第3話 領主
領主館は、カシーヴァの街の中心にある小さな城だった。
まるで小国の王城かと思われる作りだ。
その城門はゴーレムやトレントの騎士を通すためだろうか、5mほどもある巨大なものだった。
領主館の城壁の中に入るとセインは庭にトレントの騎士を跪かせ、左胸部の
安全を確認したのか、館から身なりの良い男性が歩み寄ってくる。
「街を救っていただき感謝する。私がカシーヴァの街領主のカシーヴァ伯爵だ。どうか礼をさせていただきたい」
セインは暫し思案すると、断わる理由もないので承諾した。
断って逆に険悪になることを避けたいという意志もあった。
「わかりました。有り難く承りましょう」
伯爵が館に入ると護衛の兵士に先導されてセインも続いていく。
「こちらでお待ちください」
セインは豪華な応接室に通され、しばらく待たされることになった。
セインが座るとすかさず美人メイドさんがお茶のカップを配膳する。
香りの立つ、セインが飲んだこともないような高級茶葉の紅茶だった。
◇◇◇◇◆
「おい、あの汚い小僧が騎士で間違いないのだな?」
カシーヴァ伯爵が眉を潜めながらジェーソンに訊ねる。
セインの見すぼらしい身なりを見て騎士だとは信じがたかったのだ。
その姿は、農民か猟師というところだったのだ。
名のある騎士には到底見えなかったのだ。
「間違いありません。伯爵もトレントの騎士から降りる所をご覧になったでしょう?」
「たしかにな。それにしてもあの若さでトレントの騎士だとは……」
「私どもは恐獣を倒す所も見ました。凄腕です。あんな素早いトレントの騎士は見たことがありません」
ジェーソンの言葉にカシーヴァ伯爵は思考を巡らせ悪い顔をする。
「これは我がカシーヴァの街で囲った方が得策か?」
「謎の敵の攻撃は続くでしょう。その時にあのトレントの騎士が居れば、カシーヴァの街は安泰です」
「ならば何で繋ぎ止める? 金か? 女か?」
「金ではそのまま街を去りかねません。地位を与え領地で縛るか、やはり女でしょう」
「女か。この後の晩餐会に女をみつくろっておけ。寄り子の騎士爵家にでも婿入りさせて縛ろうぞ」
カシーヴァ伯爵と兵士隊長は悪い顔で笑った。
◇◇◇◆◇
「セイン様、旅の疲れがお溜まりでしょう、湯浴みの用意をしましたのでお入りください」
美人メイドさんが促す。
「ははは(わかってるよ。僕は臭いはずだもんな)」
セインは引きつった笑いでそれに応える。
今まで川で水浴びをする程度の生活を送ってきたし、服も一張羅で着替えていない。
そんな不潔な人間が社交の場の晩餐会になどに出られるわけがないと理解していた。
セインは美人メイドさんに言われるがまま風呂に入ることにした。
風呂は貴族が使うような金を使った豪華な湯船ではなく、兵士が集団で入るような大浴場だった。
セインは桶に湯を掬うと目の前にある石鹸を手にして泡立て身体を洗う。
「この世界で初めて石鹸を見たぞ」
セインは嬉しくなって石鹸を使った。
その時、入り口のドアが開くと湯浴み着に着替えた美人メイドさんが入って来た。
「申し訳ありません。湯浴みの作法をお教えしなければなりませんでした……って、大丈夫なようですね?」
美人メイドさんはセインがきちんと石鹸で身体を洗ってから湯船に入ろうとしているところを見て動きを止めた。
逆にセインも裸に薄布一枚の格好で風呂場に入って来た美人メイドさんを見て動きを止めた。
2人の視線が交差しお互い赤くなるとセインが顔を背けた。
その初な反応に美人メイドさんの何かが弾けた。
「お背中お流ししますわ♡」
美人メイドさんが積極的にスキンシップをはかる。
逃げるセイン。
「だめです。僕はまだ15になったばかりです!」
あまりに年下だったために、セインは危機を脱した。
この世界では、15で成人だが、結婚は18からだった。
風呂から上がると脱衣所にはバスローブが用意されていた。
先に着替えていた美人メイドさんが、セインをそのままドレスルームへと連れて行く。
「え、ちょっと!」
美人メイドさんが、下着を手にしようとしたセインの手を掴んで顔を横に振る。
それは、セインが自ら着がえをするのを阻止しようというのだった。
美人メイドさんがセインのバスローブを脱がせる。
その下のセインは全裸だ。
美人メイドさんが馴れた手つきでセインに下着を履かせる。
いったいどうやって?
セインがそう思う間もない早業だった。
そして、生活魔法でセインの髪を乾かしてくれる。
その後、上等な服を見繕って一端の騎士に見えるように着飾ってくれた。
馬子にも衣装でセインは若き騎士に見えた。
「ご立派です♡」
美人メイドさんの視線は何故かセインの股間を向いていた。
下着を履かされた時にしっかり見られていたのだ。
美人メイドさんは、トレントの騎士であるセインを玉の輿相手だと見做していた。
風呂場でお手付きにならなかったのは、セインの初心な行動に萌え狂ったからでしかなかったのだ。
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