バベルの神と双子の兄妹
ユキ
願いの先には
はるか昔、創世記に建てられたとされるバベルの塔
それは人々が天にも届く高い塔を建てようと奮闘する物語
しかし神はそれを許そうとはしなかった
いや、正確には許そうとしなかったのは最初だけで意外と途中からは頑張れと応援していたりした
そう神は意外とこういうことをする人間たちを面白がっていた
そうして出来上がったバベルの塔
神は塔を作った人々にこう言い放った「これから産まれてくる子供たちが10歳になった時、塔に登らせ、様々な試練を乗り越え、最初に塔を登りきった者には褒美としてなんでも願いを叶えてやろう」と
そう言い放った神はバベルの塔の最上階へと登って行った
それから300年たったのだが....
神
一向に誰も上がって来ないじゃないか!!何をしておるんじゃ!!300年経つうちに1人ぐらいは来ていいと思うんだけど!!
神はとても暇していた
300年間誰も来ず、実はこの塔に登らせるということ自体忘れられているのではないか?と思うほど人間が来ない
まじでそろそろ誰も来なければ天界に1度帰ろうかと思っていたその時だった
神
む?
誰かが来た
神
誰じゃ?人間か?
神の目の前に立っていたのは2人の少年・少女だった
神
おお!!とうとう人間が来た!!やってきたぞ!!300年間誰も来ず、本当に試練のことなぞ既に忘れ去られてしまっているのでは無いかと思っていた
神は嬉しくなりすぎて涙を流した
しかし神はふと疑問に思った
なぜならその兄妹には笑顔が一切なかったのだ、更には首輪や足枷、ボロボロになった服を着ていた
神
どうした?少年・少女よ、お前たちが300年間で初めての到達者なのだぞ?なぜそんなに嬉しくなさそうなのだ?そしてなぜそのような格好をしておるのだ
少年・少女
......
少年・少女は何も答えない
神
答えてくれなければ何も分からぬではないか...
そうだ!願いだ!最初の到達者にはなんでも願いを叶えるという約束だったな!
よし!なんでも願いを叶えてやるから答えるがいい!
すると少年の方が口を開いた
少年
いいえ、神様、僕達は願いを叶えに来たのではありません
神は疑問に思った
神
願いを叶えに来たのでは無いだと?どういうことだ?
少年は答えた
少年
僕達兄妹はここへ自殺をしに来たのです
神
......
神は絶句し、驚いた
神
(今....なんと言ったのだ?自殺?自殺と言ったのか?)
まさかこんな年端も行かない子供からこんな言葉が飛び出るとは思わなかった
神
ちょっと待ってくれ、今自殺と言ったのか?
少年
はい
神はその言葉を再確認して絶望した、この少年・少女は本当に自殺をするためにこの塔をのぼり、踏破したのだ
そんなことは本来ありえない、だが実際に踏破した少年・少女は目の前にいる
神
もう一度だけ確認する、本当に自殺しに来たのだな?
少年
はい
神
わかった...だがここに来てひとつも願いを叶えないというのも神としてそれは有るまじき行為だ。そこで願いを一つ叶えさせては貰えないだろうか?なにか願いはないか?
少年
わかりました、ですが少し時間を貰えないでしょうか?
神
いいだろう、願いが決まったら声をかけるがいい
少年・少女は考えた、すると答えが出るのは意外と早かった
少年
決まりました
神
おお!決まったか、さて願いはなんじゃ?
少年
僕達兄妹を来世でも一緒にいさせて欲しいのです
神
わかった、願いを承諾しよう、だがまだそちらの少女の声を聞いておらぬのだ、良ければ聞かせては貰えぬか?
少女
.......
少年
すみません、神様、妹は喋ることが出来ないのです
神
そうなのか...ならばその子の目を見させては貰えないか?
少年
目...ですか?
神
なに...そう警戒するな、取ったりせんよ
そういうと神は少女に近づき、額を合わせ目の中を呟いた
少女
.......
神
そうか...お前さんはそう思っておるのだな
少女
(頷く)
神
わかった、ならばお前さんの思う通りに動けば良い、もしそれが良い方に動けばお前さんの願いも叶えてやる
少年
そろそろ良いですか?
神
おお...すまんすまん、それでは願いを承諾しよう
少年
ありがとうございます
少年・少女はバベルの塔の頂上の端に立つと身投げをしようとした....その時だった
少年
え?...
少年は一瞬理解できなかった、今頃塔を横目に自由落下をしていたと思われる体はまだギリギリ塔の上にあった
少女
だ...だめ...落ちちゃだめ!!お兄ちゃん!!
後ろを見ると少女が兄である少年の体を支えていた
少年
お前声が....おい!離せ!!何をしているんだ!!このままこんな生活を続けてたらどうせいつか世界に殺される!このまま来世に飛ぶんだ!!そして僕達は幸せになる!!それが願いだったはずだろ?
少女
違う!死んで来世に行けたとしてもそれはもうお兄ちゃんでもなくなるし、私は妹でもなくなる!!だから死んじゃ嫌だ!!お兄ちゃん!!!
少年
!
少年は思い出した、妹が声を出さなくなったのは僕が笑わなくなってからだった、そうして必然的に妹も笑わなくなった
少年
......
少女
......
2人の間に沈黙が流れた....
少年と少女、2人の兄妹は静かに泣いていた
少年は自分の愚かさと妹の言葉に...
妹は今まで兄に全てを押し付けてしまっていたということに....
神はそれを黙って見ていた、それは数秒だろうか、何分、何時間だろうか、静かに静かに...
そうして時間がたったある時、兄妹は立ち上がった
兄妹
神様、静かに見守って頂きありがとうございました
神
落ち着いたか?
兄
はい、僕はここに自殺をしに来ました、そのつもりでした。しかし自殺の直前妹に救われました。 確かに僕達は世界に二人しかいない兄妹だ
妹
神様、最後に全てを気づかせて頂きありがとうございました。だから私は1歩を踏み出し、兄を救うことが出来ました。これからも一緒にいることが出来る
神
そうか、お前たちの答えは出揃ったか。それでは願いを聞こう、最初にたどり着いた兄妹たちよ!
兄妹はお互いに顔を合わせて頷くと神に告げた
兄・妹
神様、僕たちを地上に戻していただくことは可能ですか?
神
ああ、可能だ。それが願いだな?
兄・妹
はい!
神
良いだろう!その願い承諾した!!お前たちを地上に戻そう!!
兄・兄妹
(強く手を握る)
その瞬間、兄妹の周りが白い光で覆われ、意識が遠のいていく
その瞬間神が笑顔を向けながらこう言い放った気がした
神
さらばだ...もうここには来ないことを祈る...と
兄が目を覚ますとそこは緑生い茂る草原だった
兄
ここは...
まだ目を覚ましたばかりでボーっとしていたが、段々と何があったか思い出し始めた
兄
!妹は!?
兄が隣に目をやるとそこには幸せそうに眠る妹がいた
兄は妹を見て安堵すると神様に心の中で感謝をした
そして眠る妹を背中に背負い、新たな1歩を歩み始めるのであった
バベルの神と双子の兄妹 ユキ @SnowDome
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