夢
公園のベンチに座り、料理が届いた体で何もない空間に対して二人でお礼を言う。
ここは高級レストラン。
「うわぁ、美味しそう。ちょっと高いけど、奮発して良かったね。」
そう言う灯里の目にはきっとコース料理のメインディッシュが並んでいるのだろう。
目の前には暗闇しかない。
マイナス5度の気温が体を震わせる。
耳も鼻も指先も感覚がなくなるようだが、暗闇の中でも確かに見える灯里の笑顔を感じるだけでそんなことはもうどうでもよくなっていた。
僕も最大限の想像力を膨らませ、舌鼓を打つ。
「美味しいね。」
「うん。美味しい。」
こうやってしたいことを順番に全部する。君の望んだ買い物も、映画も"ごっこ遊び"を通して行う。
誰かが通りかかったらきっと変な目で見られるだろう。
でも今日は街灯も、家の電気も何も付いていない。
そんな中を歩く人は誰もいなかった。
だから気にすることなく、沢山喋って、沢山笑った。
生前、いつかしようねって言っていたことを一つ一つ叶えていく。
本当のいつかはこんなはずじゃなかった。こんな方法でしか叶えられることが出来ないことにじんわりと悲しみが湧き上がる。
それでも、太陽からの恵みか、月の悪戯か、ともかく灯里に出会えたこの瞬間を今は噛み締めることに集中しながら時を過ごす。
今は夜明けまで時間がない。
灯里が死んでいなかったらするはずだったことを全部、全部、全部詰め込む。
二人ともまるで生き急いでいるみたいだった。
一人はもうすでに死んでいるのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます