えた。
「涅槃」
女神は困った。
「・・・・・あの~、涅槃というスキルはないんですが」
「菩提心」
「え~っと、それもありません……」
「金剛心」
「あの、メニューの中から選んでいただけますか?」
(この人、絶対に転生先間違えてる……)
魂は、メニューに目を通したあと、満足そうに答えた。
「では、不食、不眠、不財、不名誉、不色(色とは性欲のこと)の5つを頼む」
女神は目が点になった。
(不食、不眠、不財、不名誉、不色?
食べる楽しみも、寝る楽しみも、お金を稼ぐ喜びも、人から注目される快感も、そして、恋するキモチも要らないってか?
こいつ、なんのために生きてるんだ!?)
魂の意志を尊重することが原則だ。
だから、女神は、信じられん!という顔をしながらも、「かしこまりました~」と答えて、マウスでカーソルを動かしながらスキルを選択していった。
彼女は、その時、うっかりミスをやってしまった。
4つのスキルを順番に入力し、そして、最後の「不色」を選択したつもりが、カーソルが少しだけ下にずれて「イケメン」スキルをクリックしてしまった。
女神の仕事は忙しく、彼女は疲労困憊であった。
だから、そのミスに気づかないまま、エンターキーを押してしまった。
彼が選んだ5つのスキル。
不食
不眠
不財
不名誉
イケメン。
人間には5つの欲があると言われている。
食欲、睡眠欲、財欲、名誉欲、性欲。
つまり元僧侶の彼は、女神がミスをした結果、4つの欲を捨てて、性欲だけを持つイケメンとして転生することになった。
この歪なスキルを備えて、元僧侶は 剣と魔法の世界『ソードマジカ』に転生する。
彼は、新たなる世界で、一体どんな人生を歩むのであろうか。
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