【改】樹騎戦記-トレントの騎士- ロボット(ゴーレム)よりも生体兵器(トレント)の方が強いって……それに星の力って何?

北京犬(英)

第0話 プロローグ

 地球で言うと中世の剣と魔法の世界。

だがその世界は一風変わっていた。全ての人がトレントを使役しているのだ。

ただのトレントではない。それらのトレントは動物や物に擬態していた。

荷運び用の馬型のトレント、荷台を持った自走荷車型のトレント、他にも各種動力としてのトレントを使役していた。

だが、その中で一番の栄誉があるトレント使いは、人型の騎士を使役するトレントの騎士と呼ばれる存在だ。

トレントの騎士とは、そのトレントそのものを指すことも、そのトレントを使役する者自身を指すこともあった。



 村外れに小さな小屋が建っている。

その小屋には若い夫婦と10歳になる男の子が住んでいた。

父親は狩人、母親は家の外にある小さな畑を耕して生活していた。


「今年もダメだったか」

「仕方ないわ。うちは貧乏でまともな種を用意してあげられないんだから」

「あれからもう10年か。村外れの森でこの子を拾ったのは……」

「セインは私達の子よ。例え無能力でも見捨てたりはしないわ」

「そりゃそうだよ。俺だってそのつもりだ。だが、そろそろ村の連中に気付かれてしまう」

「そうね。頭にがなければ気付かれてしまうわね」

「なんとか偽装しよう。迷いの森で見つけた、この種を皮紐を編んで括り付けよう」

「幸い最近はそういった装身具が流行っているから好都合だわね」


 若い夫婦は深刻な顔で相談していた。

この村では子供が成長すると共に額の位置にトレントの種を身につける。

この種が次第に根を張りくっつくことによって、将来トレントを使役出来るようになるのだ。

10歳になる若夫婦の息子は、その種が定着せずに枯れてしまっていた。

成人の儀は15歳の年に村の子供たちが集められて行われる。

その年令までにトレントを使役する力を得られなかった村人は追放になる。

若い夫婦はなんとか息子を村に残してあげたかった。



◇◇◇◇◇◆



 セインは14歳になっていた。

両親は隠しているけど、種のことで自分がまずい状況にあるということは理解していた。

トレントを使役する力が無ければ村を追い出される。

だが殺されるわけじゃないから旅をして気ままに生きればいいやとセインは思っていた。

二度と両親に会えなくなるのは寂しいけれど、覚悟をしなければならなかった。


 セインの日課は迷いの森に入って野生のトレントを探すことだった。

ただのトレントではない。種を宿したトレントだ。

いつか自分に合う種がみつかるかもしれない。

セインは、その一縷の望みに賭けていた。


 村長の息子であるガイルは、家に伝わる種を宿してもらい、少なくとも荷車型トレントを使役出来るだろう。

セインはそれは狡いと思った。生まれた家で特上の種を用意してもらえる。

本人の能力より良い種を手に入れられる環境があるかどうかが将来の可能性を決めてしまうのだ。


「うちは貧乏だから、自分で探すしかないよな」


 だが、セインは諦めなかった。



◇◇◇◇◆◇



 ある日のこと、日課である迷いの森を散策していたセインは、森の気配がいつもと違うことに気付いた。

動物や魔物がいない。

セインは父親の狩りを手伝うという言い訳で森に入っていた。

なので、いつも狩っている獲物の気配すら無いことに不信に思っていた。

考えられるのは獲物たちの脅威となる何かが森にやって来たのだろうということ。

得物たちはその存在を恐れて逃げるか隠れてしまったのだろう。


「何なのかな? 見てみたいな」


 セインは恐れと好奇心を天秤にかけ、好奇心を選択してしまった。


 セインは気配を探りながら森の中を進んだ。

このような森の奥までは未だかつて来たことが無かった。


「トレントの臭いがする」


 セインはその青臭い臭いに釣られて走る。

案の定しばらく進んだ先にトレントがいた。

そのトレントは不思議な形だった。

それはコンビニで売っているサンドイッチのような三角のトレントだった。

セインがなんでコンビニを知っているかというとセインは転生者だったからだ。

前世の記憶を持ちながら赤ん坊に転生したというパターンだ。

ただし神様や女神様と会ってチートスキルを貰ったという記憶は無かった。

白い部屋も見ていないし、自分の前世の名前すらも覚えていなかった。

そのセインの記憶にあるサンドイッチに、そのトレントはそくりだった。


「こんなムダ知識があってもなんの役にもたたないんだよな」


 セインは悪態をつくしかなかった。

目の前のトレントは動かずじっとしている。

しばらく観察しているとある物が目に入った。


「トレントの実がなっているじゃないか!」


 トレントの実はセインが探していた種を包む果実のことだ。

それはとんでもなくレアなものだった。

セインはトレントに近付き、様子を見ると一気に三角形の斜面を登り始めた。

トレントの実は三角形の中腹あたりになっている。

なんとかそこまで辿り着き、実をもいだ。


「よっしゃー! トレントの実ゲットだぜ!」


 セインは黄色いネズミのマスターのような叫びを上げた。

その時、トレントが動き出した。


「まずい。早く降りて逃げないと」


