第13話 残念エルフの正体

 翌朝、セインは早起きして弩弓で水鳥を狩った。

その水鳥を残念エルフが泳いで回収して来た。

水浴びにもなって一石二鳥だったようだが、それでポメの機嫌が悪くなった。


 だが、問題はそれではない。

水着も持ってない残念エルフが、湖で泳ぐのにする格好は何か?

さすがに服のままは無い。

となると下着で泳ぐということになる。

上下着ていれば良いものの、その姿はパンイチだった。

長い金髪で胸は隠れていたが、その姿の破壊力は、童貞のセインには危険だった。


「ポメの仕事!」


 その状況を救ったのは、ポメだった。

ポメが自分の仕事を残念エルフに取られて怒りだしたのだ。

それを宥めるために、セインは全力を注入することで雑念を振り払った。


「ごめんよ、ほら魚を狩ったから、取って来て」


「うん♪」


 残念エルフが水鳥を血抜きして羽をむしっている間に、今朝は魚を焼かないつもりだったセインが、わざわざポメのために仕事を作っていた。

残念エルフも、いつのまにか着替えていたため助かったセインだった。


 そして鳥の丸焼きと焼き魚、薄パンという昨晩と同じメニューが並ぶ。

残念エルフとポメが競うように食べる。


「足りるかな?」


 エルフの森に到着するまでに、小麦粉が無くなる勢いだった。

たぶん、エルフの里では小麦粉は買えない。

帰りの食料をどうするか悩むセインだった。


◇◇◇◇◆


 移動は、セインが操縦洞、左腕にポメと残念エルフという形になった。

窮屈だろうが、我慢してもらうしかない。

トレントの騎士の右腕は、いざという時に剣を抜けるように空けておく必要があったからだ。

ポメを操縦洞に入れなかったのは、あのミイラ事件があったからだ。

なぜか、セイン以外が乗ると、トレントの騎士はその者の生命力を吸い取ってしまうようだった。


「それは、資格がない操縦者だったからだな。

トレントの騎士と意思疎通出来れば、食い殺されることはない」


 残念エルフは、なぜかトレントの騎士に詳しかった。

その知識は、セインを遥かに上回っていた。

まあ、セインの知識はほぼゼロなのだが。

セインは、残念エルフから、トレントの騎士の知識を学ぶことにした。

それが、同行し、食料を分け与える対価とすることになった。


「トレントの騎士は、その額にあるトレントの種から栽培する。

それが額に定着したから、セインはトレントの騎士に乗れているんだ」


「だけど、村ではこのままだと種に食われて意識を失い、僕は村に損害を与えるって言われて追放されたんだ」


「ああ、それは耐えられなかった場合だな。

セインは、トレントの騎士を操縦出来ているんだから、そんなことはないぞ」


「そうだったんだ」


 セインは死ぬと脅されていたことが、間違いだったと知って安堵した。

まあ、トレントの騎士などとは縁の無い村のこと、実際に耐えられなかった者に災いを齎された過去があったのだろう。


 お気付きだろうか?

残念エルフが全然残念じゃないことに。

専門知識を話す時、人が変わったように優秀さを示す、まさにこのエルフがそうだった。


「それにしても、このトレントの騎士は、老いているけど特別な何かを感じるぞ。

長老たちならば、何か知ってるかもしれない……」


 ◇◇◇◆◇


 獲る魚を増やして小麦粉を節約しつつ、やっとエルフの森に辿り着いた。

道中の栄養が良かったのか、残念エルフも残念ではなくなっていた。

その姿、美貌、まるでお姫様のようだった。


「ここからならば案内出来るぞ」


 残念エルフことアンネリーゼが嬉々として案内を始めた。

セインとの仲も良好で、セインはリーゼという愛称で呼ぶことを許されていた。


「リーゼもやっと役に立つな」


「やっととはなんだ!」


 そんな軽口もきけるほどに仲が良くなっていた。


 そして、道中なんのトラブルもなく、エルフの里に到着した。

これはトレントの騎士を恐れた魔物が寄って来なかったためであり、リーゼの苦労とは雲泥の差だったことを彼女の名誉のために記しておく。


 エルフの里は、迷いの魔法が掛けられていたが、リーゼのおかげでスルー出来た。

そして目の前には、光学的に隠蔽された結界があり、そこを抜けるといきなり目の前に砦の門が現れた。


「何やつ!」


 門番のエルフが槍を構える。

トレントの騎士と部外者が結界を通過してきたため、警戒しているのだ。


「私だ。 彼は私の命の恩人で客人である」


 いきなりリーゼが偉そうな態度になり門番に告げる。


「え?」


 その様子にセインも戸惑う。

そして、トレントの騎士の腕に乗ったリーゼを目にして、門番の態度が変わった。


「ひ、姫様!」

「アンネリーゼ姫!」

「なんと、姫様が戻られただと!」

「捜索隊に連絡しろ!」


 それはもう大騒ぎになった。


「姫様って?」


「ああ、言ってなかったか。

私はこのエルフの森の領主の娘だ」


 残念エルフは、マジものの姫だった。

それで変に幼い言動があったのかもしれない。

所謂箱入り娘が家出したという状況なのだろう。

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