第12話 残念エルフ

 エルフは薄汚れていて、無謀な旅をして来たように思えた。

そのシルエットは女性のようだった。


 焚火により顕になったその姿は、金髪ロングヘアに碧眼を備えたスレンダー美人だった。

年齢は若く見えるが、エルフなので実年齢不詳。

着ている衣服は緑を基調にしたエルフの伝統衣装であろう風変りな軽装。

だが、その美貌が霞むほど服は薄汚れていて、顔にもはっきりと疲労感が出ていた。

その姿から、やむにやまれぬ事情があるのだろうとセインは察した。


「鳥は食べて良いから、事情は説明してね」


 逃げるでもないエルフに、セインは説明を求めた。

鳥の丸焼きはまた狩れば良いと諦めた。

防虫草の煙で燻されて、明日には絶品のスモークチキンになっているはずだったのだが、仕方がない。

防虫草は毒ではなく、虫にとって嫌な臭いのするハーブなのだ。

それは人にとっては、むしろ良い香りだった。


 ちなみにスモークチキンというのはセインの前世の記憶から出てきている単語だ。

チキンが特定の鳥ニワトリの肉だけを指すということまでは失念している。


 セインの問いかけにエルフが反応する。


「人の街に興味があって」もぐもぐ「家出して」もぐもぐ「船が無くて」もぐもぐ「陸路で来たら」もぐもぐ「遭難した」もぐもぐ。


 だが、その様子は残念すぎた。

エルフは事情を話すが、相変わらず食いながらだった。

多少遠慮はあるのか、先程と違って言葉が不明瞭になることがなかったのが救いか。

しかも、その事情はどうしようもなかった。

まさに自業自得。


「わかった。 それじゃあ、後は勝手に街まで行ってね」


 こちらに危害を加える気がないならば、後は好きにしてもらおう。

そうセインは思って、エルフを放置することに決めた。


「ポメ、鳥はまた狩れば良いよ。

もっと大きな鳥にしようね。

さあ、まだ夜は長い。

寝るとしようか」


 ポメが指をしゃぶって鳥の丸焼きを見ていることに気付き、セインはポメを慰めた。

あの鳥の丸焼きはポメのものでもあるのだ。

ポメは、大きな鳥と言われて、丸焼きを諦めてくれた。

目が期待に輝いている。

これは気合を入れなければ、そうセインは決意した。

なんとしてでも大物を狩らなければならないのだ。

そして、そのままテントで寝る事にした。


「待っでぐだざい、見でないで……」


 エルフが泣きながらセインに縋りついて来た。

だが、セインとエルフは目的地は真逆。

このまま別れるしかないのだ。


「僕たちは、エルフの森に向かっている。

残念だけど、街に戻る気はない」


がえる、おうぢがえる」


 鼻水も垂らしながら、エルフは家に帰るという。

どうやら、家出に失敗し、人の街行きは断念したようだ。

その様子、あまりにも残念すぎた。


 エルフと言えば長寿種で有名だった。

このエルフも、見た目は若くてもセインよりも年上のはずだった。

なのに、発言が幼すぎた。


「お家って……おまえ、いくつだよ……」


 セインは年上がみっともないと思っていた。

だが、それは誤りだった。


まだ・・305才だもん」


「ずーーっと年上じゃんか!」


 このエルフ残念すぎる。

それは(さんびゃく)5才ってことなのだろう。


「でも、エルフの森に行くなら案内できるよ?」


「迷子なのにか?」


 ちなみに、このエルフは道を知らないから遭難したのである。


「里についたら入れてあげられるし!」


「そこは紹介状があるんだよ!」


 エルフの里へは本来だったら人は立ち入り禁止だった。

だがそこは樹木医の爺さんの紹介状で解決済みだった。


「酷い、私との関係を清算して見捨てる気なの?」


「そんな深い関係じゃないし!」


 そもそも会ったばかりだった。


「うわーん、見捨てないでぇ」


 現実的に、同行者が1人増えるのは面倒だった。

移動の際に何処に乗せるのか?

食事も1人分増えることになる。

テントも2人用でもう1人入るとギュウギュウ詰めになる。


「面倒なことになるしか想像出来ない」


「そうだ、私は弓の名手だから、狩りが出来るぞ」


「それは俺も出来る。

それで狩ったのがさっきの鳥だ。

それに、おまえ、弓が無いじゃないか」


 エルフは道中で紛失したのか、その種族的アイデンティティである弓を持っていなかった。


「ぐぬぬ」


 残念エルフはぐうの音しか出なかった。

だが、セインはそこでお人よしの性格が出てしまった。

論破したのは良いのだが、急に可哀想になってしまったのだ。


「はぁ、見捨てるのも寝覚めが悪いし、連れて行ってあげるよ」


 とうとうセインが折れてしまい、エルフの同行が認められた。

実は、セインには眠気が襲って来ていて早く寝たかったのだ。


「それじゃあ寝るな」


 セインはポメが先に寝に行ったテントへと向かう。

エルフも鳥の丸焼きを食べ終わったので、一緒について行く。

セインがテントに入り横になる。

その横にエルフが寝そべる。


「何してるんだよ!」


「何って一緒に寝に?」


「なんでだよ!」


「テントが1つだったから?」


 セインは頭を抱えた。

しかも、汚れているくせして、エルフからは良い匂いがして来る。

そのエルフがぴったりセインの背中にくっついて来るのだ。

あまりに密着しすぎて、胸が背中に当たって押しつぶされているのが判る。


「寝れない……」


 セインはテントを出て、トレントの騎士の操縦うろで寝ることになった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


お知らせ


 実は昨日の途中まででストックが切れてしまいました。

しかし、読んでいただいている方がおられるので、出来るだけ継続したいと思っています。

引き続きご愛顧いただけると幸いです。

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