公園のベンチに座り、料理が届いた体で何もない空間に対して二人でお礼を言う。



ここは高級レストラン。


「うわぁ、美味しそう。ちょっと高いけど、奮発して良かったね。」


そう言う灯里の目にはきっとコース料理のメインディッシュが並んでいるのだろう。


目の前には暗闇しかない。


マイナス5度の気温が体を震わせる。

耳も鼻も指先も感覚がなくなるようだが、暗闇の中でも確かに見える灯里の笑顔を感じるだけでそんなことはもうどうでもよくなっていた。


僕も最大限の想像力を膨らませ、舌鼓を打つ。


「美味しいね。」

「うん。美味しい。」


こうやってしたいことを順番に全部する。君の望んだ買い物も、映画も"ごっこ遊び"を通して行う。





誰かが通りかかったらきっと変な目で見られるだろう。


でも今日は街灯も、家の電気も何も付いていない。

そんな中を歩く人は誰もいなかった。


だから気にすることなく、沢山喋って、沢山笑った。




生前、いつかしようねって言っていたことを一つ一つ叶えていく。







本当のいつかはこんなはずじゃなかった。こんな方法でしか叶えられることが出来ないことにじんわりと悲しみが湧き上がる。




それでも、太陽からの恵みか、月の悪戯か、ともかく灯里に出会えたこの瞬間を今は噛み締めることに集中しながら時を過ごす。

今は夜明けまで時間がない。

灯里が死んでいなかったらするはずだったことを全部、全部、全部詰め込む。

二人ともまるで生き急いでいるみたいだった。





一人はもうすでに死んでいるのに。

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