嫌われた男

ボウガ

第1話

 ある高校生の青年。思い人の少女がいる。だが自分に自信がなかった。顔も中の下、勉強や運動能力が優れているわけでもない。ただ、やればできるという自信だけはあった。そしてある時から、努力をし始めた。彼女を手に入れるために。

 筋トレに、身だしなみを整えることや、肌のケアや、脱毛、ありとあらゆる努力をして、そのおかげか、勉強も徐々に成果がでるようになってきた。学年上位にのめりこみ、無関係な女子生徒から告白されることさえあった。それでも、思い人の彼女一筋で、ある日告白した。

 そこで衝撃的な事がおきたのだ。告白し頭をさげると彼女はこう答えた。

「ちょっとがんばりすぎだよ」

 そういわれたかと思うと、怪訝な顔をされた。返事という返事かどうかすらわからない。それに、告白の後、彼女は自分を何か醜いものを見るかの様に見下しているような顔をするようになった。


 どうしてだ。自信がついてきた半面、どうしてこんな目に。それから、奇妙にも自分の事が徐々に醜く感じるようになってきた。あれほど頑張っていた身だしなみや、勉強の努力、筋トレもさぼり気味になり、学校も休みがちになった。それでも、それが何か彼女が理由だとも思えなかった。なぜなら振られたらしき事をそれほどきにしていなかったし、何か、根本的な不調があるような気がした。


 2か月ほどがたって、家に来訪者がきたというので出た。でるとそこには、あの思い人の少女がたっていた。

「え?なんで?」

 パニックになり一度家のなかにひっこもうとすると、少女はいった。

「やっぱり、こうなっちゃったか、ちょっとまって、話がしたいの」

 無理やりひっぱりだされ、家の近くのカフェに二人ではいった。


「あなたに話しておかなければいけない事があるの、私、幽霊が見えるのよ」

「は?」

 頭が混乱した。だが少女は臆せずに話を続ける。

「あのね、というより、私自身に霊媒体質で、そういう物を引き付けてしまうらしいんだけど、その原因が、小さな頃に父によく山に連れて行かれた事なんだけど、そこで、いつも神様にお祈りをしていたの、別になんでもない、神様自身の幸せを、それでいつの間にか神様に嫌われるようになったらしくて」

「ふむ、それで?」

「私を好きになった人を、神様が遠ざけようと工夫するの、その人が努力しようとすればするほどね、自分でいうのもなんだけど、私を好きで生霊を飛ばしてくる人間は幾人もいてね、その怒りや嫉妬心を、私を好きだと表現した人間にぶつける」

 少し、ぞっとした。青年は近頃、欲金縛りにあったし、部屋の中にいても顔のない何十人もの男子生徒からの視線を感じるような気がしたのだ。

「ごめんね、ずっと嫌な顔をむけてしまって、それであなたが私を嫌いになると思って、でもあなたは、それでも私を好きでいてくれたらしくて、こんなことに」

「でも、君のせいじゃ」

「いいえ、今あなたの後ろに、いくつもの悪霊や怨霊が取りついているわ、私を守っている神様がしたことなの、私はあなたのこと、前から努力家でいいとおもっていたけど、これ以上あなたに迷惑をかけるわけにはいかないわ」


 それから彼は、時折山に登ることになった。彼女から山の事を聞き出すわけにもいかないが、しかしそれ以外に何か自分にできる事はないように思えた。かつ、彼には時間があった。山に登るようになると気が少しずつ楽になっていったし、それに、神に祈ると気分がよくなった。

「どうか、彼女を自由にしてあげてください」

 それから何か月、ついに1年が経過するころ、変化はおきた。


「A君(青年の名前)……」

 再び彼が学校に通いはじめたのだ。留年する事にはなったが、やはり以前の好青年にもどり、それでも彼の中にも恐怖があったので、思い人とはなるべく接触しないようにしていた。


 ある時廊下ですれ違い、やはり彼女は青年に嫌な顔をした。が、ふと素に戻り。

「あれ?いない、悪霊はいないのね」

 とつぶやいた。青年は、彼女とすれ違いざまにいった。

「君が自由になれるように、祈りを捧げつづけたんだ」

 少女は、ぽかんとしていたが、それから何週間、何か月かして実験をした。いつも断り続けていた告白を何件かうけていみた。嫌な顔をして遠ざけてみる、あるいは、それで問題ない場合、遠ざけもしない。すると以前のように悪霊はつかなかった。彼女は喜び、そのことを青年に伝えた。

「あなたのお誘い、受ける事にしたわ」

 青年は、彼女に応えた。

「よかった、これでやっと結ばれる」

 しかし、喜んで彼をまじまじと見て、その背後を見上げると少女は絶句した。青年の背後に、自分についているものより強力な、山の女神がついていたから。

 

 青年と彼女は結ばれたが、山の女神はことあるごとに二人を邪魔した。が、今度は少女のほうが、青年のしてくれたことに感謝をして、なんとか二人で山の女神を鎮めるために霊媒師を頼ったり山に登るようになり、二人で努力をするようになった、そして徐々に神の執着を払うようになると、二人は神から解放され、やがて結婚し幸せに暮らすようになったという。

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嫌われた男 ボウガ @yumieimaru

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