 セインは慌てて降りようとしたが、トレントは急に高さを増していった。

三角形だと思ったそれは、膝を抱えて座っていたのだ。

それが膝を伸ばして立ち上がる。

立ち上がったそれは人型のトレントだったのだ。

セインはその胸の位置にいた。

このままでは振り落とされてしまう。

慌てたセインが掴んだものは……蔦の中に埋もれた騎士の胸部鎧だった。

そう、トレントは騎士鎧を着込んでいたのだ。

だが鎧を装備してからとんでもない年月が経っているようで、鎧の隙間から枝葉や蔦が伸び放題となっていて一見では鎧を着ているとは見えなかった。


 トレントが騎士鎧をつけていることがわかったからといって、セインが振り落とされる危機にあることは変わらなかった。

セインの村で得た知識によれば、もしこのトレントがトレントの騎士であれば、胸部に乗り込む空間があるはずだ。

セインは胸部鎧を手探ると開閉レバーを探した。それは鎧の裏側にあるはずだ。

レバーが手に当たると必死で掴んで思いっきり引いた。

すると左の胸部鎧が蔦を引き剥がして観音開きの形で外側に開いた。

ギリギリ避けたセインはその胸部空間に滑りこむ。

中には人1人が入れる空間がある。

だが、そこには先客がいた。

それは人のミイラであった。


「ギャーーーーーー!」


 セインは気を失った。



◇◇◇◇◆◆



 目が覚めるとトレントは動いていなかった。

胸部鎧は開いたまま。トレントはまた膝を抱えるように座っていた。


「ここはどこ? どのぐらい時間が経っているんだ?」


 セインがあたりを見回しているとグーとお腹が鳴った。

食べ物は持っていなかった。トレントの実以外は。

大事なのは中の種なので、セインは実を食べることにした。

トレントの実は食用だと聞いたことがあったのだ。

完熟すると落下し潰れるので、熟したものが食べられる状態で手に入ることは滅多にないらしい。

所謂珍味であり、けして美味いものではないことを、セインは一口齧ったいま理解した。


「まずっ……。でもお腹は膨れた」


 贅沢は言えなかった。

セインは新たな種を手にして、おでこの種を触る。

手に触れる感触はベコベコしている。また枯れたようである。


「このままだと成人の儀で追放されてしまう。これを使うしかない」


 セインはおでこから革紐を外し古い種を捨てると新しい種をはめて再び革紐をおでこに巻いた。

その時、何か温かい光のようなものを感じた。

もしかすと定着したのかもしれない。

セインはトレントの騎士から降りると胸部装甲を閉め、そっと逃げ出した。

どうやら迷いの森の外縁でも、村に近い場所のようだ。


「森の奥に行っていたのに?」


 そう疑問に思ったが、今は家に帰ることを優先した。

セインは転ばないように気をつけながら家へと走った。



◇◇◇◆◇◇



 新年を迎え村人は全員1歳年をとった。

この世界の慣習では新年の1月1日をもって年をとるのだ。

つまり成人の儀が行われるのは、この新年初日になるのだ。


「セイン、今年の種は定着して本当に良かった」

「これでセインが村に残れるのね」

「うん。行ってくるよ。父さん母さん」


 セインが向かったのは成人の儀と呼ばれる儀式を行うやしろだった。

社には今年で15歳になった村の子供達が集められている。

ここで成人の儀を受けることで晴れて大人と認められる。

儀式に使われる杖を持った神官に呼ばれ、額の種に杖が当てられる。

すると額から種が落ち、額には第三の目と呼ばれる紋様が残る。

これが成人の儀――開眼の儀式だ。

やがてセインの番が来る。神官が杖をセインの額の種に当てる。

ところが種は額から落ちなかった。儀式は失敗だったのだ。

この失敗は村にとってあってはならない事だった。

種が落ちない子供はトレントの種に食われ村を滅ぼす。

そのような言い伝えにあったからだ。

そのためセインの追放が決定された。


「父さん、母さん、済まない。開眼の儀式に失敗した。僕は追放だ。今まで育ててくれてありがとう」


 セインは泣きながら父母と抱き合った。

そして意を決すると旅立つことにした。


「エルフの里に行けば、なんとかなるかもしれない。彼らなら森の木々と会話が出来る」

「そうよ、あなたの種と話してもらいなさい」

「わかったよ。エルフの里を目指してみる」


 父親が狩り用の弩弓クロスボウと矢筒をセインに渡す。


「父さん、これ……」


 それは父が愛用していた狩猟用の弩弓だった。


「持っていけ。それがあれば食うものには困らないだろう」

「ありがとう父さん」


 セインは弩弓を手にすると「巻け」と念じた。

すると弩弓の弦が自動的に巻き上げられ引き金に繋がった留め金にセットされた。

巻き上げ機構にトレントが使われている弩弓だった。


「うん。力は使えるな」


 父親はセインが無能力でないことを喜んだ。

母親が僅かな保存食と旅道具を差し出す。

なんだかんだ優しく接してくれていたが、この日のことは予想出来ていたのだろう。

両親にとっても辛い思いだっただろう。


「ありがとう母さん」


 旅の装備を受け取りセインは村を旅立った。

目指すのはエルフの森。長い旅の始まりだった。

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