第15話 トレントの騎士工房
アンネリーゼに連れて行かれたのは、厳重に警戒された塀の中だった。
さすがにアンネリーゼは顔パスで、セインたちも一緒に中に入れてもらえた。
これから、トレントの騎士の整備状況や栽培手順を見せてもらうのだ。
いや、整備というよりも、延命だろうか。
それほどセインのトレントの騎士は状態が悪いのだ。
あの盗人が乗らなければここまでは悪くはなっていなかったのだから、運命とは残酷なものだった。
塀の中には木々が生い茂っていて、その所々に円形の広場が作られていた。
その真ん中に人型になりかけた木が生えていた。
「これがトレントの騎士の栽培」
そここそが、トレントの騎士を栽培整備する工房だった。
「姫、こちらですぞ」
エルフにしては年かさの男性がアンネリーゼとセインを待っていた。
ポチはオマケだ。
「アルバン、どうなのですか?」
その技師はアルバンという名だった。
この工房の総責任者だと紹介される。
「間違いなくロストナンバーですな」
ロストナンバーとは伝説のトレントの騎士だった。
始祖の騎士
その12体が全てのトレントの騎士の源流だった。
そこから接ぎ木、株分け、種からの栽培等々でトレントの騎士は増やされて行ったのだ。
ロストナンバーと呼ばれるのは、それらがほぼ失われているからだった。
戦いで失われたもの、役目を終え朽ちたもの、そしてトレントの騎士の母木となっているものと、動くものを目にすることは既に無かった。
「ロストナンバー
「それは厳しそうですな……」
アルバンの表情が曇る。
「枝の接ぎ木を試みましたが、枯れてしまいました」
植物には、接ぎ木により増やすことが出来るものがある。
トレントも例外ではなく、そうやってクローン体を引き継ぐのだ。
そうやって
だが、そのコピーが劣化するという現象が起きていた。
子から孫、孫からひ孫とコピーされ続けた結果、トレントの騎士の性能は落ち続けていた。
「駄目なのですね」
「そんな……」
「手は尽くしますが、寿命だけはどうにもなりません」
木にはある一定以上経つと立ち枯れる種類がある。
なんらかの限界を迎えるのだろうか、種などの子孫を残して枯れてしまうのだ。
それがトレントの騎士にもあって、寿命と呼ばれていた。
「樹木医の爺さんが言っていた。
種を育てろって」
セインのその言葉に、アルバンがセインの額に注目した。
そこにはトレントの種が革紐で巻き付けてあった。
「まさか、それはツヴァイの種!
まだ落ちていないのか?
だとすると適合しているということか……」
アルバンが思考の海に潜ってしまった。
アンネリーゼもセインも置いて行かれている。
「アルバン、戻って!」
「はっ、姫様、申し訳ありません。
種があるのならば、ツヴァイを再生できるかもしれません。
これは大仕事になりますぞ!」
ツヴァイの再生、それはセインも望むところだった。
「どうすれば良いんですか?」
「まずは種が自然に落ちるのを待ちます」
この世界、子供の額にトレントの種を宿し、その能力を開花させるという儀式が存在している。
それはトレントを産業に活用するために必要なものだった。
その能力には差があるが、その極みがトレントの騎士の操縦者だ。
そのために種に食われるという現象も稀に発生する。
セインは種が落ちないことで儀式に失敗したとみなされ、いつか種に食われて村に災いを齎すと追放されたのだ。
「落ちるんですか?」
セインには、その運命から逃れるためにエルフの森を目指したという経緯があった。
尤も、アンネリーゼによって、食われる事はないと教えてもらっていた。
だが、もしこのまま種が落ちなければどうしようという不安は持ち続けていたのだ。
「その種を宿してから、そんなに年月が経っていないようです。
種を宿したのが遅かったのでしょう。
待っていればそのうち落ちるはずです」
セインには心当たりがあった。
両親が村長から手に入れた種がセインには宿らなかった。
それは、セインが悪いのか、元々種が悪かったのかは判らなかった。
だが、そのままではセインの追放は確定してしまう。
そのためセインは森を散策してトレントの種を探したのだ。
そして手に入れたのがツヴァイの種。
それを代わりとしてセインは宿していたのだ。
「そうか、まだ落ちる時期じゃなかったんだ」
「そうなると、ツヴァイから鎧を外して準備する必要がありますな。
ツヴァイの主人はセイン殿です。
許可してくれますか?」
「はい、お願いします」
セインが持つツヴァイの種を育てることで、ツヴァイが復活するのならば、躊躇う必要はセインには無かった。
「あの、トレントの騎士の栽培方法を見学させてもらえますか?」
「ああ、済まない。
それがここに来た本来の目的だったね」
ロストナンバーの発見で浮かれていたため、アルバンは肝心な事を忘れていた。
姫を救ったツヴァイの主人たる客人、なんとしてでも里で囲いたいところだった。
ツヴァイのクローン、或いは里に残る
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